まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

積極的差別是正措置

2010-12-27 12:38:15 | 性愛の倫理学
1999年に定められた 「男女共同参画社会基本法」 は、男女間の格差をなくしていくために、
「積極的改善措置」 を策定・実施していくことを国に対して求めています。
この 「積極的改善措置」 は和製英語で 「ポジティブ・アクション」 と呼ばれていますが、
もともとの英語では 「アファーマティブ・アクション」 で、
「積極的差別是正措置」 と訳されたりもします。
弱者集団は、歴史的経緯のなかで形成された不利な環境に置かれているため、
たんに形式的な平等 (機会均等) を認められただけでは差別から抜け出すことができないので、
その弱者集団に属している者たちに対して、採用・昇進特別枠を設けるなどといった、
直接的優遇措置を講じることによって差別を積極的に解消していこうとするものです。

私はアメリカにおける 「アファーマティブ・アクション」 について、
ある小説の中で読んで、初めてその存在を知りました。
元FBI捜査官であるポール・リンゼイがまだ在職中に書いた小説 『目撃』(講談社文庫) です。
翻訳は1993年に出版されて、たしか出た直後に読んだと思いますので、
男女共同参画社会基本法が制定される6年も前の話です。
原作が書かれたのは1992年。
下記の引用箇所を読んでみると、その時点でアメリカのアファーマティブ・アクションは、
すでに相当歴史を積み重ねていたことがわかります。

この小説は直接的なテーマとしてではないのですが、
FBIや警察内部の堕落や腐敗をリアルに描き込んでいます。
アファーマティブ・アクションの話が出てくるのは、
主人公や本筋とはまったく関係ない、デトロイト市警の警官2人 (ベテランと新米) の会話の中でです。
2人が初めて組んでパトロールするパトカーの中の会話という設定です。
この中に出てくる 「差別撤廃措置」 というのがアファーマティブ・アクションのことです。



「エディ・トーマスにはもう会ったか? 毎日、書類仕事やってる男だ」
「まだ会ってないと思います」 新米は警戒しながら、窓の外へ向かって答えた。
「背が高くて、フットボール選手みたいな体つきのやつだよ」 新米のそっけない態度にかまわず、運転席の警官がいった。若いほうがかぶりを振る。「ともかく、そいつが巡査部長の昇任試験を受けた。警官になって15年目だ。優秀な警官だ。ほんとにできるやつで、試験は90パーセントできた。巡査部長になるのは全部で66人。彼は30番目の成績だった。だったら昇進リストの前半に名前が載ると思うだろ? とんでもない!」 彼は吐きすてるように、とんでもない! といった。「差別撤廃措置ってのがあるんだよ。そのため、白人女を8人、黒人女を8人、黒人男を25人昇進させたあと、どんじりに白人男25人がつくってわけだ。したがってそいつらを全員先に置くと、やつは72番目になる。足切りラインの5番下だ。昇進した41人の黒人男女のうち、エディより試験の成績がよかったのは2人きりいなかった。それから、10年以上警官やってるのは1人もいない。エディは昇進できなかったばかりか、いまはそいつらの下で働いてんだから、ひどいもんだ。15年のキャリアを無駄にしたうえ、自分よりは絶対に優秀になれないやつの下で働らかにゃならん。なんでそいつらが優秀になれんかわかるか?」 若いほうはだまっていた。興奮した相手の声の調子からして、つづいて答えが出てくることがわかっていたからだ。「実力で手に入れた地位じゃないからだよ。だから絶対にその地位にふさわしい能力は身につかんのさ。そして、こういった昇進がおこなわれるたびに、警察は人材を失っていく。そのあとエディ・トーマスが、働く気をなくさなかったと思うか? 10年前に辞めときゃよかったと思っていないか聞いてみな」



アファーマティブ・アクションに対する激烈な批判です。
積極的差別是正措置に対しては逆差別なのではないかという批判がよく向けられるのですが、
まさにそうした観点からの描写となっています。
このような批判に関する是非・賛否については今日は論じないことにしますが、
アファーマティブ・アクションとの最初の出会いがこれでしたので、
私のなかではどうしても積極的差別是正措置に対して懐疑の念を禁じえません。
それに加えて、日本の 「男女共同参画社会基本法」 は諸外国のものと比べても、
ある大きな問題を抱えています。
先に引用したウィキペディアではその問題にも触れているのですが、
この点に関しても別の機会に論じたいと思います。


P.S.
本題とは関係ありませんが、この小説は大のお気に入りです。
私のなかでのミステリー部門第1位といっていいでしょう。
何度読み返したかわかりません。
トイレに持ち込んで読んだりしては同じ箇所で涙を流しています。
人気作家のパトリシア・コーンウェルがこの小説を絶賛したというので有名になりましたが、
彼女の女検屍官スカーペッタ・シリーズよりもはるかに面白いと思います。
年末年始ヒマをもてあましている人はぜひ読んでみてください。


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