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光森祐樹と佐佐木定綱

2017-03-04 09:17:35 | 歌う
     光森祐樹と佐佐木定綱

 現代短歌新聞3月5日、光森祐樹歌集『山椒魚が飛んだ日』について佐佐木定綱が解説している。光森は2008年角川短歌賞を受賞、佐佐木も昨年角川賞を受賞した。共に歌壇の新鋭である。定綱の受賞作は『魚は机を濡らす』、現在「心の花」に所属している。

『山椒魚が飛んだ日』は2012年から2016年までの作品が収められている。その間、歌も世界中を飛び回る。マダガスカル、台北,京都、ドイツ、ツバルという国も。定綱はこの歌集から次のような歌を抄出し解説している。
 
◓ 婚の日は山椒魚が二00Kを跳んだ日、浮力に加はる揚力
 
 山椒魚が飛んだ日は結婚の日であり、東京から石垣島へと移住した日である。


◓ 砕けつつ樹のうらがへる音をたてぼくらはまつたき其のひとを産む
 
 出産の緊迫感。樹のイメージが特徴的である。子を産むときに妻は人であることをやめ、我もまた樹になってゆく。

◓ わたしのことそれともあの子のことを問ふ君にだいじょうぶと繰り返へす
 
 詞書きには「後産ののち妻が気をうしなふ」とある。妻の苦しみに対し、自らの無力さが思い知らされる。吾も代償を支払わなくてはならない。

 削ぎ落とされた歌はより純化されていく。全てを捧げたあとに残ったのはただ、歌だけである。と。これは定綱は最後の段落の言葉である。

 ※ 私が石垣島を訪れたのは4年前の今頃である。エアバスを下りたとき初夏のようだった。マングローブがいたるところに群生し日本ではない南国のような感じがした。そこに新婚の光森夫妻そして子供が生まれる。歌も次々に生まれたことだろう。『魚は机を濡らす』ほど魚をおもう定綱の石垣島への憧れが伝わる解説である。島国に住みながらさらに小さな島を恋う、島の高台に立てば海原のなかにいるような石垣島で私も暮したい。
                  
             3月七日 松井多絵子