【掲載日:平成21年9月22日】
海原の 沖行く船を 帰れとか
領布振らしけむ 松浦佐用姫
【ひれふる山と虹の松原 浜崎の北東より】

《気鬱の病 これ療養の要ありにつき 暫しの 任務停止を命ず
〈附〉領布振岳よりの眺め並びに松浦川の鮎
共に病に効能ありと聞く お試しあれ》
憶良のもとに 「令状」が届く
□伝えに言う 大伴狭手彦 韓国への任務を負う
松浦潟を船出 船 はるかな沖に
時に 狭手彦の 思い人 佐用姫
別れの易く 会うの難きを知り
高山に上り 船よ帰れと 領布を振る
船は戻らず 泣きくれる 佐用姫
七日七晩の 嘆きの後 石と化す
世の人 この高山をして 領布振の嶺と称す
○山の名の由来歌
遠つ人 松浦佐用姫 夫恋に 領布振りしより 負へる山の名
《佐用姫はん 夫恋しと 領布振った 付いた山の名 そこから来てる》
○後の人 付け加えての歌
山の名と 言ひ継げとかも 佐用姫が この山の上に 領布を振りけむ
《山に名を 付けて伝えて 言いはって 佐用姫はんが 領布振りはった》
○更に後の人 付け加えての歌
万代に 語り継げとし この岳に 領布振りけらし 松浦佐用姫
《いつまでも 語り継いでと この山で 領布振ったんや 佐用姫はんが》
―?―〔巻五・八七一~八七三〕
憶良は 領布振山の上 はるか沖合いを 眺めている
〔可哀相に 佐用姫の気持ちを 伝える歌が ないではないか
代わって わしが 詠ってやらねば〕
○更に更に後の人 付け加えての歌
海原の 沖行く船を 帰れとか 領布振らしけむ 松浦佐用姫
《沖へ行く 船還ってと 命がけ 領布振りはった 佐用姫はんが》
行く船を 振り留みかね 如何ばかり 恋しくありけむ 松浦佐用姫
《恋し船 止めさすことが 出けへんで 悔しかったろ 佐用姫はんは》
―山上憶良?―〔巻五・八七四~八七五〕
〔意地を張るのも 辛いわい
「命」に弱いは 官人の常
旅人殿も 痛いところを つきなさる
お陰で いい気晴らしを させて貰った
持つべきものは 友・・・〕
謹厳実直の士にも 情けは届く

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