【掲載日:平成23年5月17日】
・・・左夫流その児に 紐の緒の いつがり合ひて
鳰鳥の 二人並び居・・・
〔嘆かわしい限りじゃが これも 世の流れか
書記官 尾張少咋の奴
いくら 妻女殿 京に置きしとはいえ
新しきとの 戯れ
それも 屋敷内に入れての 体たらく
守として 説諭行うべしじゃが
直には いかにも 大人げ無い〕
大汝 少彦名の 神代より 言ひ継ぎけらく
《大汝 少彦名が 居った云う 神の代からの 言い伝え》
父母を 見れば尊く 妻子見れば 愛しくめぐし
うつせみの 世の理と かく様に 言ひけるものを
《「父母見たら 尊いで 妻子見たなら 可愛らしで
それが世間 理や」 それはそうやで ホンマやで》
世の人の 立つる言立て ちさの花 咲ける盛りに
愛しきよし その妻の児と 朝夕に 笑みみ笑まずも うち嘆き 語りけまくは
《皆そう思い 誓いして ちさ咲く花の 盛りどき
愛しい妻と 朝夕に 嬉し悲しを 分かち合い 嘆きながらも 言うのんや》
永久に かくしもあらめや 天地の 神言寄せて
春花の 盛りもあらむと 待たしけむ 時の盛りぞ
《「苦しいのんは 続かへん 神さんちゃんと 見てはって
春の花咲く 時来るで」 そう言て待った 春今や》
離れ居て 嘆かす妹が いつしかも 使の来むと 待たすらむ 心寂しく
《離れて暮らす 奥さんが 使いは何時に 来るんかと 心寂しに 待ってるに》
南風吹き 雪消溢りて 射水川 流る水泡の 寄る辺なみ
左夫流その児に 紐の緒の いつがり合ひて
鳰鳥の 二人並び居 奈呉の海の 沖を深めて さどはせる
《春風吹いて 雪溶けて 射水川に流れる 泡みたい
流離い人の 左夫流児と 紐の緒みたい 絡まって
鳰鳥みたい 連れ立って 奈呉海みたい 沖深う はまって仕舞て 女狂うてる》
君が心の 術も術なさ
《あんたの心 救い様ないな》
―大伴家持―〔巻十八・四一〇六〕
青丹よし 奈良にある妹が 高々に 待つらむ心 然にはあらじか
《奈良都で 家守る妻 背伸びして 待ってる気持ち それが夫婦や》
―大伴家持―〔巻十八・四一〇七〕
里人の 見る目恥づかし 左夫流児に さどはす君が 宮出後姿
《里人の 見る目思うと 恥ずかしい 罷り出時の いそいそ姿》
―大伴家持―〔巻十八・四一〇八〕
紅は 移ろふものぞ 橡の 馴れにし衣に なほ及かめやも
《紅は すぐ色あせる 地味色の 着なれた衣に 勝るもんない》
―大伴家持―〔巻十八・四一〇九〕
【五月十五日】
左夫流児が 斎きし殿に 鈴懸けぬ 駅馬下れり 里もとどろに
《左夫流児が 居着く屋敷に 駅鈴なしの 早馬来たで 騒動連れて》
―大伴家持―〔巻十八・四一一〇〕
【五月十七日】