令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

あぢま野悲恋(2)行かましものを

2009年09月09日 | あぢま野悲恋
【掲載日:平成21年9月1日】

君がむた 行かましものを おなじこと
         おくれてれど きことも無し



【味間野 味間野神社から東方を望む】


ここは 越前 味真野あじまの
配所は 人里離れた 山間やまあい
荒涼こうりょうとした 原野が広がる

思うは 弟上娘子おとがみのおとめばかり
遠き山 関も越え来ぬ  今更に 逢ふべきよしの 無きがさぶしさ 
《あの関所 越えてしもうた もう逢えん  これからどない したらえんや》
                       ―中臣宅守なかとみのやかもり―〔巻十五・三七三四〕
吾妹子わぎもこに 逢坂山あふさかやまを 越えてて 泣きつつれど 逢ふよしも無し
《逢えるう 逢坂山を 越えてきて 泣き暮らしても 逢うことできん》
                       ―中臣宅守なかとみのやかもり―〔巻十五・三七六二〕
おもに 逢ふものならば しましくも いもが目れて あれらめやも
おもてたら 逢えるて言うに 思てても なんでお前に 逢われへんのや》
                       ―中臣宅守なかとみのやかもり―〔巻十五・三七三一〕
あかねさす 昼は物思ものおもひ ぬばたまの よるはすがらに のみし泣かゆ
《昼のは 思い続けて よるで 一晩ずっとと 泣いてるこっちゃ》
                        ―中臣宅守なかとみのやかもり―〔巻十五・三七三二〕

悄然しょうぜんたる日々を過ごす 宅守やかもり
気弱な 宅守やかもりを知る 娘子おとめから 
気丈さ取り戻した 便りが届く 
ぬばたまの よる見し君を くるあした 逢はずまにして 今そくやしき                      《晩逢うて 朝逢わへんで 行ってもた 今おもおたら 悔しいこっちゃ》
                        ―狭野弟上娘子さののおとがみのをとめ―〔巻十五・三七六九〕
人のうる 田は植ゑまさず いまさらに 国別れして あれはいかにせむ
みんなする〔夫婦らし 田植えもせんと暮らしもせんと〕 遠い国 あんた行ったで どしたらんや》
                        ―狭野弟上娘子さののおとがみのをとめ―〔巻十五・三七四六〕
君がむた 行かましものを おなじこと おくれてれど きことも無し
《こんななら 一緒行ったら 良かったで 残って良えこと なんもあれへん》
                        ―狭野弟上娘子さののおとがみのをとめ―〔巻十五・三七七三〕



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