まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

ケアスティング 『自由の秩序』 完成!

2013-01-31 18:54:52 | カント倫理学ってヘンですか?

Wolfgang Kersting の名著 『Wohlgeordnete Freiheit』 の翻訳が出版されました

ケアスティング 『自由の秩序』 ミネルヴァ書房です。

副題は 「カントの法および国家の哲学」。

カントの法哲学・政治哲学を研究している者にとっては不朽の名著の本邦初訳です。

原題を直訳すると 「よく秩序づけられた自由」 となります。

一般に、自由と秩序は対立する概念と捉えられがちですが、

前期の 「倫理学概説」 でも話したとおり、完全なる無制約の自由というのは意味をなさないので、

自由という概念を実践的・政治的に有意味に語るためには、

普遍化可能な自由、他人の自由と両立可能な自由という制限付きの自由を考えざるをえません。

そのような自由を提唱した思想家のなかでも代表者と言えるのがカントですので、

この 「よく秩序づけられた自由」(=「自由の秩序」) というタイトルは、

カントの法・政治哲学をみごとに集約した表現と言えるでしょう。



その名著を総勢6名のチームで4年間かけて翻訳しました。

そして、この翻訳をしている最中に 「3.11」 が起こったのです。

ちょうどその春休み中に担当箇所を最後まで一通り訳し終えなければならなかったのですが、

学内行事やもろもろが立て込んでいて、とてもじゃないけど終わりそうもない状況でした。

そんなときに東日本大震災が発生し、それと同時に福島第一原発事故が生じました。

いろいろあっていろいろ考えた末、私は3月17日から3月末まで東京に避難しておりました。

その間ずっと東京の家や近くの喫茶店でこの翻訳作業に取り組み、

何とか最初の訳稿を完成させることができました。

そういうわけで、この本は私にとって 「3.11」 の記憶と切り離すことのできない、

思い出に残る仕事だと言えるでしょう。

もちろん、そこから果てしないチェックや改訳、他の訳者との訳語のすり合わせなどがあって、

一通り訳し終えたからといって仕事が完成したわけではまったくなく、

したがってその後2年近い時間がさらに経ってしまったわけですが、

それでもあの恐怖と不安に満ちた緊迫した雰囲気のなかでの作業がなければ、

この仕事は完結していなかったのではないかという気がします。

税抜き本体価格7,000円という高価な本ですので、

よっぽどカントの法・政治哲学が大好きだという人にしかお勧めできませんが、

興味のある方は図書館などで一度手に取ってみてください。