gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

菊池寛『真珠夫人』その3

2014-05-16 07:35:00 | ノンジャンル
 先日WOWOWライブで『洋楽主義 ビリー・ジョエル』を見て、ビリーのアルバム『52nd Street』を聴き直し、その完成度の高さに驚きました。世界で初めてCD化されたのに納得した次第です。

 さて、また昨日の続きです。
 勝平は瑠璃子と2人きりになるため、葉山の別荘に行くことにした。瑠璃子はトランクの中に短剣を入れた。勝平は本当の妻になってくれと瑠璃子に懇願し、それが拒まれると、力ずくで犯そうとした。するとそこへ勝彦が現れ、勝平と乱闘を演じ、勝平は心臓マヒを起こして死んでしまった。勝平は死の直前、自分の非を認め、瑠璃子に美奈子と勝彦を託して死んでいった。最後に人間の相を現して死んでいった勝平は人間として救われ、勝った瑠璃子は救われなかった。彼女は、荒んだ心と、処女としての新鮮さと、未亡人としての妖味とを兼ね備えた美しさと、その美を飾るあらゆる自由とをもって、孔雀の如く、その双翼を拡げていた。
 音楽会で信一郎は瑠璃子と再会し、その夜の帝劇に誘われた。そこで行なわれた文学談義に、瑠璃子は信一郎のことを「自分を理解してくれた最初の男性」と言い、2人だけでまた話せるように、次の日曜日に自宅に来るように誘った。その日、信一郎は喜々として瑠璃子の邸宅に向かったが、そこには既に多くの男性が招かれていた。信一郎は、かなり激しい失望と幻滅とで、夫人の言葉が耳に入らぬほど不愉快だったが、夫人の鮮やかな姿を見ていると、いつの間にか心が和んでくるのだった。そこでは明治を代表する文豪が話題になっており、意見を求められた信一郎は紅葉を推した。やがて秋山という小説家がやって来ると、信一郎を軽々と論破し、夫人に侮辱されたと思った信一郎は席を立った。瑠璃子は信一郎を追いかけてきて、秋山を含めた取り巻きが帰るまで別室で待ってほしいと言った。それでも信一郎が帰ると言うと、瑠璃子はあっさりと諦め、信一郎は淋しい思いにかられた。邸から出ると、そこでは死んだ青木にそっくりの弟が村上海軍大尉と歓談していた。それを見た信一郎は、腕時計の持ち主が瑠璃子であると確信し、『汝妖婦よ!』とまた心の中で叫んだ。信一郎が自宅に戻ると、瑠璃子の車が先回りして来ていた。運転手が持ってきていた手紙は信一郎の手の中にあった。
 手紙には「さっきはあなたを試したのよ。私は取り巻きの男性たちには飽き飽きしていて、男らしく真剣に振舞う方がほしい。あなたのために、私がどんなことをしたか、するかをお試しになるため、すぐに車で来てほしい」と書いてあった。信一郎は青木の弟を救うため、この機会を利用しようと考えた。信一郎は死んだ青木のノートを武器として、瑠璃子の邸宅に向かった。信一郎は瑠璃子の私室に通されたが、そこには「信一郎、わが恋人よ!」と何度も書かれた紙が置いてあった。現れた瑠璃子に、信一郎は死んだ青木の無念を伝え、男性を弄ぶのを止めてくれるように頼んだが、瑠璃子は忠告ならご免こうむりたいと言うのだった。信一郎は瑠璃子の中に良心など存在しないことを知り、最後の手段として青木のノートを突きつけた。読み終わった瑠璃子は「青木さんも普通の男性と同じように、自惚れが強くて我がままであることが分かった」と言い、信一郎の怒りを買った。瑠璃子は「女性が男性を弄ぶとあなた方男性は、すぐ妖婦だとか毒婦だとか、あらん限りの悪名を浴びせかける。しかし、世間の男性がどんなに女性を弄んでいるかをご覧なさい。女性が男性を弄ぶに致しましたところで、それは男性の浮動し易い心を、弄ぶのにすぎないじゃありませんか。男性が女性を弄ぶ場合は、心も肉体も蹂躙し尽くすじゃありませんか。眼にこそ見えませんが、この世間には男性に弄ばれた女性の生きた惨たらしい死骸が、幾つ転がっているかも分かりません」と言った。信一郎の瑠璃子に対する憎悪は、またある尊敬に変わっていた。旧道徳の殻を踏みにじっている瑠璃子を、古い道徳の立場から、非難していた自分が、かなり馬鹿らしいことに気が付いた。信一郎は「青木の弟だけはあなたの目指す男性から除外してほしい」と頼んだが、瑠璃子は「青木さんの弟がわたくしを慕っていらっしゃるのでしたら、それがあの方の一番本当の生活じゃござませんでしょうかしら」と言うのだった。信一郎は「あなたからの脅威から青木君の弟を救うことに相当の力を尽くすつもりです」と答えた。(また明日へ続きます‥‥)

 →「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/