令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

憶良編(11)渡るすべ無し

2009年09月18日 | 憶良編
【掲載日:平成21年9月28日】

袖振らば 見もかはしつべく 近けども  
           渡るすべ無し 秋にしあらねば 



憶良は 夜空を眺めていた 
かささぎが 天の川に 羽根を広げている
〔織姫と彦星 今宵の逢瀬おうせ 
 月も良し 星も良しか〕 
これまでの 七夕歌が 並べられている 
何時いつとはなしに 多くをんだものだ
 ひとつ 物語仕立てに 入れ替えてみるか〕 

〔先ずは 二人の 切ない思いを〕 
牽牛ひこぼしは 織女たなばたつめと 天地あめつちの 別れし時ゆ いなうしろ 川に向き立ち  思ふそら 安からなくに 嘆くそら 安からなくに 
《彦星はんと 織姫おりひめはん 太古の昔 仲裂かれ 思い交わせず 嘆きおる》
青波あをなみに 望みは絶えぬ 白雲に 涙は尽きぬ 
かくのみや  いきき居らむ かくのみや 恋ひつつあらむ

《逢いたい気持ち 波はばむ 白い雲見て 涙する 溜息ためいきもらし 恋焦がる》
ぬりの 小舟をぶねもがも たままきの かいもがも 
あさなぎに いき渡り 夕潮に いぎ渡り 
ひさかたの あま川原かはらに あま飛ぶや 領巾ひれ片敷き 
玉手たまでの 玉手たまでさしへ あまた夜も ねてしかも 秋にあらずとも

《赤い船欲し 櫂も欲し 朝は川越え 夕べ漕ぎ  天の川原かわらに 領布ひれ敷いて 腕をからめて 寝てみたい 七夕あきだけごて 幾晩も》
                         ―山上憶良―〔巻八・一五二〇〕 

風雲は 二つの岸に 通へども わが遠妻とほづまの ことそ通はぬ
《風や雲 岸から岸へ 渡るのに いとしお前の 声届かへん》
                         ―山上憶良―〔巻八・一五二一〕 
たぶてにも げ越しつべき あまがは 隔てればかも あまたすべ無き
《石投げて 届きそやのに 天の川 水が邪魔して こんなに遠い》 
                         ―山上憶良―〔巻八・一五二二〕 
天の川 いと川波は 立たねども 伺候さもらかたし 近きこの瀬を
《天の川 波も立たんと 近いのに たずねもでけん 口惜くやしいこっちゃ》
                         ―山上憶良―〔巻八・一五二四〕 
袖振らば 見もかはしつべく 近けども 渡るすべ無し 秋にしあらねば 
《袖振るの 見えてるやんか それそこに なんで渡れん 七夕あきちゃうからか》
                         ―山上憶良―〔巻八・一五二五〕 
〔毎夜 毎夜 相見ながら ままならぬ逢瀬おうせ
 どんなに 悔しく 切なく 恋焦がれることであろう 
 それだけに 逢える日のうれしさ  待ち遠しさは いかばかり・・・〕