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西加奈子『ふる』

2013-03-09 08:20:00 | ノンジャンル
 エドワード・ズウィック監督の'10年作品『ラブ&ドラッグ』をWOWOWシネマで見ました。1996年を舞台にした、薬の営業マンとパーキンソン病を患っている女性の古典的ラブストーリーでした。

 さて、西加奈子さんの'12年作品『ふる』を読みました。
 28歳の池井戸花しすは、珠刈さなえと部屋をシェアし、女性器のモザイクがけの仕事をしていますが、猫には見えるが普通の人間は見ることができない、人間や猫の周りにくっついている何か白いふわふわしたものを見ることができ、日常の会話をポケットの中に入れたレコーダーに録音し、寝る前にそれを聞くのを習慣にしています。彼女の2011年12月19日から23日までの日常の生活が描かれるのと平行に、それまで彼女が過ごして来た時間も描かれます。また、これまでの時間の中には新田人生という名前の様々な人間が登場します。(ちなみに最初に彼が登場するのは2011年12月19日のタクシーの運転手です。)
 挿入される彼女がこれまで過ごして来た時間とは、一人っ子だったことで自分の意思を伝える前に物事が進んでいたので、自ら望むことをやめた、祖母と多くの時間を共有した1991年4月14日(ここでの新田人生は動物園で風船を配る被りものをした男)、帰りに寄り道をしたり炭酸飲料を飲んだりすると退部させられる陸上部にいた中学生時代の1997年7月9日(ここでの新田人生は公園でとうせんぼをする小学生)、祖母が亡くなり、母は父と離婚して、祖母の介護の経験を生かして介護の仕事を精力的にこなすようになり、花しすは2人の友人とともに高校生活をエンジョイしていた1999年9月26日、大学に入り一人暮らしを始め、母も一人の女性であることを悟り始めた2002年7月5日(ここでの新田人生は花しすが初めてビールを飲んだ合コンでの相手の一人)、大学を出て就職したデザイン会社で上司と不倫していた2007年2月12日(ここでの新田人生はプリンタの修理にやってくる男)、上司と別れて会社も辞め、今の会社に就職し、下着に生理でない出血をしたため産婦人科に行き、そこで珠刈さなえと出会った2009年8月23日(ここでの新田人生は産婦人科医)、母と一緒に祖母の介護を始めた1994年8月2日、初潮を迎え、祖母の排尿の介護をする母を見ることで、大人の女性器を初めて見、そして祖母の排尿の介護を始めるようになった1994年8月26日です。
 2011年19日から22日の間に、花しすは、気さくな同僚(このうちの一人もめったに会社に姿を見せない外回りの新田人生という男)とノリツッコミの会話を交わしながら仕事をし、小5の時に祖母が脳硬塞で倒れて全身にマヒが残ったことを回想し、直属の上司の不倫話を聞いてやったり、不動産屋で働くルームメイトのさなえが塾教師と付き合うようになったという話を聞いたり、また数日後にさなえから塾教師と結婚するために別居の提案を受けたり、同僚と焼肉を食べに行ったりして、最後の23日を迎えます。23日は休日出勤で一人で仕事場で仕事をするうちに、レコーダーの音を聞きたくなり、その再生を始めます。するとタクシーの運転手の新田人生は、今までいろんな新田人生に会ってきたでしょうと花しすに語りかけ始め、いろんな人との関わりを忘れながら、人は生きているのだと言います。そして花しすが録音をするのは自分を忘れてほしくないからだとし、自分が好きなことは悪くないとも言い、そこからは今まで花しすと関わりのあった様々な人の声が聞こえてきます。すると目の前の女性器から白いふわふわしたものが出て来て、膨らみ、天井に昇るとそれは粉々になり、室内中に散らばります。花しすはそれを初めて見たのは祖母の性器から出て来た時だったことを思い出し、皆同じ女性なんだと思うと、壁に貼られた社訓の中に「しゅくふく」という字が隠されていることに気付き、自分は生きていると実感するのでした。

 最後の「しゅくふく」に至るまで、様々な言葉が「こんな風に、空から降ってくるように、書いてある。」という文章とともに示されていたのが印象的でした。聖=死と俗=生という対立軸でいうと、後者に当たるこの小説は、こった構成ということもあり、すんなりと入っていくのが難しいものでした。次作に期待です。

 →Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto