ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Ⅵ Circle

2007-11-12 03:06:41 | Weblog
この「Circle」という曲は「Miles Smiles」に収録されているものでこの曲は以前のマイルスの「ドラッドドッグ」という曲を元にしたもののようだ。でもこのテイクをハービーの経歴のひとつとして取り上げるというのはなかなかのものだ。ハービーの音楽性の幅広さがよく分かる。「Miles Smiles」という作品はマイルスのアルバムの中でも秀逸と言っていい作品で当時のマイルスバンドの音楽的レベルの高さがよく出たアルバムだと思う。この「Circle」という曲自体はやってみると、ホントに難しい。コード進行がやっかいだ。他に言い様がない。このアルバムの他の曲は実は全然違って、ほとんどルールのない形の曲をこのメンバーでしかできないやり方ですごい音楽にしているんだ。絶対に他の人はマネできない。「この時期のマイルスのバンドさえ聞いていればモダンジャズは全て分かるから他のバンドは聞く必要はない。」と、ジャコが言っていた。まあちょっとオーバーなところもあるけど、なるほどとも思う。でもこのバンドでさえやはりほとんどルールのないこのやり方でヒップでかつある程度バランスのとれた観賞に耐えられる音楽にできるのは、ほんの時々だ。ほとんどは失敗する。この頃、マイルス以外のメンバーはこういう曲がレパートリーとしてあるんだからライブでもやろうとマイルスにせまったりしたらしいが、マイルスはやはりバンドリーダーとしての責任から昔の秩序あるレパートリーをやっていた。つらいところだ。でも一端こういうやり方を覚えるとどんな曲をやってもそうなってしまう。この頃のツアーでの演奏を聞くとレパートリーは昔のままなのにもう崩壊寸前だ。これがすごいといえばすごいけど・・・。どうだろう?もう何かを変えないと手に負えないという感じだ。受け取り方はいろいろあるけど、こういう音楽的な混乱が起きるというのは本当に生きた芸術としてジャズが存在していたという証だ。本当のジャズスピリットだ。