✿「初夏の森かな笹公人」✿
短歌の道を歩きながら私は何人に、、いや何十人、何百人に追い越されたことだろう。笹公人もその一人だ。私より6年遅く「未来短歌会」の会員になり今や選者。NHK学園講師、歌人協会会員、文芸家協会会員、大正大学客員准教授、まだ30代後半だ。若さと力があふれている。
NHK短歌5月号に笹公人が ✿「アイドル・28首」を書いている。アイドルをテーマにした著名な歌人の歌を取り上げて解説している3頁。お恥ずかしいが私はこの28首の1首さえ知らないかった。怠け者の私は若い子にたやすく追い越されてしまったのである。
「アイドルを詠んだ歌は意外にも少ない。おそらくその原因は、アイドルの賞味期限の短さにあるだろう」 という書き出しではじまる、シンプルな文。読者に親切な解説だ。彼の文はいつも読みやすく分かりやすい。気が利いていて楽しい。
① うつくしきひとみを持てる原節子映画にてわれ幾たび見けん 佐藤佐太郎
② ザ・ピーナッツ伊藤姉妹の造作の微差たのしみき昭和のテレビに 島田修三
③ きみまろが「あれから四十年ッ」と語るとき沼の藻のごと女らさやぐ 栗木京子
④ 地球からいちばん遠き星の名にふさわしきかなマリリン・モンロー 大滝和子
⑤ 声がまだ光で記憶されぬころ聴きいし本田美奈子の声よ 吉川宏志
① 佐藤佐太郎が原節子にあこがれていたとは。昭和の初めがなつかしくなる。⑤は笹公人の解説によると「CDが普及する直前の時代に大活躍した本田美奈子」だそうである。
「清純派アイドルとして詠まれた少女が、20年後には不倫で変身。歌意が通じなくなるという事態も起きかねない」と笹公人。アイドルがオバアサンになるのも淋しいです私は。
笹公人さま 貴方は オジサン、まして オジイサンにはならないでね。
5月26日 松井多絵子