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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

蟲麻呂編(14)開くな勤(ゆめ)と

2009年09月30日 | 蟲麻呂編
 
【掲載日:平成21年10月29日】

・・・また帰りきて いまごと はむとならば
    このくしげ 開くなゆめと そこらくに かためしことを・・・

【伊根町本庄浜、筒川河口】


丹後の国  本庄浜 古老と共に 浜に座す虫麻呂 
ぼそりと  始まる 古老の話
春の日の かすめる時に 
墨吉すみのえの 岸に出でゐて 
釣船つりぶねの とをらふ見れば 
いにしへの 事ぞ思ほゆる

《春の霞に  岸に出て
 釣り船見てたら 思い出す》 
水江みづのえの 浦島うらしまの子が 堅魚かつを釣り たい釣りほこり 七日なぬかまで 家にもずて 
《浦島はんは 魚釣る あんまり沢山ようけ 釣れるんで 七日も家に かえらんと》
海界うなさかを 過ぎて漕ぎ行くに 
海若わたつみの 神のをとめに たまさかに いぎ向い あひあとらひ ことりしかば

《沖いでたら 偶然に 海神娘おとひめさんに うたんや どっちとものう 一目ぼれ》
かきむすび 常世とこよに至り 海若わたつみの 神の宮の うちの たへなる殿に 
たづさはり 二人入りゐて ひもせず 死にもせずして 永き世に ありけるものを 

《手に手を取って 海神宮りゅうぐうに 甘い暮らしの 日が続く そのまま死なんと 暮らせたに》 
世の中の 愚人おろかひとの 吾妹子わぎもこに りてかたらく 
須臾しましくは うちに帰りて 父母ちちははに 事もかたらひ 
明日あすごと われはなむと 言ひければ

《あほやで浦島 言うたんや 一寸ちょっと帰って 親に言い じきに帰るて 言うたんや》 
いもがいへらく 
常世辺とこよべに また帰りきて いまごと はむとならば 
このくしげ 開くなゆめと そこらくに かためしこと

海神娘おとひめさんは 言うたんや
 帰って来たい 思うたら この箱開けたら あかんでと
 きつきつうに 言うたんや》
墨吉すみのえに 帰りきたりて 
家見れど 家も見かねて 里見れど 里も見かねて あやしみと そこに思はく 
家ゆ出でて 三歳みとせほとに 垣も無く いえせめやと

《帰って来たら 家はない 村もあれへん 奇怪おっかし
 家を出てから 三年で 家がうなる 筈はない》
この箱を 開きて見てば もとのごと 家はあらむと  玉篋たまくしげ 少し開くに 
白雲の 箱より出でて 常世辺とこよべに たな引きぬれば
 
もしやこの箱  開けたなら 元戻らんかと 箱開けた
 湧きでる煙 白煙 海神宮りゅうぐう殿じょうへと 流れてく》
立ち走り 叫び袖振り 反側こひまろび 足ずりしつつ たちまちに こころ消失けうせぬ 
若かりし はだもしわみぬ 黒かりし かみしらけぬ 
ゆなゆなは いきさへ絶えて のちつひに いのち死にける

《慌て走って 叫び転倒こけ 地団太踏んで 悔しがる みるみる元気 うなって
 しわくちゃ顔で 白髪しらがなり 息えで 死んでもた》
水江みづのえの 浦島の子が 家地いへどころ見ゆ 
《あのあたり 昔に浦島 住んでたところ》 
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四〇〕 
常世辺とこよべに 住むべきものを 剣太刀つるぎたち が心から おそやこの君
海神娘おとひめと 死なんとなごう 暮せたに ほんまアホやで 浦島はんは》 
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四一〕 

春の波が  ゆたりゆたりと 寄せては返している




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