ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Tenderly Ⅲ

2009-09-20 23:05:18 | Weblog
音楽はメロディーとリズムとハーモニーとよく言われるけど、それぞれを切り離して考えられるものではない。それに音楽の成り立ちから考えてもメロディーが優位を保っていることは確かだ。メロディーとリズムはそれぞれいろんな目盛りで刻まれている。極端にいえばどんな細かい目盛りでもオーケーだ。でもハーモニーとなるとちょっと事情が変わってくる。同時にいくつもの音が鳴りその重畳効果を認識するためにはかなり限られた目盛りでないと人間の脳がついていけない。オクターブを12個の音で区切るというのは、和声の進行を分かりやすくするためという理由が一番大きい。そして和声を重要視するというのがここ何百年の音楽の価値観となってきた。もちろんいつの時代もそれに反抗するものは出てくる。でも反するものが出てくるということ自体が「それ」に牛耳られているという証拠だ。ハーモニーが音楽をひっぱる、クラシック音楽を頂点とする西欧音楽はまさにそれだ。そしてアメリカで生まれたジャズも価値観の多少の違いはあっても「構造的」という点では同じ、インプロヴィゼーションをする分むしろもっと構造を重視しているかもしれない。これはジャズを長い間やっている人はみんな気づくことだ。ビルエヴァンスはジャズは感覚で演奏するとたびたび言っている。卓越したジャズミュージシャンは異口同音にこの言葉を口にする。「感覚」、「フィーリング」、やりぬいた人たちが言うこの言葉の意味はなんだろう?