まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

はじめまして、愛しています。

2016-08-12 09:10:54 | 人間文化論
だいたいドラマをリアルタイムで見ることってなかなかなくて、
たいていは自宅で録画しておいたものを放送終了後しばらく経ってから見るとか、
あるいは、あとから噂を聞きつけてTSUTAYAで大人借りして見るということが多いのですが、
今クールは珍しく何本かリアルタイムで見ているドラマがあります。
(といっても放送時間中にというわけではなく、録画したものをその週のうちに見るということですが…)
木曜日の夜はなんといっても 『はじめまして、愛しています。』 でしょう。



これはもう設定からしてヤバイとわかっていました。
実の親から虐待されていた子どもと特別養子縁組するというお話なのです。
血のつながらない親子ものに弱いまさおさまとしては必見じゃありませんか。
ちょっと重たいテーマですので、ドラマとして毎週見る気になれるかおっかなびっくりでありましたが、
見始めてみたらどっぷりはまってしまいました。
もう毎週号泣ですよ

出だしは軽い感じだったんです。
尾野真千子が演じる梅田美奈は、プロのピアニストになるまでは子どもは作らないと決めて、
10代の頃からコンクールに挑み続けているもののずっと負け続け、
今はもう35歳の個人ピアノ教室の教師 (子どもが苦手で、心の声が常にブラック)。
その夫で、江口洋介が演じる梅田信次は、「ファイト」 が口癖のひたすら明るく前向きな不動産屋。
ドラマ 『のだめカンタービレ』 を見慣れてしまった者にとっては、
尾野真千子のピアノ演奏シーンは最初のうち何だかとても心許ない感じがしましたが、
物語が進むにつれて、彼女が真の才能に恵まれていなかったことを表すために、
わざとこれくらいにしていたのかもしれないとすら思えてきました。
そして、何と言っても懐かしいのは江口洋介です。
彼は 『ひとつ屋根の下』 のときのあんちゃんそのままなのです。
むちゃくちゃハイテンション、ムダに元気です。
あれからもう20年以上経ってるのにまったく変わっていません。
江口洋介スゲェなと思いました。

しかしながら、この主演の2人を押さえて、このドラマを成り立たせている真の主役は、
家に監禁され虐待され逃げ出してきた男の子を演じている横山歩であると断言していいでしょう。
今年の主演男優賞は横山歩で決まりです。
もう何と言ったらいいか、ホンモノにしか見えません。
たぶん、そういう目にあって施設で心を閉ざして暮らしていた子をスカウトしてきたんでしょう。
第4話で初めて言葉を発したときに、あ、今までのは全部演技だったんだと気づかされた感じでした。
いやあ末恐ろしい子どもです。
柳楽優弥を抜いちゃうかもしれません。

さて、そんなメンバーでお届けしている 『はじめまして、愛しています。』 ですが、
血のつながらない親子の交流を描く一方で、
血のつながった親子の断絶も描いていてメシウマです。
主人公の男の子はまさに血のつながった親から虐待&育児放棄されていたわけですが、
それを引き取る2人のほうも自分の親とはまったくうまく行っていません。
藤竜也が演じる、梅田美奈の父親は世界的に有名な指揮者ですが、家庭をまったく顧みず、
それを苦に妻 (美奈の母) は美奈が幼い頃に自殺してしまっています。
美奈は、音楽のことしか頭になく自分の話を聞こうとしない父親を憎んでいると同時に、
一緒に死のうと言ってきた母親の手を離してしまったことを今でも悔いています。
浅茅洋子演ずる信次の母親は、夫と長男が事故死してしまったことを受け入れられず、
それ以来アルコール中毒になり育児放棄して、今は介護付き老人ホームに入所しています。
信次はそんな母親を許していないのか、母親を遠ざけてなかなか会いに行こうとしません。
そういう彼らですから、果たして自分たちで子どもを産んで育てていたとしても、
真っ当な親になれたかどうか疑わしいところです。

そんな彼らが虐待されていた子どもを特別養子縁組で引き取ることになりました。
なぜそんなことになってしまったのかも丁寧に描かれています。
彼らをつなぐのは音楽 (美奈のピアノの調べ) です。
これまでもいろいろな曲が効果的に使われていました。
中でもこのドラマの根底に置かれているのがドレミの歌です。
あの歌詞に出てくる小物が、ちょっとやり過ぎなくらい取り入れられていました。
庭に逃げ込んできた男の子に差し出したドーナツ。
美奈の得意なレモネード。
信次の決まり文句の 「ファイト」。
美奈が老人ホームを訪ねる日はいつも青い空。
信次の応援グッズのラッパ。
シの音の調律が狂っているピアノ。
そんなみんなを象徴しているのがドレミの歌なわけです。

これまで読んだり見たりしてきたこの手の物語って、
すでに時間を共にしていて、愛が育っている上でのお話が多かったように思います。
それに対して今回のこのドラマは、縁もゆかりもない大人と子どもが初めて会って、
そこからどうやって血縁ではない親子の絆を築いていくか、その過程を描いています。
それが簡単な道のりではないことを、たぶん現実の知見も踏まえて冷徹に描き出しています。
だからこそよけいにタイトルの 「はじめまして、愛しています。」 の意味がわかりませんでした。
初めて会ったときにすでに愛が芽生えているわけなどないだろうと思ったからです。
初回からずっとタイトルに対する違和感を覚えていて、見るたびにそれがふくらんでいましたが、
第4回の放映を見てその疑問がみごとに吹き飛びました。
なるほど。
だから 「はじめまして、愛しています。」 だったのね。
うーん、やられました。
みごとです。
まだ放送半ばで今後どう話が展開していくかわかりませんし、
また視聴率がどうなのか、ネットでの評判がどうなのかまったく知りませんし知りたくもないですが、
血のつながらない親子ものが大好きな私のなかでも数本の指に入る大切な作品になりそうです。
とりあえず、横山歩の演技を見るためだけにでもぜひ一度ご覧になっておくことをオススメします