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山田航の推敲法

2016-02-16 09:49:53 | 歌う

                  山田航の推敲法

 ある女性歌人の1首に「ご苦労さまです」と書かれたのを見たことがある。たしかに、その歌は難産で生まれた児のような感じもした。力作という評でなく、「ご苦労さま」は評者の皮肉だろうか。今日は角川短歌2月号特集 わたしの推敲法・山田航を少し読んでみる。

    ♦ 鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る 

 「当たり前じゃないの」「これでも短歌なの」「居酒屋帰りの駅での飲み友との会話?」いや、そんなことはない。何度も読んでいると 「これはすごく気の利いた1首だ」と私はため息。しかし山田は「ボクだって詠むのに苦労してますよ」と次のように書いている。

 「私はシンプルな口語の歌ほど推敲に時間をかける。いかにも推敲してなさそうに見える歌は、推敲してなさそうに見せるための推敲を繰り返している。この歌は改札前で思い付き、ホームへ行く手順を実際に確認しながら作った。「飛び込みじさつをする人も切符代を払わなけりゃホームに行けない」という発想自体はすでに完成している。
   

 (原案)地獄への通行料だ電車へと飛び込む人の片道切符   

 (第二案) 鉄道で自殺するにも改札をくぐる切符の代金は要る

 「くぐる」は華美な表現に思えてしまい「改札を通る」という即物的な表現に変えた。この歌は徹底的にシステム化された現実世界の取材、文体も修辞も抑制したかったらしい。修辞の華やかさはほどほどにすることですね、山田航さま」

                       2月16日  松井多絵子

 

 

 

8原案。