【掲載日:平成21年9月3日】
命あらば 逢ふこともあらむ わが故に
はだな思ひそ 命だに経ば
【越前市 味真野苑 犬養孝揮毫「天の火もがも」歌碑】

配流の生活が 続く
苛立つ 宅守の心に
向けてはならぬ 恨み辛みが 娘子へ
遠くあれば 一日一夜も 思はずて あるらむものと 思ほしめすな
《離れたら 一晩くらい 忘れんの あるん違うかと 思わんといて》
―中臣宅守―〔巻十五・三七三六〕
他人よりは 妹そも悪しき 恋もなく あらましものを 思はしめつつ
《悪いんは わし惚れさせた お前やで 辛い 思いを させるやなんて》
―中臣宅守―〔巻十五・三七三七〕
矛先は 神へも向かう
天地の 神なきものに あらばこそ 吾が思ふ妹に 逢はず死にせめ
《恋慕う お前逢わんと 死んでまお ほんま神さん 居れへんのなら》
―中臣宅守―〔巻十五・三七四〇〕
帰京の願望と 絶望が 交錯する
命をし 全くしあらば あり衣の ありて後にも 逢はざらめやも
《この命 せめて尽きんと 居ったなら いつかその内 逢えるできっと》
―中臣宅守―〔巻十五・三七四一〕
吾妹子に 恋ふるに吾は たまきはる 短かき命も 惜しけくもなし
《もう良えわ お前恋して 苦しいて どうせ短い 命やもんな》
―中臣宅守―〔巻十五・三七四四〕
〔またまた 甘ったれて 困った人〕
命あらば 逢ふこともあらむ わが故に はだな思ひそ 命だに経ば
《そう言いな 命あったら 逢えるやん 思い詰めなや うち気に病んで》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七四五〕
他国に 君をいませて 何時までか 吾が恋ひ居らむ 時の知らなく
《よその国 あんた行かせて 寂しいに 待ち続けんの 何時までやろか》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七四九〕
他国は 住み悪しとそいふ 速けく 早帰りませ 恋ひ死なぬとに
《早よ早よに うち死なん間に 帰ってや そっちは住むん 辛いて聞くで》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七四八〕
甘えを 嗜める娘子に 女の弱さが 滲む

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