gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

飴村行『粘膜蜥蜴』その3

2012-08-05 00:13:00 | ノンジャンル
 大島渚監督・共同脚本の'69年作品『新宿泥棒日記』をスカパーの日本映画専門チャンネルで見ました。新宿紀伊国屋書店で万引きをする青年・横尾忠則と、そこの偽店員・横山リエをめぐる物語で、紀伊国屋書店社長・田辺茂一や俳優の佐藤慶、戸浦六宏、渡辺文雄、状況劇場の唐十郎、麿赤児、李礼仙、性科学者の高橋鉄らが本人役で出演し、手持ちカメラを多用したオールロケ、字幕の多様などがゴダールの映画に少し似ていました。

 さて、またまた昨日の続きです。
 雪麻呂は早速、自分の父の病院に入院している美樹夫の元へ行き、ナムールに同行するように頼みますが、ナムールで生死の境を経験した美樹夫は二度とあんなところには行きたくないと言い、同じ部屋に入院していた真樹夫も兄に危険な目を合わせてくれるなと雪麻呂に言います。雪麻呂は軍部に手を回して、美樹夫に軍の命令として雪麻呂の護衛役を担わせることに成功し、美樹夫は否応なく雪麻呂に同行することになります。
 軍の爆撃機と最新式のジャイロを使って1日でナムールの蜥蜴人の村に到着した雪麻呂と美樹夫と富蔵は、長老の元へ連れていかれます。美樹夫から話を聞いた長老は、直接雪麻呂に話しかけますが、華代を殺したことについて長老から聞かれた雪麻呂は、拳銃が暴発した結果華代が死んだとつい嘘をついてしまいます。長老との話が一旦終わった後、富蔵は昨日の朝来ていたという母からの最後の手紙を雪麻呂に渡しますが、そこには、恐ろしい事実が書かれていました。
 母は料理人と会うと、一目でお互いに運命の人と知り、すぐに深い仲となりましたが、ある日、二人が抱き合っている姿を一人の看護婦に見られてしまい、二人のことはすぐに病院中の噂となり、大蔵の知るところともなりました。父は二人を自室に呼び、冷静に二人の話を聞き、母の離婚したいという希望を聞くと、それをかなえてやると言った直後に防毒面を被り、「再婚祝いだ」と言って二人に毒ガスを嗅がせ、意識を失わせます。母が目覚めると、隣には脳を取り出された全裸の自分の体があり、自分の体は下男の富蔵のものになっていました。大蔵は、自分を裏切ったので、妻が忌み嫌っていた富蔵の体に妻の脳を移植し、元の体は死体保管所の徳一の慰みものにし、料理人の藤原は薬物注射をして殺したと言うのでした。母は自殺も考えましたが、クリスチャンであるという理由と、雪朝呂が不憫だという理由でそれを思いとどまり、富蔵の体のまま、今まで生きてきたということでした。
 驚く雪麻呂に、富蔵はこれまでの母からの手紙もすべて自分が書いたものであり、大蔵が現在書いているものも小説などではなく、完成された脳移植の研究結果の論文なのだと言います。蜥蜴人の長老の元に再び呼ばれた雪麻呂は、彼の願いには二つの問題があると言います。一つは華代の心臓が既に破壊されていて彼女を生き返らせることは不可能であること、そしてもう一つは雪麻呂が嘘を言ったことでした。華代を殺したこと、そして嘘を言ったことは重大な罪であり、その報いを受けなければならないと長老は言い、「闇と不動の刑」を申し渡します。その直後、雪麻呂の足は感覚がなくなり、目も見えなくなります。雪麻呂は富蔵に助けを求めますが、富蔵は刑は一生続くと言い、この爬虫人の村に住んで、一生をかけて罪を償ないましょうと言います。俺と一緒にいてくれるのか、と雪麻呂が最後にすがるように富蔵に尋ねると、富蔵は「雪坊、大丈夫よ、私達はずっと一緒」と母の優しい声で雪麻呂に話かけるのでした。

 前作『粘膜人間』に出て来るあの幻想的な毒物「髑髏」に匹敵するものは登場しませんでしたが、敢えていえば、美樹夫が蜥蜴人の長老によって見る夢のイメージにそれに近いものを感じました。残虐な描写については、『粘膜人間』に近いものが味わえたように思います。しかしやはり、肉体関係のあった兄を惨殺してしまう非国民の少女とか、脳を半分破壊された凶暴な少年などが登場する前作には及ばない感じは否めませんでした。不思議な味わいのある小説ではあったと思います。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/