【掲載日:平成23年2月22日】
天離る 鄙とも著く
ここだくも 繁き恋かも 和ぐる日も無く
迎えて 天平二十年〔748〕新春
越 二度目の春
吹く風は 強く 寒い
池主を失くした 痛手
胸に染み入るものの
歌停止の封は 少し 緩みを見せていた
都では見られぬ 越の景色 風物
これらが 家持の 歌心を 揺らす
東風 いたく吹くらし 奈呉の海人の 釣する小舟 漕ぎ隠る見ゆ
《東風 強吹くみたい 奈呉の海人 釣りの小舟が 波見え隠れ》
―大伴家持―〔巻十七・四〇一七〕
湊風 寒く吹くらし 奈呉の江に 妻呼び交し 鶴多に鳴く
《湊風 寒吹くみたい 奈呉の江に 連れ呼び交し 鶴鳴いとおる》
―大伴家持―〔巻十七・四〇一八〕
天離る 鄙とも著く ここだくも 繁き恋かも 和ぐる日も無く
《遠い鄙 よう言たもんや 奈良宮が 偉う恋して こころ和がんで》
―大伴家持―〔巻十七・四〇一九〕
越の海 信濃の浜を 行き暮らし 長き春日も 忘れて思へや
《信濃浜 一春日歩き 通したが 間ずうっと 都思てた》
―大伴家持―〔巻十七・四〇二〇〕
まだ開けやらぬ 越の春
吹く風に任せて歩く 浜
思うは 都 妻
そして 友
家持の胸を 浜風 吹き抜ける