えくぼ

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苺を産む男

2017-03-15 10:07:17 | 歌う
      苺を産む男

✿ 管理され実りし苺はどれもみな同じ真紅の小さき円錐  松井多絵子

 紫陽花の咲きはじめる頃に苺が店先にならび始める。小さな浅い木箱に入れられた小粒の不揃いの苺、それを潰して牛乳と砂糖をたっぷりかけて食べた、半世紀も前の初夏。いまは晩秋から大粒の苺も売られ、ほとんど一年中苺を食べられる。

「どんな果物も、最近は甘いものが人気です。でも、甘ければいいというものでもない。ほどよい酸っぱさが甘さを引き立て、糖酸比のバランスで味にインパクトが生まれます。ぼやっとしたものは、作りたくありません」と語る岩佐大輝氏は1977年生まれ。大学在学中に起業。3・11後に農業生産法人GRAなどを設立。母方の祖父がイチゴ農家だった。

「大きいイチゴは、先端の糖度を思いきり高くします。最初の一口の舌で極端な甘さを味わい齧るうちに第2の刺激、酸味できゅっと締まる。イチゴを食べるという体験価値を、最大化したいのです。濃淡のない味は飽きられます」昨日の朝日「リレーおぴにおん」を歌人の言葉のように読んだ。「人間は、ときに楽な環境を飛び出して、つらい環境に身をおきたくなるもの。一方で、きついだけでは耐えられなくて癒しを求める。起伏があるからこそ味わい深い」。と言う岩佐氏は詠むように苺を栽培しているらしい。

 岩佐氏は東京のIT企業の社長だったが3・11で故郷の宮城県山元町を津波が襲った。たどり着けたのは、3日後、泥かきを手伝いながら「復興させたい」と思った。町の人はみんな、名産のイチゴを誇りにしていた。調べるとイチゴの市場は大きく、海外にも通用すると判断した。栽培歴35年以上の大ベテランに教えを請い、最近ようやく成果がでてきて納得できる糖度や酸度、形をつくれるようになってきた、そうである。

 岩佐大輝さま わたしもアナタの栽培する苺のような歌を詠みたいです。

                  3月15日 松井多絵子