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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

古今相聞往来(下)編(49)飽(あ)き足(だ)らねこそ

2014年03月11日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年3月11日】

草枕 旅行く君を 荒津あらつまで 送りぞぬる らねこそ



旅題材の 問答うた
旅先恋を うたった歌か
舟出ふなで遅らせ がれてみても
所詮しょせん旅恋 別れが運命さだめ

 問答】
豊国とよくにの 企救きく長浜ながはま 行き暮らし 日の暮れゆけば 妹をしぞ思ふ
企救きくの浜 日がな一日いちにち 歩きて 日ィ暮れてくと あの児が恋し》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一九)
豊国とよくにの 企救きく高浜たかはま 高々たかたかに 君待つらは さ夜更よふけにけり
《まだんか もうるかなと 背伸びして あんた待つよる けて仕舞しもたで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二二〇)
 問答】
十月かむなづき 時雨しぐれの雨に 濡れつつか 君が行くらむ 宿やどか借るらむ
十月じゅうがつの 時雨しぐれ降ってる あんたさん 濡れて行くんか 宿りとんか》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一三)
十月かむなづき 雨間あままも置かず 降りにせば いづれの里の 宿か借らまし
十月じゅうがつの 晴れ間もなしに 降る雨に どこのさと宿やど りたらんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一四)
 問答】
玉のの うつごころや 八十やそけ む船に おくれてらむ
一生懸命いっしょけめ かじ多数よけ並べ 沖けて 漕ぎす舟に 遅れてなるか》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一一)
八十やそけ しまがくりなば 我妹子わぎもこが まれと振らむ 袖見えじかも
《漕ぐ舟が 島かくれたら お前振る まれう袖 見えんなるで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一二)
 問答】
白栲しろたへの そでの別れを かたみして 荒津あらつの浜に 宿りするかも
《どうしても 別れ出来んで 荒津あらつはま 舟出ふなで遅らし 宿取ったんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一五)
草枕 旅行く君を 荒津あらつまで 送りぞぬる らねこそ
《旅に行く あんた送って 荒津あらつまで 来て仕舞しもたんや 名残なごりして》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一六)
 問答】
荒津あらつの海 我れぬさまつり いはひてむ はや帰りませ 面変おもがはりせず
荒津あらつうみ ぬさまつって 祈り仕様しょう 早よ帰ってや たびせせんと》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一七)
あさな 筑紫つくしかたを で見つつ のみぞが泣く いたすべなみ
《毎朝に はる筑紫つくしを のぞみ見て どう仕様しょうて 泣くのんやろな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一八)

古今相聞往来(下)編(48)結(ゆ)ふ手たゆきも

2014年03月07日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年3月7日】

みやこに 君はにしを けか 我がひもの ふ手たゆきも




旅の恋とて ちぎりをすれば
恋しさ湧いて 離れんつら
付いて旅する 日数の果てに
やがて待つのは せつい別れ

  
みなとに 満ちしほの いや増しに 恋はまされど 忘らえぬかも
河口かわぐちに 潮満ちるに どんどんと がれつのって 忘れられんで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五九)
   
霍公鳥ほととぎす 飛幡とばたの浦に しく波の しばしば君を 見むよしもがも
飛幡とばたうら 寄せ来る波は 屡々しばしばや 屡々しばしばあんた すべ欲しで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六五)
   
梓弓あづさゆみ すゑは知らねど うるはしみ 君にたぐひて 山道やまぢ越え
《行く末の こと分らんが しとうてる あんたに付いて 山道みちたで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四九)
   
かすみつ 春の長日ながひを 奥処おくかなく 知らぬ山道やまぢを 恋ひつつか
がれして 知らん山道 に 行くんか長い この春の日を》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五〇)
   
よそのみに 君を相見あひみて 木綿ゆうたたみ 手向たむけの山を 明日あすか越えなむ
よそながら あんた見るだけ お別れや 明日あした手向たむけの 山えるんで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五一)
   
くにとほみ 思ひなわび 風のむた 雲の行くごと ことかよはむ
いからて しょぼくれなや 風吹いて 雲が音沙汰おとさた はこぶできっと》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七八)
   
みやこに 君はにしを けか 我がひもの ふ手たゆきも
鬱陶うっとしな 誰ほどくんか ひもける あんたみやこへ 帰って仕舞たに》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一八三)


古今相聞往来(下)編(47)子難(こがた)の海の

2014年03月04日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年3月4日】

我妹子わぎもこを よそのみや見む こしうみの 子難こがたの海の 島ならなくに



旅出てみれば 誘惑多い
うれいの積もる 独り寝びし
軽い気持ちの 悪戯いたずら
旅空恋に 落ちるは早い

  
在千潟ありちがた ありなぐさめて 行かめども 家なる妹い いふかしみせむ
《旅うれい なぐさうて みたいけど 家であの児が いぶかしがるで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六一)
   
旅にありて 物をぞ思ふ 白波の にもおきにも 寄るとはなしに
《岸と沖 どっち寄るんや 旅空で あの児口説くどこか 戸惑とまどうとんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五八)
   
我妹子わぎもこを よそのみや見む こしうみの 子難こがたの海の 島ならなくに
こしうみの 子難こがたの海の 島ちゃうに よそからあの児 見んならんのか》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六六)
                          (子難=児に逢い難い→外のみや見む)
  
志賀しか海人あまの いそす 名告藻なのりその 名はりてしを なにか逢ひかたき
《磯に干す 名告藻なのりそちゃうが たあかん 名前うたに なんでえんの》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七七)
                          (名告藻=な告りそ=告げたらあかん)
  
波のゆ 雲居くもゐに見ゆる 粟島あはしまの 逢はぬものゆゑ 我にそる子ら
《雲のに 見える粟島あわしま てへん児 わしに気あるて みないよんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六七)
                          (粟島=あわん島→逢はぬ)
  
沖つ波 辺波へなみ寄る 左太さだの浦の このさだぎて のち恋ひむかも
《沖岸の 波が満ち寄る 至福しふくどき 今過ぎたなら がれんやろな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六〇)
   
衣手ころもでの 真若まわかの浦の 真砂まなごつち なく時なし が恋ふらくは
若浦わかうらの 真砂まさごの土や がれんは しなんや ひっきりしや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六八)
                          (真砂地=マナ→間なく)(真砂=マナゴ=愛児)
  
草枕くさまくら 旅の悲しく あるなへに 妹を相見あひみて のち恋ひむかも
《旅先で 心さみしい その上に あの児仕舞て がれももる》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四一)

古今相聞往来(下)編(46)木末(こぬれ)ことごと

2014年02月28日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年2月28日】

悪木山あしきやま 木末こぬれことごと 明日あすよりは なびきてありこそ 妹があたり見む




あの山こに 妻待つ我が
馬よ急げや 早よ顔見たい
家待つ妻も 顔早よ見たい
急ぎ帰れよ 道真っ直ぐに

 
悪木山あしきやま 木末こぬれことごと 明日あすよりは なびきてありこそ 妹があたり見む
あしやま こずえ全部ぜえんぶ せてんか あの児あたりを わし見たいんで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五五)
                          (悪木山=筑紫野芦城山?)
  
いでこま 早く行きこそ 真土山まつちやま 待つらむ妹を 行きてはや見む
《さぁ馬よ 真土まつちやま越え 早よいそげ 待ってるあの児 早よいたいに》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五四)
   
鈴鹿すずかがは 八十やそ渡りて がゆゑか えに越えむ 妻もあらなくに
鈴鹿すずかがわ 瀬ぇ多数よけ渡り 誰のため 山道みちえるか 妻らんのに》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五六)
                          (急ぐ自分へ問い掛け歌か?)
  
磐城山いはきやま ただ越えませ いそさきの 許奴美こぬみの浜に 我れ立ち待たむ
許奴美こぬみはま うち待つよって 磐城いわきやま ぐ越えて 帰って来てや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九五)
   
今に帰ると 便りは来たが
いまだ帰らぬ おっと何処どこ
積もる不安の 心の裏で
もしや寄り道 疑心ぎしんぎる

熟田津にきたつに 舟乗ふなのりせむと 聞きしなへ なにぞも君が 見えずあるらむ
熟田津にきたづで 舟に乗るて 聞いたのに あんたどしたか まだ帰らへん》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇二)
   
筑紫道つくしぢの 荒磯ありそ玉藻たまも 刈るとかも 君が久しく 待てどまさぬ
《長いこと あんた待つのに 帰らんな 筑紫つくし荒磯ありそで 玉藻ぉ刈っとんか》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇六)
                          (筑紫の藻ぉは さぞかしやろな)

古今相聞往来(下)編(45)磯越す波に

2014年02月25日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年2月25日】

むろうらの 瀬戸せとさきなる 鳴島なきしまの いそ越す波に 濡れにけるかも



磯を歩けば 波すそ濡らす
がれいやそと 忘れの貝を
拾ろおした袖 波また濡らす
恋し涙が 頬まで濡らす

  
我妹子わぎもこに るとはなしに 荒磯ありそに 我が衣手ころもでは 濡れにけるかも
《妻れん まま過ごした わしの袖 荒磯ありそめぐりで 濡れて仕舞しもたで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六三)
   
わかうらに そでさへ濡れて 忘れ貝 ひりへど妹は 忘らえなくに
若浦わかうらで 袖まで濡らし 忘れ貝 ろたがあの児 忘れられんが》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七五)
   
わかうらに そでさへ濡れて 忘れ貝 ひりへど妹は 忘れかねつも
若浦わかうらで 袖まで濡らし 忘れ貝 ろたがあの児 忘れ出来んで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七五 或る本)
   
むろうらの 瀬戸せとさきなる 鳴島なきしまの いそ越す波に 濡れにけるかも
むろの浦 瀬戸せとさきにある 鳴島なきしまの 涙やろうか 波に濡れたで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六四)
   
あしひきの 山は百重ももえに 隠すとも 妹は忘れじ ただに逢ふまでに
《山々が 幾重いくえかさなり かくしても お前忘れん じかうまでは》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一八九)
   
み雪降る こし大山おほやま 行き過ぎて いづれの日にか 我が里を見む
《雪の降る こし大山おおやま 越え行って 何時いつになったら 故郷くに見られんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五三)

古今相聞往来(下)編(44)贖(あか)ふ命は

2014年02月21日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年2月21日】

時つ風 吹飯ふけひの浜に つつ あかいのちは 妹がためこそ




海辺行く旅 海人あまかじ音に
寄せる波音 妻運び来る
漁師いさ 遙かに見れば
遙か離れた 家妻恋し
  

松浦まつらぶね さわ堀江ほりえの 水脈みを早み かぢ取るなく 思ほゆるかも
《水流れ 早て取るかじ 休みし 休みあの児 思われるがな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七三)
   
いざりする 海人あま楫音かぢおと ゆくらかに 妹は心に 乗りにけるかも
海人あまの漕ぐ 楫音かじじっくりや じわじわと 広がってくで 妻この胸に》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七四)
   
浦廻うらみぐ 熊野くまのふなつき 珍しく けて思はぬ 月も日もなし
熊野くまのぶね 姿素晴すばらし 可愛かわいいと あの児思わん 日しやずっと》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七二)
                          (珍し=すばらしい・かわいい)
  
飼飯けひの浦に 寄する白波 しくしくに 妹が姿は 思ほゆるかも
飼飯けひうらに 寄せる波の 次々や お前姿の 胸浮かぶんは》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇〇)
   
能登のとの海に りする海人あまの いざの 光りにいく 月待ちがてり
《月の出を 待ちながら行こ 能登のとうみの 釣りの漁師りょうしの 漁火たよりして》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六九)
   
志賀しか海人あまの りしともせる いざの ほのかに妹を 見むよしもがも
一寸ちょっとでも あの児見るすべ ないやろか 志賀しか海人あまともす 漁火いさりびみたい》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七〇)
   
難波なにはがた 漕ぎる舟の はろはろに 別れぬれど 忘れかねつも
かたを出る 舟遙か行く 遙々はるばると 別れた児ぉ 忘れられんで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七一)
   
時つ風 吹飯ふけひの浜に つつ あかいのちは 妹がためこそ
吹飯ふけいはま 命大切だいじと ぬさささげ 祈りするんは  お前のためや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇一)


古今相聞往来(下)編(43)東(あづま)の坂を

2014年02月18日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年2月18日】

いきに が思ふ君は とりが鳴く あづまの坂を 今日けふか越ゆらむ



月日ったな 帰るは何時いつ
残る日数ひかずを 指折り数え
今日は山道 越えてるやろか
明日あした峠を 越えるんやろか 

  
しきやし しかある恋にも ありしかも 君におくれて 恋しき思へば
《あぁこんな 苦しもんかい 恋んは あと残されて 恋し思たら》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四〇)
   
春日かすがなる 御笠みかさの山に る雲を で見るごとに 君をしぞ思ふ
《山の上 春日かすが御笠みかさに 雲がる それ見るたんび あんた思うで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇九)
   
曇り夜の  たどきも知らぬ 山越えて います君をば いつとか待たむ
辿たどる道 不案内ぶあんないやに 山えて 出かけたあんた 帰るん何時いつや》
                                                    ―作者未詳―(巻十二・三一八六)
   
草蔭くさかげの 荒藺あらゐさきの かさしまを 見つつか君が 山道やまぢ越ゆらむ
《草深い 荒藺あらい笠島かさじま 見ながらに あんた山道 越えてるんかな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九二)
   
玉かつま しまくま山の ゆふれに ひとりか君が 山道やまぢ越ゆらむ
しまくまの 山を夕暮ゆうぐれ 一人して あんた山道 越えてるんかな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九三)
   
いきに が思ふ君は とりが鳴く あづまの坂を 今日けふか越ゆらむ
《命やと おもうあんたは 今日あたり 東国とうごくとうげ 越えてんやろか》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九四)
   
旅にありて 恋ふれば苦し いつしかも 都に行きて 君が目を見む
《旅先で がれんつらい きょう戻り あんたえるん 何時いつのことやろ》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一三六)
                          (行幸お供の女官の歌か?)

古今相聞往来(下)編(42)安倍(あへ)島山の

2014年02月14日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年2月14日】

玉かつま 安倍あへ島山しまやまの ゆふつゆに 旅寝たびねえせめや 長きこの



取替えた紐 見るたび思う
あの児一緒や 道連みちづれ旅や
紐のほどけは 思いのあかし
夢に出るのも 思いのあかし 
  
旅のの 久しくなれば さつらふ 紐解ひもとけず 恋ふるこのころ
《旅先で 寝る続いて 取換えた ひもかんと 恋し思てる》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四四)
   
我妹子わぎもこし しのふらし 草枕くさまくら 旅のまろに 下紐したびもけぬ
《あぁあの児 わし思とんや 旅先の 着衣寝ごろねとるに 下紐ひもほどけたで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四五)
  
草枕 旅のころもの 紐解ひもとけて 思ほゆるかも この年ころは
《結んでた ひもよわなって ける 妻にわんで ごうなったな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四六)
   
草枕 旅の紐解ひもとく いへの妹し を待ちかねて 嘆かふらしも
《旅先で ひもすぐける わし待って 家であの児が 嘆いとるんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四七)
   
我妹子わぎもこに またも近江あふみの 野洲やすの川 安寝やすいずに 恋ひ渡るかも
《お前恋い またいとうて 安らかな 眠り出けんで がれとるんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五七)
   
澪標みをつくし 心つくして 思へかも 此処ここにももとな いめにし見ゆる
《心から 妻が思うて くれてんや 旅空夢に 始終しょっちゅるんは》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一六二)
   
玉かつま 安倍あへ島山しまやまの ゆふつゆに 旅寝たびねえせめや 長きこの
安倍あべしまの 山に露置き 冷えて来て 旅寝ること出来できん よる長いのに》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一五二)
                          (玉かつま=立派な籠=蓋と身が合う→アヘ)
  
まりにし 人を思ふに 秋津野あきづのに る白雲の やむ時もなし
《残し来た お前思うん 常時しょっちゅうや 秋津野あきつの懸かる 白雲しらくもみたい》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七九)

古今相聞往来(下)編(41)恋ひじとすれど

2014年02月07日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年2月7日】

よしゑやし 恋ひじとすれど 木綿間山ゆふまやま 越えにし君が 思ほゆらくに



日増し強まる がれを抱いて
辿たどる道筋 足とて重い
後に残され 寄せ積むがれ
恋し恋しの 胸とて重い

  
年もず 帰りなむと 朝影あさかげに 待つらむ妹し 面影おもかげに見ゆ
としうち 帰ってしと せて待つ お前面影おもかげ 目ぇちらつくで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一三八)
   
国遠み ただには逢はず いめにだに 我れに見えこそ 逢はむ日までに
故郷くにはなれ じかえんが せめて夢 出て来てしで うその日まで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四二)
   
草枕 旅にしれば こもの 乱れて妹に 恋ひぬ日はなし
《旅に出て びし思いの 旅空に お前思わん 日ィとていで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一七六)
   
春日野かすがのの 浅茅あさぢはらに おくて 時ぞともなし が恋ふらくは
春日野かすがのの 浅茅あさじはらに 残されて 果てるともう 恋いがれてる》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九六)
  
おくて 恋ひつつあらずは 田子たごうらの 海人あまならましを 玉藻たまも刈る刈る
あと残り がれてるより 田子たごうらで 玉藻たまも刈るう 海人あまろかいな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇五)
   
よしゑやし 恋ひじとすれど 木綿間山ゆふまやま 越えにし君が 思ほゆらくに
《ええいもう がれんめや 思うけど 木綿間山やまえて行く あんた浮かぶで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九一)
   
住吉すみのえの 岸に向へる 淡路あはぢしま あはれと君を 言はぬ日は無し
住吉すみのえの 岸こ望む 淡路島あわじしま あんた恋しと わん日ないで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九七)
                          (淡路島→あはれ=あぁ恋しい)
  
わたの底 沖はかしこし 磯廻いそみより みいませ 月はぬとも
《沖海は おそろしうで 磯伝いそつとて 漕ぎり行きや 日ぃ掛かっても》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九九)

古今相聞往来(下)編(40)今し悔やしも

2014年02月04日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年2月4日】

かく恋ひむ ものと知りせば 我妹子わぎもこに こと問はましを 今しくやしも



昨日別れて 旅行く空に
浮かぶ雲さえ 面影見える
山をへだてた 遙かな空に
思いたくした 便りよ届け
  

玉桙たまほこの 道にで立ち 別れし 日より思ふに わする時なし
 道立って 別れした日の その日から 忘れられんで 思いずっとや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一三九)
   
かく恋ひむ ものと知りせば 我妹子わぎもこに こと問はましを 今しくやしも
くやしいな こんながれん 知ってたら あの児ともっと 声わしたに》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四三)
   
みさごる る舟の 漕ぎなば うら恋しけむ のち相寝あひぬとも
《帰ったら また共寝られるが 港から 舟仕舞たら せつうなるで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇三)
   
雲居くもゐなる 海山越えて い行きなば れは恋ひむな のち相寝あひぬとも
《帰ったら また共寝られるが 海山を 越えて行くんで がれるこっちゃ》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九〇)
   
遠くあれば 姿は見えず つねのごと 妹がまひは 面影おもかげにして
《変わりない お前笑顔えがおが 目ぇ浮かぶ とおはなれて 姿見えんが》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一三七)
   
真澄鏡まそかがみ 手に取り持ちて 見れどかぬ 君におくれて けりともなし
《いつ見ても 見飽きんあんた 旅して あと残されて 生きた気せんわ》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一八五)
   
たたなづく 青垣あをかき山の 隔なりなば しばしば君を こと問はじかも
《山多数ようけ へだてられたら あんたへの 便たよ屡々しばしば 出来んなるか》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一八七)
   
玉葛たまかづら さきくいまさね 山菅やますげの 思ひ乱れて 恋ひつつ待たむ
仕様しょうなしに つろがれて 苦しけど どうか無事でと 祈って待つわ》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇四)
                          (玉葛=蔓が先へ伸びる→幸く)
                         (山菅の=根が乱れ伸びる→乱れて)

古今相聞往来(下)編(39)帰りも来(く)やと

2014年01月31日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年1月31日】

旅にして 妹を思ひで いちしろく 人の知るべく 嘆きせむかも



今日の旅立ち 覚悟はしても
いよよ別れの そのとき来たら
かしとう無い 行かねばならん
別れその日が がれの始め

  

な行きそと 帰りもやと かへり見に 行けど帰らず 道の長手ながて
《「ったいや」 て戻るかと 振り向くが 戻ってんわ 旅長いのに》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一三二)
   
旅にして 妹を思ひで いちしろく 人の知るべく 嘆きせむかも
《旅先で お前思うて あぁあて 人知れるほど 嘆くんやろか》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一三三)
   
さかり 遠くあらなくに 草枕くさまくら 旅とし思へば なほ恋ひにけり
《里を出て まだどれ程も てないに 旅や思たら 家恋しいで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一三四)
   
白栲しろたへの そでの別れは しけども 思ひ乱れて 許しつるかも
《袖はなし 別れんして いやたが うろ来て仕舞しもて 行かして仕舞しもた》
                          ―作者未詳―(巻十二・三一八二)
   
草枕 旅行く君を 人目ひとめ多み そで振らずして あまたくやしも
《人目て 旅出るあんた 気ぃ使こて 袖振りせんと くやし限りや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一八四)
   
朝霞あさがすみ 棚引たなびく山を 越えてなば れは恋ひむな 逢はむ日までに
朝霞あさがすみ なびく山え 仕舞たら 恋いがれるで うまでずっと》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一八八)
   
へて 君をば見むと 思へかも 日も変へずして 恋のしげけむ
《月わり せんとえんと おもたなら その日うちから 恋してならん》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一三一)
   
うらもなく にし君ゆゑ あさな もとなぞ恋ふる 逢ふとはなけど
《あっさりと たびたあんた 毎朝まいあさに こいおもうで えんうのに》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一八〇)

古今相聞往来(下)編(38)片山雉(きぎし)

2014年01月28日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年1月28日】

あしひきの 片山かたやまきぎし 立ち行かむ 君におくれて うつしけめやも




最後飾るは 旅の歌 羈旅きりょはつうた その意味は
旅に出掛けて  思う歌 主に旅先 男歌
べつの歌は 別れ歌 主に家待つ 女歌
旅歌締めを 受け持つは 旅に関わる 問答もんどうた


別れ旅立ち 明日あしたに控え
せつつのり ふさがる胸で
出てく男は  妻思いやり
送る女は 旅無事祈る

  
玉釧たまくしろ まきし妹を 月もず 置きてや越えむ この山のさき
《手枕を して共寝たお前 ひとつきで 置いて山え かならんのか》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一四八)
   
白栲しろたへの 君が下紐したびも 我れさへに 今日けふ結びてな 逢はむ日のため
《あんた下紐ひも うちも一緒に 結ばして 無事な往き来で える日ねごて》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一八一)
   
明日あすよりは 印南いなむの川の でてなば まれるれは 恋ひつつやあらむ
明日あしたから あんた旅て 仕舞しもうたら のこるこのうち 恋いがれるで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一九八)
                          (印南→去なば)
  
あらたまの 年の長く 照る月の かざる君や 明日あす別れなむ
《昔から 照る月飽きん 見飽きへん あんた旅行く 別れか明日あした
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇七)
   
ひさにあらむ 君を思ふに ひさかたの 清き月夜つくよも やみに見ゆ
《当分は 帰れんあんた 思うたら よ照る月も 闇夜やみよ思うで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二〇八)
   
あしひきの 片山かたやまきぎし 立ち行かむ 君におくれて うつしけめやも
せわしいに 旅るあんた あと残る うちせつうて 正気でれん》
                           ―作者未詳―(巻十二・三二一〇)
                          (あしひきの片山雉=雉は飛び立つ→立ち行かむ)
  
近くあれば 名のみも聞きて なぐさめつ 今夜こよひゆ恋の いやまさりなむ
今夜こんやから がれ増えるわ これまでは 噂聞くだけ 安らげたのに》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一三五)

古今相聞往来(下)編(37)蓑笠(みのかさ)着ずて

2014年01月24日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年1月24日】

ひさかたの 雨の降る日を 我がかどに 蓑笠みのかさ着ずて る人や



雨の降る夜は 出掛けにさわ
もしや来るかと 濡れ待つ女
濡れてもこと いたい男
うたあかつき しっぽり濡れる
  
 問答】
我が背子せこが 使つかひを待つと かさも着ず でつつぞ見し 雨のらくに
《雨降るに 笠もけんと 門出入でいりして あんたの使い うち待ってんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一二一)
心なき 雨にもあるか 人目ひとめり ともしき妹に 今日けふだに逢はむを
《薄情な 雨やでほんま 人目避け 滅多めったえん児 お思たのに》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一二二)
   
 問答】
ただひとり れどかねて 白栲しろたへの そでかさに着 濡れつつぞ
 寝てみたが 寝付き出けんで 雨やけど 袖笠にして 濡れて来たんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一二三)
雨も降り けにけり 今さらに 君なめやも 紐解ひもとけな
《雨降って よるけたで もうあんた 帰らんときや 共寝支度じたく仕様しょうや》
                          ―作者未詳―(巻十二・三一二四)
   
 問答】
ひさかたの 雨の降る日を 我がかどに 蓑笠みのかさ着ずて る人や
《この雨の 大量よけ降る中を もんさきに 蓑笠かさけんと たのん誰や》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一二五)
巻向まきむくの 穴師あなしの山に 雲つつ 雨は降れども 濡れつつぞ
穴師あなしやま 雲いっぱいに かってて 雨降る中を 濡れ来たんやで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一二六)

古今相聞往来(下)編(36)早く宵(よひ)より

2014年01月21日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年1月21日】

明日あすよりは 恋ひつつ行かむ 今夜こよひだに 早くよひより 紐解ひもと我妹わぎも



ままにならない 逢瀬おうせであれば
せめてゆめなか いたいものと
見たい見て欲し お互い思て
夢に来い来い 夜毎よごと日毎ひごと
  
 問答】
うつせみの 人目ひとめしげみ 逢はずして 年のぬれば けりともなし
《人の目が おおえんで 日ィ過ぎた このまんまやと 生きた気せんわ》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一〇七)
うつせみの 人目ひとめしげくは ぬばたまの よるいめにを ぎて見えこそ
《人の目が いんやったら 夢の中 夜毎よごと夜毎よごとに 出て来たどうや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一〇八)
   
 問答】
すべもなき 片恋かたこひをすと この頃に 我が死ぬべきは いめに見えきや
《どもならん 片思かたもいしてて もう今は 死になうちを 夢見たやろか》 
                          ―作者未詳―(巻十二・三一一一)
                          (こちらが思うと相手の夢に出る→こんな思うに夢出たやろか)
いめに見て ころもを取り よそに 妹が使つかひぞ 先立ちにける
《夢見たで それで行こて 身支度みじたくを してた矢先に 使い来たんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一一二)
   
 問答】
明日あすよりは 恋ひつつ行かむ 今夜こよひだに 早くよひより 紐解ひもと我妹わぎも
明日あしたから がれ旅やで せめて今日 よいから共寝よや さあおびきや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一一九)
今さらに めや我が背子せこ 新夜あらたよの 一夜ひとよもおちず いめに見えこそ
《今なって 共寝ても仕様しょうない これからの 毎夜毎夜に 夢出て来てや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一二〇)

古今相聞往来(下)編(35)千度(ちたび)思へど

2014年01月17日 | 古今相聞往来編(下)
【掲載日:平成26年1月17日】

逢はむとは 千度ちたび思へど ありがよふ 人目ひとめを多み 恋つつぞ




ああやこうと 飛び交う言葉
冗談まかせ 遣り取りいが
皮肉ひにく弁解べんかい たび重なるは
亀裂ひびが入るよ 二人の仲に
  
 問答】
逢はなくは しかもありなむ 玉梓たまづさの 使つかひをだにも 待ちやかねてむ
んは まあ仕方しょうないが 使いかて なかなかんの どうなってんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一〇三)
逢はむとは 千度ちたび思へど ありがよふ 人目ひとめを多み 恋つつぞ
《ずううっと いと思うが 往き来する 人目いんで がれてる》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一〇四)
   
 問答】
人目ひとめ多み ただに逢はずて けだしくも が恋ひ死なば が名ならむも
《もしワシが われんままで 恋死んだなら 名前るのん 誰やろかいな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一〇五)
相見あひみまく しきがためは君よりも 我れぞまさりて いふかしみする
いたいて 思てるのんは あんたより うちのいで いがかりな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一〇六)
   
 問答】
ねもころに 思ふ我妹わぎもを 人言ひとごとの しげきによりて よどむころかも
こに 思てるのんに 行けんのは 悪噂うわさひどうて 戸惑とまどうてんや》
                          ―作者未詳―(巻十二・三一〇九)
人言ひとごとの しげくしあらば 君もれも えむと言ひて ひしものかも
《人噂 ひどなった時 二人仲 終り仕様しょうて ちぎったちゃうで》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一一〇)
   
 問答】
ありありて のちも逢はむと ことのみを かたく言ひつつ 逢ふとは無しに
《この気持ち 途切とぎれさせんと 後々あとあとに お(結ばれよう)うたけど おとせんがな》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一一三)
ありありて 我れも逢はむと 思へども 人のことこそ しげき君にあれ
後々あとあとに お思たんは 確かやが あんた醜聞うわさが おおいんや》
                           ―作者未詳―(巻十二・三一一四)