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日本のヒンドゥー教の神々 日本史授業に役立つ小話・小技 20

2024-02-01 06:14:38 | 私の授業
     日本史授業に役立つ小話・小技 20
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埼玉県の公立高校の日本史の教諭を定年退職してから既に十余年、その後は非常勤講師などをしていました。今年度で七四歳になります。長年、初任者研修・五年次研修の講師を務め、若い教員を刺激してきましたが、その様な機会はもうありません。半世紀にわたる教員生活を振り返り、若い世代に伝えておきたいこともたくさんありますので、思い付くままに書き散らしてみようと思いました。ただし大上段に振りかぶって、「○○論」を展開する気は毛頭なく、気楽な小ネタばかりを集めてみました。読者として想定しているのは、あくまでも中学校の社会科、高校の日本史を担当する若い授業者ですが、一般の方にも楽しんでいただけることもあるとは思います。通し番号を付けながら、思い付いた時に少しずつ書き足していきますので、間隔を空けて思い付いた時に覗いてみて下さい。時代順に並んでいるわけではありません。ただ私の専門とするのが古代ですので、現代史が手薄になってしまいます。ネタも無尽蔵ではありませんので、これ迄にブログや著書に書いたことの焼き直しがたくさんあることも御容赦下さい。

日本のヒンドゥー教の神々
 日本のヒンドゥー教の神々といっても、直接日本に伝わったわけではなく、仏教に採り入れられてから、仏国の守護神として伝えられた神々です。ですから表面上では異国風な印象はなく、すっかり仏教に溶け込んでいて、みな「○○天」と呼ばれています。
 まず思い付くのはヒンドゥー教三大神の一人であるある創造神ブラフマーで、仏教では梵天と呼ばれています。ブラフマーは四面四臂(腕が4本)で、乗り物は鵞鳥です。東寺講堂にある国宝の梵天像は、それを忠実に写しており、額に第三の目があるのが特徴です。
 次には雷と戦いの神であるインドラで、仏教では帝釈天と呼ばれています。そして雷を象徴する武器を持ち、白象に乗る姿で表されます。同じく東寺講堂にある国宝の帝釈天像は右手に短い金剛杵(こんごうしょ)を持ち、定石通り象に乗り、同じく額に第三の目があります。梵天と帝釈天は対になって祀られることが多く、東寺講堂でも、その様に配置されています。これらの二神は授業では登場しませんが、寅さんに馴染みのある柴又の帝釈天はよく知られています。また四天王の中の広目天・増長天・持国天は、いずれもインドラの配下です。四天王については天平文化の国分寺や東大寺戒壇院の四天王像の学習で触れますが、いずれもヒンドゥー教由来であり、仏国の守護神であることを強調して言及します。
 クベーラは北方の守護神で、仏教では多聞天、または毘沙門天と呼ばれていて、いわゆる四天王の一人であり、七福神の一人でもあります。授業ではこれも東大寺戒壇院四天王像の一つとして学習します。
 サラスヴァティーは川の女神で、ブラフマーの妻でもあります。腕が4本あり、音楽の神でもあることから、琵琶のような弦楽器を持っています。仏教では弁才天と呼ばれますが、弁財天とも書かれるためか、蓄財の神にもなっています。七福神に数えられるのは、「財」に拠るのでしょう。授業では登場しませんが、鎌倉の銭洗い弁天はよく知られています。上野の不忍池に弁天島があることも、やはり水との縁があるからです。もし各地の寺社でべんてんが祭られているのを見たら、水辺にあるか確認するとよいでしょう。
 ラクシュミは財宝の女神で、ヒンドゥー教三大神のヴィシュヌ神の妻でもあります。腕は4本で、蓮華を持ち、掌から金貨が溢れ出る姿で表されます。仏教では吉祥天と呼ばれ、財宝の神である印象が継承されています。授業では天平文化の薬師寺吉祥天画像を学習します。手には思いのままに財宝を生み出す如意宝珠を持っていることは、ラクシュミの掌から金貨が溢れていることを承けたものでしょう。授業では学習しませんが、浄瑠璃寺の吉祥天像もよく知られています。
 ヒンドゥー教三大神の一人であるシヴァ神は破壊と再生の神で、マハーカーラという別称を持っているのですが、漢訳すれば大黒天となります。それが日本に伝えられて大国主の神と習合し、いわゆる大国様として七福神に数えられています。ついでのことですが、ヒマラヤ山中で修行するシヴァ神の髪のなかにはガンガーという女神が宿り、口から聖水を吹いています。これがガンジス川の源であり、聖なる川とされる所以です。
 ヒンドゥー教から仏教に採り入れられ、日本に伝えられた神々は他にもあるのですが、これくらいにしておきましょう。授業では、いずれも仏教では○○天と呼ばれる天部の仏で、仏国の守護神とされていること、七福神に取り入れられた神(毘沙門天・弁財天・大黒天)もあり、身近な存在であることを確認します。そして一言で「仏像」と言っても、色々な種類と役割があることを理解させます。現代のものですが、もしヒンドゥー教の神像の印刷物を入手できるならば、是非見せておきたいものです。どれも生々しい原色で、蓮華に乗る神や顔や腕が複数ある神の姿を見れば、仏教がインド伝来の宗教であることを理解できることでしょう。最近はインド料理店が多いので、尋ねると教えてくれます。ついでのことですが、インドの貨幣があれば、日本円と両替しておきたいものです。ガンジー像やサルナートの柱頭(アショーカの獅子柱頭)が描かれていて、世界史の教材になりますから。

おまけ
 先日、自衛隊の幹部をしている私の三男が、合同演習のためインドに行くことになり、挨拶の席で日印友好に相応しい話をするので、何か面白いネタはないかと質問されました。そこで次の様に答えました。
 「実は私の父は高校で日本史の教師をしています。それでこの度インドへ行くにあたり、インドと日本のつながりというと何を思い浮かべるかと質問しました。すると大変面白い話をしてくれました。日本ではインドの民族宗教であるヒンドゥー教の神々が今も信仰されているというのです。それらの神々は仏教を通じて日本に伝えられたもので、シヴァ神・ブラフマー神・ラクシュミ神・サラスヴァティー神などが知られています。ただし名前は日本風で、シヴァ神は大黒天、ブラフマー神は梵天、ラクシュミ神は吉祥天、サラスヴァティー神は弁才天と言います。いずれも幸福をもたらす神として信仰されていて、日本人なら誰でも知っているのですが、それらがインド由来であることまではほとんど知らないでしょうし、もちろん皆様もほとんど御存知ないと思います。インドの人達にとって大切なものが、今も日本でも大切にされているということに、インドと日本の友好関係が歴史的なものであることをあらためて認識いたしました。大変面白い話だと思いましたので、御紹介いたします。」


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