【掲載日:平成23年8月30日】
十月 時雨の常か
我が背子が やどの黄葉 散りぬべく見ゆ
少納言職を得 家持は多忙を極めていた
朝廷の変化
漏れ聞いては居たものの
いざ その空気に触れ
緊迫の漂い 目の当たりに
聖武帝退位が
天平感宝元年(749)七月四日
皇太子 阿部内親王 孝謙天皇となり
天平勝宝と改元
七日 藤原仲麻呂 大納言
政治は 孝謙天皇の生母 光明皇大后中心へ
皇后官職を改め 『紫微中台』とし
実質権限は 長官仲麻呂に
中台要職に 氏族有為人材を取り込む
仲麻呂 大納言昇進と同時期
橘奈良麻呂 参議に
年来の政敵が 廟堂で顔合わす事態
これを機に 奈良麻呂 謀議の働きかけ
天平十七年(745)に次ぎ 二度目
誘われし 佐伯全成 再度の拒否 謀議頓挫
そんな中 家持帰任後の最初の宴
紀飯麻呂屋敷 十月二十二日
【船王 恭仁京の古歌を詠む】
手束弓 手に取り持ちて 朝狩りに 君は立たしぬ 棚倉の野に
《手束弓 手に取りなされ 朝狩に お立ちなられた 棚倉の野に》
―作者未詳―(巻十九・四二五七)
【中臣清麻呂 明日香古京の古歌を詠む】
明日香川 川門を清み 後れ居て 恋ふれば京 いや遠そきぬ
《瀬ぇ清い 明日香の川に 未練して 残っとったら 田舎なったで》
―作者未詳―(巻十九・四二五八)
二首の 往古懐かしみ古歌に導かれ
家持 散りゆく 黄葉を惜しみ
十月 時雨の常か 我が背子が やどの黄葉 散りぬべく見ゆ
《十月の 時雨の雨に 誘われて 飯麻呂の庭の 黄葉散り相や》
―大伴家持―(巻十九・四二五九)
この集い
政局に溜息する旧守派氏族
大伴 紀 中臣が 参集している