【掲載日:平成21年9月7日】
魂は 朝夕べに 賜ふれど
吾が胸痛し 恋の繁きに
【越前市 味真野苑 犬養孝揮毫「塵泥の」歌碑】

娘子の 懸命の励まし
宅守の悲しみに 力が戻る
たちかへり 泣けども吾は しるし無み 思ひわぶれて 寝る夜しそ多き
《幾晩も 辛い思いで 床に就く なんぼ泣いても ども成らんので》
―中臣宅守―〔巻十五・三七五九〕
さ寝る夜は 多くあれども 物思はず 安く寝る夜は 実なきものを
《夜来たら 仕様ことなしに 寝るけども ちゃんと寝たこと ほんまにないわ》
―中臣宅守―〔巻十五・三七六〇〕
〔悲しみは 吾ひとりにあらず
女身で耐える娘子 もっと辛かろう〕
山川を 中に隔りて 遠くとも 心を近く 思ほせ吾妹
《山や川 あって隔てて 遠いけど 心近いと 思てやお前》
―中臣宅守―〔巻十五・三七六四〕
〔わしからも 心の支え 贈るとするか〕
まそ鏡 かけて偲へと 奉り出す 形見の物を 人に示すな
《気にかけて 偲んで欲しと 送るから わしの身代わり 他人に見せなや》
―中臣宅守―〔巻十五・三七六五〕
うるはしと 思ひし思はば 下紐に 結ひ着け持ちて 止まず思はせ
《わしのこと ほんま恋しと 思うなら 肌身に着けて ずっと偲んで》
―中臣宅守―〔巻十五・三七六六〕
〔ああ やはり 思うた通りの お方
この優しさ 都に 誰居ろうか〕
魂は 朝夕べに 賜ふれど 吾が胸痛し 恋の繁きに
《真心を 朝な夕なに 思うけど 恋し恋しが 胸締め付ける》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七六七〕
この頃は 君を思ふと 術も無き 恋のみしつつ 哭のみしそ泣く
《近頃は 思うていても 甲斐無うて 恋し思うて 泣いてばっかり》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七六八〕
昔の 優しさに触れ 思わず 甘えの出る娘子

<あぢま野>へ