【掲載日:平成21年9月30日】
春されば まづ咲く宿の 梅の花
独り見つつや 春日暮らさむ
【結び松の碑 後ろは崖と海】
手文庫の中
七夕歌を 整理した 憶良
昔懐かしさに 思わず こぼれる笑み
〔おお これは 紀伊国 行幸の供の時
持統帝の時代であった
わしも 若かった 三十一の年か
磐代
道行く人 皆 思わずにはいない 有間皇子
手向けの歌〕
白波の 浜松の木の 手向草 幾代までにか 年は経ぬらむ
《松の木に 幣布結び付け 祈るんは ずうっと前から 続く習慣》
―山上憶良―〔巻九・一七一六〕
天翔り あり通ひつつ 見らめども 人こそ知らね 松は知るらむ
《空飛んで 皇子の魂 通て来る 人間見えんでも 松は知っとる》
―山上憶良―〔巻二・一四五〕
憶良 次の歌へと 目をやる
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花
《秋の野に 咲いてる花を 数えたら 秋愛ずる花 種類は七つ》
―山上憶良―〔巻八・一五三七〕
萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花
女郎花 また藤袴 朝貌の花
《萩の花 薄葛花 撫子の花
女郎花 藤袴花 桔梗花なり》
―山上憶良―〔巻八・一五三八〕
〔これは 戯れ歌じゃ
しかし 皆は よき歌という
人生の苦労も知らず 純粋に若かった
今に思うと 心に秘めた人を なぞらえたか〕
〔これは これは また 懐かしい〕
春されば まづ咲く宿の 梅の花 独り見つつや 春日暮らさむ
《春来たら 最初咲く花 梅の花 独り見るには 惜しい春やな》
―山上憶良―〔巻五・八一八〕
〔ああ 旅人殿を 思い出す
天平二年〔730〕正月の 梅花の宴
大宰府の官人 三十二名が集いし宴
この歌に 旅人殿 目を潤ませておられた
奥様を 伴って来られた筑紫
その地で亡くされ 酒に宴に 耽られていた
都戻りの旅 独り戻りを 嘆かれたと聞く
その 旅人殿も 昨年 この世を去られた
人は 虚しくなるが こうして 歌だけは残る〕
憶良に 人生・社会を 見つめる歌が 増えて行く
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