【掲載日:平成22年5月28日】
葉根蘰 今する妹を 夢に見て
情のうちに 恋ひ渡るかも
家持は 思わず目を見張った
大宰府から 戻った 佐保の屋敷
麗しい 乙女がいる
〈どこの・・・〉
と思った 家持
〈おお あの女童ではないか〉
養老二年〈718〉大伴旅人に 長男誕生
家持
佐保大納言家待望の 後継ぎ
時に 旅人五十四才
神亀四年〈727〉父の大宰府赴任に同行
約三年の大宰府滞在は
少年家持に 色々を教えた
父の政務
筑紫歌壇
そこでの 大人の付き合い
取り交わされた 歌の数々
分けても
女人と交わされた歌に 早熟の芽を育てていた
葉根蘰 今する妹を 夢に見て 情のうちに 恋ひ渡るかも
《大人なる 蘰被る児 夢に見て 秘かに恋を し続けてんや》
―大伴家持―〈巻四・七〇五〉
葉根蘰 今する妹は 無かりしを いづれの妹そ 幾許恋ひたる
《うち知らん 蘰被る児 居てへんで 何処の何方に 恋したんやろ》
―童 女―〈巻四・七〇六〉
住む館は 異にするものの
佐保大納言邸 屋敷内に 起居する者同士
弟 書持と共に 戯れ遊んだ 幼い日々
幼馴染の気安さ 家持は 誘いの歌を贈る
まだ 幼さ留めた 乙女
それでも
即妙の 返し歌
やがて 妾との飯事のような 生活が始まる