新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

私のアメリカ論とTPP交渉

2014-07-11 10:02:08 | コラム
疑問だらけのオバマ大統領の政策とTPP:

私は常にオバマ大統領の統治能力に疑問を呈してきた。特に彼が大統領に選出された際には旧上司や同僚も友人知己は皆落胆していた。中には「政治・経済・軍事・外交・防衛等に全くの素人を選んでしまったのだからもう仕方がない。彼は上院議員を一期四年務めたと言うがその半分は選挙キャンペーンに費やしていた」と言って嘆いた友人がいたのが忘れられない。

アメリカの地から弱くなってきたなと思わせられていると、その間に中国が世界第2の経済大国だとマスコミが下らないことを言い出すほど国全体のGDPが大きくなって「アメリカ何するものぞ」という態度が鮮明になって来た。言いたくはないが、人口一人当たりの紙・板紙の消費量では中国は我が国の30%程度の74キロ程度だ56位だったか。因みに、我が国は220キロで第8位だ。

オバマ大統領は「誰がやっても簡単に好転させることは不可能な極めて難しい時期」に大統領に就任したかと思えば、そこにリーマンブラザース問題が発生しその対策に追われ金融証券業界とGMの救済に奔走せねばならなかった。その後色々と苦難の道を歩んでいる間に「イラク」と「アフガン」からの撤退を決めたかと思えば「世界の警察官を辞める」とまで言い出す始末だった。特にシリアへの派兵云々の件ではその優柔不断振りが顕著だったのは遺憾である。

オバマ政権が直面した経済問題の中でも「アメリカの景気回復」はアメリカのみならず世界にとっても重要な課題だった。勿論オバマケア等の多くの手が打たれた。その中で彼が着目したのがアジアの4ヶ国が始めたTPP交渉だった。アメリカは輸出振興を目指していたので好機到来とでも思ったのだろうか即刻参加を決意し、いきなり盟主然として君臨するのだった。中でも「聖域関税撤廃」は大きな目玉となった。そこで、我が国の参加も求められた。

私はアメリカは経験上からも基本的に輸出国ではないと信じている。国内の消費への依存度は70%見当もあり、住宅着工と自動車産業が好不況が景気のバロメーターである国だ。それだけではないロッキー山脈を境にして西海岸が30%の経済圏で70%は東部の盛衰如何にかかっている。大体からしてアジアへの輸出は西海岸の諸州からするのが合理的で、東部からでは経済的にも物流の面でも採算が悪いのが常識なのだが。

私が長年指摘したアメリカの問題点に労働力の質がある。それはアメリカで法律で "minority" (少数民族)と身体障害者の雇用が義務づけられている。しかし、間もなく白人以外の人口が50%を超えて少数ではなくなると言われている。この少数民族に対する政策にはアメリカの懐の深さがあるとも言えるのだ。だが、そこには1994年にUSTRのカーラ・ヒルズ大使が指摘してた「初等教育の改善と識字率の向上なくしてアメリカの労働力の質の改善はない」との問題がある。

連邦政府は労働力の質に問題ありと承知されているのだ。アメリカの労働力の質では以前の「輸入牛肉の全頭検査」の際にもその杜撰さが現れ出ていたのではなかったか。オバマ政権下では短期間に改善されたとでも言うのかな。

嘗て、アメリカの生産現場を訪れた我が国の方々が感心されたことの一つに「現場の労働者用に作業のマニュアルが完備している」があった。これは善意の誤解であって、こうしておかないと彼等に作業手順が徹底しないので設備しておくのだ。しかし、会社側の管理者が嘆いた「字が読めずに読んだ振りをする者がいるので」と言って。また「工場で働く者は職能組合員であって会社員ではない」ことも我が国と大きく異なる労務事情だ。組合には場合によっては多くの国から移ってきた人たちがいるのだ。

TPPだが、私は「何度もアメリカの商務省が業界の請願を受けて、中国・インドネシア・韓国等の新興勢力から輸入される印刷用紙に高率の反ダンピングと相殺関税を賦課して閉め出し、同様にドイツと中国からのキャッシュレジスターのレシート用の感熱紙も関税で締め出している」と指摘してきた。これでは保護貿易であり、他国に「聖域なき関税撤廃」を求める資格があるのかという素直な疑問を投げかけたくなる。

自動車の問題も採り上げよう。TPP交渉が進まない理由の一つに、アメリカ側が我が国の自動車に課された排ガス等の様々の規制が厳しすぎてアメリカから見れば「非関税障壁だ」と言い募っていると報じられた。私に言わせれば言い掛かりである。自国の労働力の質を顧みずに問題を我が国の規制にするなどは恥だと知るべきではないか。明らかに労働力の質の問題である。更に言えば、国内の需要者が余りに寛容で国産車の質で諦めていると思わないのが問題だ。

私はアメリカには厳しいことを言っているととられる向きのあるだろうが、決してそうではない。彼等は立派な人たちの集まりなのだが、自国の強力な労組と会社の関係を改善するか、別の形にすれば改善出来ることが多々あると知りながら、そんなことを在職中に手がけても終わることもないだろうし、当面の自分の業績(=credit)にはならないと思って諦めているのではないのかとすら疑っている。言っておくが彼等は狩猟民族で「短期決戦」で勝負するのだ。

私は何もTPPの交渉に限ったことではないが、アメリカ人が交渉して要求することの背景には外の人には言えない苦しい事情があると見込んで、それが何かを調査追求していく手法も必要だと思っている。彼等が「これを言うことで失うものはない」と高圧的に出てきても怖れることはない。それも駆け引きかも知れないのだから。落としどころなど探ってはならない。


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