'73年のアルバム「Headhunters」がハービーハンコックのターニングポイントになった。中でもこの「Chameleon」はA面の1曲目で15分を越す長さで収録されており、印象的なシンセサイザーのベースラインとスペイシーでシンプルな曲の作りで大ヒット曲となった。とにかくこのアルバムは収録されているのがたった4曲だ。つくり方もかなりラフと言えば言える。でもセッションやライブパフォーマンスで鍛えられこなれた音だ。とくにリズムセクションは圧巻だ。ハービーはこの前の数年間でいろんな経験をしたのかもしれない。アルバム作りのどこに力を注ぎ、まとめ上げるか、自分のイメージするものと実際の音とのギャップをどう埋めるか?ハービーほどの才能とこの頃もうすでに持っていた充分なキャリアを持ってしてもミュージシャンが実際にプレイしている時のイメージとアルバムとして出来た「結果としての音」、そしてそれに対する世間の評価、これらをうまくかみ合わせるということは大変なことなのかもしれない。音楽には「馴染み」が必要だ。簡単と思われる曲でも何度も演奏し、色々工夫しているうちに自分のものになってくる。聴いてる方にもそういうことが言える。最初は奇異に感じる音楽でも日常的に接しているうちにその真意が分かってきて好きになってきたりする。ハービーは経済的な失敗もあって前のバンドを解散したあと、この新しいバンドでずいぶんセッションをやったようだ。そしてお互いの音を理解して馴染ませてそのライブ感覚をレコーディングに持ち込んだ。アルバムが世に出た時、ハービーの変節みたいなことも言われてたけど、そのうち聞く側もこのサウンドに馴染みができてきてこのアルバムがジャズミュージシャンとしてのハービーの真骨頂だと思えるようになってきた。このアルバムがハービーハンコックの代表作になり、大ヒットアルバムになったのはこの音楽の真意が世間に認められたということだと思う。本当に良かった。