まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

谷岡先生の教育哲学 (その1)

2012-03-22 10:55:54 | 教育のエチカ
古い話で恐縮ですが、今ある仕事でちょっとお世話になっているために、
谷岡先生のことを思い出してしまいました。
みなさん、谷岡先生ってご存じでしょうか?
谷岡肇先生です。
そうです、『のだめカンタービレ』 に出てくる音大のピアノ科の先生です。
主人公の野田恵 (通称 「のだめ」) が音大での最初の3年間お世話になっていた先生です。
私はこの作品、マンガドラマも見ましたが、
ドラマのほうは絶妙のキャスティングで原作マンガの世界をみごとに実写化していました。
そのドラマでは谷岡先生の役を西村雅彦が、
カツラをつけあのおでこを封印して演じていました。

谷岡先生は学生たちから 「オチ専」 というあだ名をつけられています。
落ちこぼれ専門のダメ先生という意味です。
この人のセリフがいいんだなあ。
教育というものについていろいろと考えさせられます。
何回かに分けていくつかのレベルで考察していきたいと思いますが、
最初にすっかり共感してしまったのは、
谷岡先生が自分のことを分析してみせたシーンでのセリフでした。

のだめは音大に入ってもそのピアノの才能を見出されないまま、
本人も幼稚園の先生になることを目指して教員免許の勉強ばかりしていました。
その間、のだめの担当をしていたのが谷岡先生です。
ところが3年生のときにあることがきっかけでのだめの才能が知られるようになります。
するとたちまち担当替えさせられて、
エリート専門の 「ハリセン」 こと江藤耕造先生がのだめの担当ということになってしまいます。
しかし、のだめとハリセンは反りが合わず、
のだめはハリセンのレッスンを避けて逃げ回っています。
そんな様子を見ていたのだめの恋人 (?) 千秋真一は、
谷岡先生に今まで通りあなたが担当してやればいいじゃないですかと迫るのですが、
それに対して谷岡先生はこう答えたのでした。

「ぼくはね、やる気のない生徒にやる気を出させるほどやる気のある教師じゃないんだよ。」

ちょっと長めでスラスラとは言いづらいんですが、
「人民の人民による人民のための政治」 を彷彿とさせるくらいの名ゼリフです。
そして、まさに谷岡先生らしい、みごとな自己分析になっています。
このセリフを初めて聞いたとき、塾で教えていた頃の自分、
福島大学に来たばかりの頃の自分とピッタリ重なり合ってしまいました。
これまでにも何回か、大学院時代に、
中萬学院という塾で非常勤講師をしていた頃の話を書いたことがありますが、
そのうちのひとつでこんなふうに回想したことがあります。

「最後まで授業に対する苦手意識は払拭できませんでした。(中略)
 塾の場合、成績別クラス編成になっていて、
 最後の頃になると、わりと成績のいいクラスなら何とか教えられるようになっていましたが、
 勉強が嫌いでだから勉強ができないという子たち相手ではまったく歯が立たず、
 自分は教師には向いていないなあと痛感させられる毎日でした。」

自分はそういう、やる気のない生徒にやる気を出させることができないやる気のない教師でしたが、
塾にも、専任・非常勤問わず、すごい先生はいるんですねぇ。
「やる気のない生徒にやる気を出させるほどやる気のある教師」 が。
私がいくらがんばっても、話は聞かない、ノートも取らない、
何も答えない (答えられない)、宿題なんか絶対にやってこない、みたいなクラスであっても、
そういう先生たちの授業のあとはみんな目を輝かせて職員室にやってきて、
なんかいろいろと質問とかしちゃったりしているんです。
はっきり言ってものすごい嫉妬を感じるとともに敗北感にうちのめされていましたね。
ここで植え付けられた、自分は教師に向いていないという感覚は、
大学に赴任してからもけっこう長い間持続していて、
授業に対する苦手意識を払拭することができずにいました。

谷岡先生のあのセリフに出会ったのは、そうした苦手意識から脱却できた後のことでしたが、
もっと早くに知っていれば、もっと早く気がラクになれていたかもしれません。
自分のことをあんなふうに言い切れる、そんな教師がいてもいいんだなあという、
安堵感を与えてもらうことができました。
言われてみれば大学の教員ってほとんどこういう人ばかりですよね。
高度に専門的なことを学ぼうという意欲をもって入学してきた大学生の相手はできるけど、
その科目に何の興味も関心もないような学生にやる気を出させることなんてできない。
自分はその分野に最初から興味があったから大学院まで進んで研究者になったけど、
そうじゃない普通の大学生のことなんてまったくわからない、
彼らに自分のやっていることの楽しさを伝える伝え方がわからない、それが大学教員です。
そこに安住していいとは思いませんが、
まずはそのことをしっかり自分で認める必要があると思うのです。
そういう自覚を与えてくれたという意味で、あのセリフは私にとって天啓でした。

この考察、まだ続きます


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6 コメント

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大学での教育 (サプライズ)
2012-03-22 21:48:50
大学での教育について考えてみると、大学とは本来学問の場であり、その分野に興味のある人間が集まるはずです 基本的には興味のある人向けの話を軸に、ない人向けについての話は少なくても と思います 結局興味を持つきっかけは与えるに過ぎないと考えます

追伸:卒コンではタメになる話をありがとうございました
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やる気のない生徒 (ししまる)
2012-03-23 01:11:01
大学時代のわたし、やる気のない生徒に見えていたのだろうなぁ(汗)
自分を啓蒙しながら、これからもやる気だして、てつカフェ参戦します!!
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Thanks! (まさおさま)
2012-03-27 08:15:58
サプライズさん、いいコメントありがとうございました。
「その2」 でお答えさせていただきます。
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ゲゲッ! (まさおさま)
2012-03-27 08:23:03
ししまるさん、コメントありがとうございました。
「やる気のない生徒に見えていたのだろうなぁ(汗)」?
ホントはやる気あったっていうことでしょうか?
申しわけありませんでした。
そのやる気、まったく気づいておりませんでした。
やはり私はダメ教師です。
でもいつ会ったって、恋愛話しかしたことなかったじゃん。
君の口から授業やゼミの話なんて聞いた覚えないけど…。
大学サボって彼氏とという陰で、勉学にも励んでいたのかな?
だとすると本当に私は人を見る目がないな。
ショック
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なるほど (ししまる)
2012-03-31 23:40:01
やっぱり。予想通りの展開です。ししまる、これでもやる気あると思っているのですが…自分では。
確かに、おっしゃるとおり恋愛の話ばっかりしています(ToT)でも、彼氏と…で、大学サボりまくってないです!!
寝坊した日ありますけど。すみません。先生の授業は、ちゃんといってたはずなので、「Mっち」がふきこんだイメージじゃないですか?絶対イメージ先行ですよ。169単位取得して、ダブってもいないのに…この扱い…ひどい(涙)
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教師失格 (まさおさま)
2012-04-01 01:46:06
そうだったんですか。
ホントにショックです。
私は人を第一印象で判断してしまうんですね。
たいへんお見それいたしました。
ぎゃふん。
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