まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

脳死・臓器移植の実施件数

2010-06-20 17:13:27 | 生老病死の倫理学
理工学類の樋口良之先生と2人で担当している、
共通領域 (いわゆるパンキョー科目) の 「倫理学」 ですが、
先週から私の番になり、脳死・臓器移植について詳しく論じているところです。
まずは脳死と臓器移植に関する歴史的経緯を説明させてもらいました。
1968年の和田移植の影響により長らく日本では脳死・臓器移植はタブー視されてきました。
30年ほどの停滞があったのち、今からほんの十数年前の1997年、
現行の臓器移植法がやっと成立・施行されました。
昨年、その改正法案が通ったということは、
このブログでもご紹介しましたが、
間もなく今年の7月17日から施行されることになります。

さて、授業のなかでは、学生の皆さんに、1997年の臓器移植法の施行以来今日までに、
日本では何件の脳死・臓器移植が実施されたと思うか、予想してもらいました。
現代の脳死・臓器移植では1人のドナーから、
心臓や肺や肝臓など複数の臓器が提供され、複数のレシピエントが救われるわけですが、
1人のドナーから何人のレシピエントが臓器を提供受けようが、
それをひっくるめて1件と数えることにして、
これまでに何件の脳死・臓器移植が行われたか (つまり何人の脳死者が臓器提供したか)、
を予想してもらったのです。
みなさんはその数字をご存知でしょうか。
ご存知なければぜひ予想してみてください。
日本ではこれまでの約13年のあいだに何件の脳死・臓器移植が行われたでしょうか?






















学生で正確に知っている人は1人もいませんでした。
私だって最新のデータを常にチェックしているわけではありませんので、
それは別にかまいません。
それにしても彼らが予想した答えはまったくバラバラでした。
思わずほほ笑ましくなるくらいです。
一番多めに見積もった答えは30,000件でした。
30,000という数字を書いた学生は2人いました。
一番少なく見積もった答えは3件でした。
たしかに最近いちいち脳死・臓器移植が行われてもあまり報道されなくなっていますが、
それでもニュースでこの話題に接する機会はもっとあったんではないかと思いますが、
そもそもニュースなんて目にしていないのでしょうか。
さすがにその答えは1人だけで、
続いて10例、30例という答えがやはり1人ずつくらいありました。
学生の予想で一番多かったのは、1,000件から3,000件あたりの答えでした。
続いて3ケタの予想と5ケタの予想が同数くらいだったでしょうか。
皆さんの予想はどれくらいだったでしょうか。

脳死・臓器移植の実施件数について調べるためには、
「日本における臓器移植の歴史」 というサイトが一番見やすいのですが、
残念ながらここには昨年末までのデータしか載っていません。
昨年末までに実施された脳死・臓器移植は83件です。
最新のデータが載っているのは、日本臓器移植ネットワークによる、
「移植に関するデータ」 というページです。
ここは、ちょっと数を確認しづらいのですが、わりと最初のほうに小さい文字で総数が説明してあり、
またはデータに振られた番号を見てみると、これまでに何例行われたかがわかるようになっていて、
現在までに、86例の脳死・臓器移植が行われたということがわかります。
今年に入ってから3件の新たな脳死・臓器移植が行われたのですね。

というわけで答えは86件でした。
いかがでしょうか。
13年で86件です。
予想よりもはるかに少なかったという方がおおかただったのではないでしょうか。
年間10件に満たないペースです。
内訳は以下の通りです。

1997年  0件
1998年  0件
1999年  4件
2000年  5件
2001年  8件
2002年  6件
2003年  3件
2004年  5件
2005年  9件
2006年 10件
2007年 13件
2008年 13件
2009年  7件
2010年  3件 (現在までのところ)

臓器移植法の施行後1年半ほどは脳死・臓器移植は行われませんでした。
1999年の高知での第1例のあとも年間10件に満たない提供数でした。
2006年に初めて2ケタに乗り、その後順調に増えていくかと思われましたが、
昨年は再び2ケタを割り、今年ももう半年が過ぎようとしているのにまだ3件だけです。
国民の8割が脳死・臓器移植をよいことと思っているにもかかわらず、
施行以来たったの86件しか行われていないというのはたしかに少ないと言っていいでしょう。
こうした現状を承けて昨年の法改正が行われたわけですが、
7月以降、実施数は爆発的に増えていくのでしょうか?
私は個人的には今回の改正には反対の立場ですが、
今後、実施数や国民の意識がどのように変化していくのか見守っていきたいと思います。