新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

私の感傷

2018-10-21 08:19:45 | コラム
アメリカの会社勤務時代の思い出:

去る19日に世界ヴァレーボールの我が代表対アメリカの試合開始前に暫く振りにアメリか国歌の演奏を聴いて、何とも表現できないような感傷に浸っていた。それは22年半も続けたアメリカの会社の一員として恐らく世界で最も品質については細かい点に厳格と言うか要求が厳しい日本市場を相手にしてきたこと(苦労と苦心のほど)にも思いを馳せていたことも勿論あった。よくぞあの世界で事業部内のただ一人の外国人として61歳まで勤め上げられたものだという誇り(思い)はあった。

だが、感傷的にならざるを得なかったことが他にもあった。それはアメリかでは国歌が独唱されることも演奏だけのこともあるが、それを観客全員が一斉に起立して楽しげに大声で歌うアメリカ人たちの中で、フットボール、ベースボール、バスケットボールを観戦してきた時に「何故アメリカ人たちがこうやって歌い、選手たちも歌っているのに、我が国は起立すらもしない者までいれば、歌っていないのが常態化しているのとは」という悲しさと情けなさだった。念の為に確認して置くが、30年以上も前のことだ。

それは嘗ての上司に誘われてNCAAのワシントン大学(UW)ハスキース対UCLAブルーインズのフットボールの試合を、UWの7万人収容のハスキースタジアムに観戦に行った時のことだった。恒例の試合前の国歌の独唱があって、全員が起立して独唱者に合わせて声高らかに歌い出した。その時にそれほどバリバリの愛国主義者ではないと思っていた私が「何故我が国ではアメリカ人たちのように誇らしげに国歌を歌わないで無視するのだろうか」と思った瞬間に不覚にも落涙したのだった。我ながら驚いた出来事だった。

それを見ていた元上司は私に握手を求めて「我がアメリかの国歌の為に泣いてくれたのか」と感謝されてしまったのだった。「そうではありません。実は」と説明するほどの落ち着いた心境ではなかったので、ただ黙って握手しただけに終わった。だが、私の心中には「国旗と国歌を尊敬し、尊重しない国民がいるとは・・・」との思いはあったのは間違いない。それは何も国粋主義でも愛国心だけのことではなく、「国民として当然為すべきことが何故出来ないのか」というだけの単純な思いだった。

そういう思い出と共に短時間、私の脳裏に浮かんだのは「あの異人種と異文化の世界で20数年を過ごして経験した、今となっては二度と味わえることがない彼らと一緒になって彼らの文化と規則と感情の中で過ごした生活が無性に懐かしく思えたのだった。在職中は恐らく50回以上は我が国とアメリかを往復しただろうが、シアトル空港に降りたって入管を過ぎて何時も思ったことは「あー、また何もかも異なる国での生活が始まるのだ」という何とも例えようもない緊張感と、それを楽しもうという期待感だった。

読者諸賢には「何を偉そうなことを言うのか」と言われるかも知れないが、そこから始まるのは、言うなれば「如何にして日本市場に現状以上に地盤を拡張、即ち市場占有率を上げて、我がW社の我が事業部の存在を、この難しくも要求が世界一厳格な市場でより一層認めて貰う為には何を為すべきか」の対策を練る為にやって来たのである。我が事業部は私が加入した75年に10%程度の市場占有率しかない最弱のサプライヤーでしかなかった。だが、目指すは「日本市場の#1シェアーホールダー」だったのだ。

その中でも勤務での緊張感と刺激は忘れがたい記憶だが、あの人たちの中に入ってアメリカ人の思想・哲学・信条と異文化の下にあって自分の生まれ育った国の市場で、同じ国民の方々の信頼を勝ち得ようと、彼らの一員として「何卒アメリカの会社をご信用賜りたく」と願い出て説得していくのが仕事だった。私はアメリカ式の「我が社の製品こそ世界最高。それを買わないと言われるのは御社のお間違いでは」というアメリカ式の高飛車と取られるセールストークをしてはならないと事業部内を説いて回った。

ある大手の得意先の担当常務さんには「我が社が求める品質と価格を達成せよ。それが出来れば世界の何処に行っても一級品として通用するぞ」と穏やかに説得された。非常に説得力があったので、事業部を挙げて本気でそこを目指した。職能別組合員たちにも「君等の努力でかかる品質を達成しよう。そこには世界で最も厳しい日本市場最大の市場占有率達成もあり、君たちの職の安定も確実になる」と説いて回ったのだった。

自慢話をしている気は毛頭ない。そういう#1のシェアーホールダーを目指していた、実は楽しかった時代の思い出に浸らせてくれた久し振りに聞いたアメリか国歌だったのだ。あの日々が懐かしいと言うよりも「良くあのような場で22年以上も過ごせたものだ」という感傷である。トランプ大統領に申し上げておきたいことは「これを受けれないと云々という武器を振りかざして交渉なさるの一つの有効な手段だろうが、対日輸出を目指す会社には『地道な努力を忘れるな』と一言督励される必要もあるのでは」という経験談だ。



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