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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

家待・越中編(二)(07)左夫流(さぶる)その児に

2011年07月29日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年5月17日】

・・・左夫流さぶるその児に ひもの いつがり合ひて 
                  鳰鳥にほどりの 二人・・・



 嘆かわしい限りじゃが これも 世の流れか
 書記官 尾張少咋おわりのおくいの奴 
 いくら 妻女さいじょ殿 くにに置きしとはいえ
 新しきとの たわむ
 それも 屋敷うちに入れての ていたらく
 かみとして 説諭せつゆ行うべしじゃが
 じかには いかにも 大人げ無い〕

大汝おほなむち 少彦名すくなひこなの 神代かみよより ぎけらく
大汝おおなむち 少彦名すくなひこなが ったう 神のからの 言い伝え》
父母ちちははを 見ればたふとく 妻子めこ見れば かなしくめぐし 
うつせみの 世のことわりと かくさまに 言ひけるものを
 
《「父母ちちはは見たら 尊いで 妻子つまこ見たなら 可愛かいらしで
 それが世間 ことわりや」 それはそうやで ホンマやで》
世の人の 立つる言立ことだて ちさの花 咲ける盛りに 
しきよし その妻の児と 朝夕あさよひに みみまずも うち嘆き 語りけまくは
 
みなそう思い 誓いして ちさ咲く花の さかりどき
 いとしい妻と 朝夕に 嬉し悲しを かち合い 嘆きながらも うのんや》
永久とこしへに かくしもあらめや 天地あめつちの 神こと寄せて 
春花の  盛りもあらむと 待たしけむ 時の盛りぞ
 
《「苦しいのんは  続かへん 神さんちゃんと 見てはって
 春の花咲く 時来るで」 そうて待った 春いまや》
はなれ居て 嘆かす妹が いつしかも 使のむと 待たすらむ 心さぶしく 
《離れて暮らす 奥さんが 使いは何時いつに るんかと 心さみしに 待ってるに》
南風みなみ吹き 雪消ゆきげはふりて 射水川いみづかは 流る水泡みなわの 寄るなみ 
左夫流さぶるその児に ひもの いつがり合ひて 
鳰鳥にほどりの 二人 奈呉なごの海の おきを深めて さどはせる
 
《春風吹いて 雪溶けて 射水川かわに流れる あわみたい
 流離さすらびとの 左夫流さぶると ひもみたい からまって
 鳰鳥におどりみたい 連れ立って 奈呉なご海みたい おきふこう はまって仕舞しもて 女狂くるうてる》
君が心の すべすべなさ
《あんたの心 救いないな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一〇六〕

青丹あおによし 奈良にある妹が 高々たかだかに 待つらむ心 しかにはあらじか
奈良ならみやで 家まもる妻 伸びして 待ってる気持ち それが夫婦みょうとや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一〇七〕
里人の 見る目づかし 左夫流さぶるに さどはす君が みや後姿しりぶり
里人さとびとの 見る思うと 恥ずかしい まかどきの いそいそ姿》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一〇八〕
くれなゐは うつろふものぞ つるはみの 馴れにしきぬに なほかめやも
くれないは すぐ色あせる 地味じみ色の 着なれたふくに まさるもんない》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一〇九〕
                               五月十五日】

左夫流さぶるが いつきし殿に 鈴けぬ 駅馬はゆま下れり 里もとどろに
左夫流さぶるが 着く屋敷に 駅鈴すずなしの 早馬来たで 騒動そうどう連れて》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一〇〕
                               五月十七日】


家待・越中編(二)(08)香(かく)の木(こ)の実を

2011年07月26日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年5月20日】

・・・ほこ持ち し時
         時じくの かくの実を かしこくも のこし給へれ・・・



聖武ていの 詔書しょうしょを思うたび
家持 の胸は 熱くなる
天皇おおきみの御代 栄えのいしずえ
 橘諸兄もろえ様をいて無い
 我ら大伴 伴造とものみやつこの役目 果たす言えど
 かなめとなるは 「きつ
 いかな 権勢けんせいとはいえ 「とう」はかなわぬ〕

けまくも あやにかしこし 皇神祖すめるきの 神のおおに 田道間守たぢまもり 常世とこよに渡り 
ほこ持ち し時 時じくの かくの実を かしこくも のこし給へれ 

天皇おおきみの ご先祖さんの その昔 田道間守たじまもりさん 常世とこよ行き
 ほこささげて 戻りて かおえ実の たちばなを 持って帰られ 伝え来た》
国もに ひ立ち栄え 春されば 孫枝ひこえいつつ 
霍公鳥ほととぎす 鳴く五月さつきには 初花はつはなを 枝に手折たをりて 娘子をとめらに つとにもりみ
 
《今は国中くにじゅに 植えられて 春になったら 枝伸ばし
 ほととぎす鳴く 五月咲く 初花枝を 手に取って 乙女ら贈る 土産みやげにと》
白栲しろたへの 袖にも扱入こきれ かぐはしみ 置きて枯らしみ 
あゆる実は たまきつつ 手に巻きて 見れどもかず
 
《袖入れ香り 楽しんで 花散ったあと 落ちた実に
 糸とおしして 手に巻いて きもせんとに で遊ぶ》
秋づけば 時雨しぐれの雨降り あしひきの 山の木末こぬれは くれなゐに にほひ散れども 
たちばなの 成れるそのは ひた照りに いや見がしく

時雨しぐれの秋は 山の木々 紅葉あこうになって 散ってゆく
 けどたちばなの 成った実は つやと輝き 人目引く》
み雪降る 冬に至れば しも置けども その葉も枯れず 常磐ときはなす いやさかえに 
しも置く冬が 来たとても その葉枯れんと 常緑みどりまま》
しかれこそ 神の御代みよより よろしなへ このたちばなを 時じくの かくの実と 名けけらしも
《それやからこそ 神代かみよから このたちばなを いつまでも かおり続ける 木の実やと 言われるのんは もっともや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一一〕

たちばなは 花にもにも 見つれども いや時じくに なほし見が
たちばなは はなどきどき えけども どんな時でも また見となるで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一二〕
                                五月二十三日】

京にのぼれば 是非にも橘諸兄もろえ様にと 家持うた

見まくり 思ひしなへに かづらけ かぐはし君を 相見つるかも
《逢いたいと おもてた橘卿あんた かずらつけ 素敵な姿 見かけましたで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一二〇〕
朝参まゐいりの 君が姿を 見ずひさに ひなにし住めば れ恋ひにけり
《朝廷の 橘卿あんたの姿 久しぶり 田舎いなかって 焦がれてました》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一二一〕
                               五月二十八日】



家待・越中編(二)(09)さ百合(ゆり)引き植ゑて

2011年07月22日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年5月24日】

百合ゆり花 ゆりも逢はむと
         下延したはふる 心し無くは 今日けふめやも



ていを 思い
橘諸兄もろえを 思い
都を思う家持に おのずとに 大嬢おおいらつめの面影

大君おほきみの とほ朝廷みかどと き給ふ つかさのまにま み雪降る 越に下り 
あらたまの 年の五年いつとせ 敷栲しきたへの 手枕たまくらまかず ひも解かず まろをすれば
 
《この国の  遠い政府に 任受けて 雪降る越に やって来て
 五年になるが その間 柔らか手枕まくら もせんと ひもも解かんと 着衣まる日々》
いぶせみと こころなぐさに なでしこを やどにほし 夏の野の さ百合ゆり引き植ゑて 
うっし気持ち 晴らそうと 撫子なでしこ花を 庭に植え 夏野の百合ゆりを 移し替え》
咲く花を 出で見るごとに なでしこが その花妻はなづまに さ百合ゆり花 ゆりも逢はむと 
《花見よ思て 庭出ると 撫子なでしこ妻に 似てるがな 百合ゆりばな見ると 逢いとなる》
なぐさむる 心し無くは 天離あまざかる ひな一日ひとひも あるべくもあれや
《心なぐさみ 出けへんで 都の遠い このこしで 一日たりと 暮らすんつらい》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一三〕

なでしこが 花見るごとに 娘子をとめらが まひのにほひ 思ほゆるかも
撫子なでしこの 花見るたんび 可愛かいらしい お前の顔 思い出すがな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一四〕
百合ゆり花 ゆりも逢はむと 下延したはふる 心し無くは 今日けふめやも
百合ゆりを見て きっと逢えると 思わんと 今日一日を 過ごされへんわ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一五〕
                               五月二十六日】



家待・越中編(二)(10)面(おも)やめづらし

2011年07月19日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年5月27日】

去年こぞの秋 相見しまにま 今日けふ見れば
                  おもやめづらし 都方人かたひと



じょう 久米広縄くめのひろつなが 帰ってきた
足掛け  八ヶ月に及ぶ 任務であった
朝集使ちょうしゅうしとしての任
国司 ・郡司ら 勤務状況の報告
大役 を終えての帰還に 
長官家持 自邸でのうたげに 慰労ねぎらいを表す

大君おほきみの まきのまにまに り持ちて つかふる国の としの内の 事かたね持ち 玉桙たまほこの 道に出で立ち 岩根踏み 山越え野行き 都辺みやこへに ゐし我が背を 
天皇おおきみの 任命受けて 政務い おつかえしてる こしこくの 一年間に した仕事 取りまとめして ここって いわみち踏んで 野山越え 都行かれた 広縄おまえ様》
あらたまの 年がへり 月かさね 見ぬ日さまねみ 恋ふるそら 安くしあらねば 
《年も変わって 月日ち 逢われん日ィが 続いてた 恋しさつのり 気ィ滅入めいり》
霍公鳥ほととぎす 鳴く五月さつきの 菖蒲草あやめぐさ よもぎかづらき 酒宴さかみづき 遊びぐれど 
《ほととぎす鳴く 五月には 菖蒲あやめよもぎ かずらにし 酒のうたげで 遊んだが》
射水川いみづかは 雪消ゆきげはふりて く水の いや増しにのみ 
射水いみずの川の 雪解けの あふれ流れる 水みたい 恋しさ余計よけい つのるだけ》
たづが鳴く 奈呉なご江のすげの ねもころに 思ひむすぼれ 嘆きつつ が待つ君が 
《鶴鳴く奈呉なご はえすが その心根は ふさがって 溜息ためいきついて 待つ広縄あんた
をはり 帰りまかりて 夏の野の さ百合ゆりの花の 花ゑみみに にふぶにみて 逢はしたる 
《任務を終えて 帰られて 夏の野に咲く 百合ゆりはなの にこやか笑顔 見られたな》
今日けふを始めて 鏡なす かくしつね見む 面変おもがはりせず
 よし今日からは その笑顔 ずっと見ましょう その笑顔》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一六〕

去年こぞの秋 相見しまにま 今日けふ見れば おもやめづらし 都方人かたひと
《去年秋 別れたままで 今日見たら これは晴れやか みやこがおやで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一七〕
かくしても 相見るものを すくなくも 年月としつきれば 恋ひしけれやも
《こないして また逢えるのに 逢えん日々 えろう恋して つらかったんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一八〕
                               五月二十七日】

ながの 帰還きかんびを 霍公鳥ほととぎすに託して

いにしへよ しのひにければ 霍公鳥ほととぎす 鳴く声聞きて こひしきものを
《昔から 人しのう ほととぎす 鳴く声聞くと 恋がれるで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一一九〕
                               五月二十七日】



家待・越中編(二)(11)雨も降らぬか

2011年07月15日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年5月31日】

この見ゆる 雲ほびこりて との曇り 
            雨も降らぬか 心だらひに



国守こくしゅ 家持にとって
事の第一は 徴税ちょうぜい
なれば こそ 税の元となる 農作物の出来
これが成否は 気懸り一途いちず

この 年 天平感宝元年〔749〕は
 五月六日より 日照り続き
この 月も 終わろうとしているに
いまだ 雲さえ見ない

六月一日 峠あたりに かすかな雲の影
 守 家持
懸命 の 雨乞い歌

天皇すめろきの 敷きます国の あめの下 四方よもの道には 馬のつめ いくすきはみ ふなの いつるまでに 
天皇おおきみの おおさめされる この国は 馬の駆け行く 道の果て 船のぎ着く 海の果て》
いにしへよ 今のをつつに 万調よろづつき まつつかさと 作りたる そのなりはひ 
いにしえ今に 到るまで みつぎ物なか 一番の 作物さくもつ作る 農作業》
雨降らず 日のかさなれば 植ゑし田も きし畑も 朝ごとに しぼみ枯れゆく 
《雨の降らん日 続いたで 植えた稲田いなだも 種いた 畑も日に日 枯れしぼむ》
そを見れば 心を痛み 緑児みどりごの ふが如く あまつ水 あふぎてぞ待つ 
《それを見てると 情けて 乳をしがる 赤児ぉみたい 雨おもて 天仰ぐ》
あしひきの 山のたをりに この見ゆる あま白雲しらくも 海神わたつみの おき宮辺みやへに 立ち渡り とのぐもり合ひて 雨もたまはね
《おおあの山の 尾根あたり 白雲しらくも立った その雲よ 海越えおきの 果てまでも 空一面を い尽くし 雨降らせてや 頼みます》 
大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一二二〕

この見ゆる 雲ほびこりて との曇り 雨も降らぬか 心だらひに
《見えとおる 雲よ広がれ 一面に 雨よ降れ降れ あふれる程も》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一二三〕
                                    六月一日】

じりじり と待つ 一日 また一日
三日目  待望の雨粒 天より地へと

我がりし 雨は降りぬ かくしあらば 言挙ことあげせずとも としは栄えむ
《ああ降った 願いかのうた これでもう 言うことないで 秋は豊作みのりや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一二四〕
                                    六月四日】



家待・越中編(二)(12)妻問(つまどひ)の夜ぞ

2011年07月12日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年6月3日】

やすの川 い向ひちて 年のこひ
             長き子らが 妻問つまどひの夜ぞ




畏れていた 旱魃かんばつも 恵みの雨で 避け終え
 の育ちも 順調な 夏が過ぎていく
やがて  秋
待ち焦がれ の 七月七日を 迎えた
〔地上の ひとみな 雲の動きに 一喜一憂
 天上てんじょう
 天の川の 増水に 牽牛けんぎゅう織姫おりひめ 一喜一憂
  さもあろう
 なにせ 年に一度の逢瀬おうせ
  叶うか叶わぬのかの 一夜なれば・・・〕

あまらす 神の御代みよより やすの川 中にへだてて 
向ひ立ち 袖振りかはし いきに 嘆かす子ら
 
天照あまてらす おお御神みかみの 昔から やすの流れを 中にして
 向かい合わせで 袖振って 嘆きうてる お二人よ》
渡り守 船もまうけず 橋だにも 渡してあらば そのゆも い行き渡らし 
たづさはり うながけりて 思ほしき 言も語らひ なぐさむる 心はあらむを
 
わたしの人も 船もて せめて橋でも あったなら その上行って 川越えて
 手ぇを繋いで 肩抱いて 思いのたけを 述べうて 心なぐさめ 出来るのに》
何しかも 秋にしあらねば 言問ことどひの ともしき児ら 
《なんで七夕たなばた ちゃう時は 声掛けすらも 出けんのや》
うつせみの 世の人我れも 此処ここをしも あやにくすしみ 
かはる 毎年としのはごとに あまの原 振りけ見つつ 言ひぎにすれ

《地上のわしは 思もてみる なんと数奇すうきな 言い伝え
 来る年毎に 空仰ぎ 伝え行こう ずううっと》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一二五〕

あまの川 橋渡せらば そのゆも い渡らさむを 秋にあらずとも
《天の川 橋があったら その上を 渡れるのんに 七夕あきちごても》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一二六〕
やすの川 い向ひちて 年のこひ 長き子らが 妻問つまどひの夜ぞ
安川やすかわに 向きて立って 一年も なごがれた 出合いの晩や》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一二七〕
                                   七月七日】
        ――――――――――――――
心置きなく  詠える日々に
家持 は 満足を得ていた
しかし  都では
歌作り に 水差す事態が・・・

七月 四日 健康不安の 聖武帝退位



家待・越中編(二)(13)針ぞ賜(たま)へる

2011年07月08日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年6月7日】

まくら 旅のおきなと 思ほして 
               針ぞたまへる はむ物もが



てい聖武 退位の報に接し
一挙の虚脱感きょだつかん
ない 胸のたゆたい
 穏やか ならざるの日々
ついにたまらず
家持は 大嬢おおいらつめを こしへと招き寄せる

心 安寧あんねい得たれど 
歌心 開かず 四月よつきの中断
再開 に 手差し伸べるは
また しても 池主

越前国のじょう 池主から 告発状こくはつじょうが届く
たまわり物確かに受領 有難き限り
 喜び勇み 心おどらせ開くに
  何と 上書き中身相違したり
 さては 例のたばかぐせかと憤慨ふんがい
 しん取り替えの罪 軽からず》
  
まくら 旅のおきなと 思ほして 針ぞたまへる はむ物もが
《わしのこと じじいおもて この針を 贈ったんかい ならぬの寄越よこせ》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十八・四一二八〕
針袋 取り上げ前に 置きかへさへば おのともおのや 裏もぎたり
《針袋 出して前置き う見たら 裏地付いてる ご丁寧ていねいにも》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十八・四一二九〕
針袋 つつけながら 里ごとに らさひあるけど 人もとがめず
 針袋 腰にぶら下げ あちこちと 見せ歩いたが 誰も気にせん》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十八・四一三〇〕
とりが鳴く あづまを指して ふさへしに 行かむと思へど よしさねなし
《この袋 似合う東国あずまに 行こしたが ついで切っ掛け なんにも無いわ》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十八・四一三一〕
                                    十一月十二日】

《先日の一件 たばかりのことわり 了解
 願い品 上品じょうしなに替りしに 難詰なんきついたし
 当方ひがみによる誤解 只々ただただ陳謝》

たたにも かにもよこも やっことぞ れはありける ぬし殿門とのど
《表から 見ても裏から かしても わし阿呆あほやった 主人あんた相手に》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十八・四一三二〕
針袋 これはたばりぬ すり袋 今は得てしか おきなさびせむ
《針袋 これもらいます すり袋 次に下さい じじい似合いの》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十八・四一三三〕
                                    十一月十五日】

果たして家持たばかりは?
真のたまわり物は?
何故なぜに 東国?
はたまた 池主 独り芝居?





家待・越中編(二)(14)妹に告げつや

2011年07月05日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年6月10日】

薮波やぶなみの 里に宿借り
         春雨に こもつつむと 妹に告げつや



聖武帝詔書しょうしょに受けた 感懐かんかい
長歌 多産
天平  天平感宝 天平勝宝と改元
 武帝 退位
多事たじ多端たたん一年ひととせは 暮れていく

大嬢おおいらつめを 手元した 家持
 から 新年に掛けての宴席
風情ふぜい薫る 歌が生まれる

 宴席 雪 月 梅を詠む】
雪の上に 照れる月夜つくよに 梅の花 折りて贈らむ しき児もがも
《雪の上 月も照ってる このよいに 梅花はな贈るな 児ぉしな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一三四〕

さかん 秦石竹はだのいわたけ館 宴】
我が背子せこが 琴取るなへに 常人つねひとの 言ふなげきしも いやすも
石竹あんたはん 琴上手じょうずやな いわり 聴いたらぐに しみじみするよ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一三五〕

                                    正月二日 国庁饗宴】
あしひきの 山の木末こぬれの 寄生木はよ取りて 插頭かざしつらくは 千年ちとせ寿くとぞ
寄生木やどりぎを 梢から採り 插頭かざすんは 千年長寿ちょうじゅ 祈るまじない》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一三六〕

【正月五日 久米広縄くめのひろつな館 宴】
正月むつき立つ 春の初めに かくしつつ あひみてば 時じけめやも
あたらしい 春の初めに こんなして 笑顔かわわすん 春に相応ふさわし》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一三七〕

新年うたげが 終われば 公務が待っている
家持 砺波郡となみのこおりへ こんでん検索に出向く
雨に降りめられ 書記役宅での宿り
大嬢を おもんばかっての歌

薮波やぶなみの 里に宿借り 春雨に こもつつむと 妹に告げつや
藪波やぶなみの 里で宿借り 春雨を しのぐて妻に 伝えれたか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一三八〕





家待・越中編(二)(15)下(した)照(で)る道に

2011年07月01日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年6月14日】

春のその くれなゐにほふ 桃の花 したる道に 出で立つ娘子をとめ


こしは 四年目の春を 迎えた
天平 勝宝二年〔750〕
思えば 
やみせの春 
大黒おおくろ」・池主・長歌失くしの春
池主諫言かんげんにより 一年の歌停止ちょうじかれたは 
昨年 の春であった

 今年の春の 穏やかなこと
 なん と 心躍る 春であることか〕

春 三月を迎え 短日たんじつの連作
その 歌は 新しい気に満ち
どこか みやこ風情ふぜいただよ
大嬢おおいらつめが 運んでしか

【三月一日 暮れ】春の苑のももすももの花見て 二首
春のその くれなゐにほふ 桃の花 したる道に 出で立つ娘子をとめ
はるそので あこうにえる 桃の花 その下道したみちに 立つ乙女児おとめごよ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一三九〕
我が苑の すももの花か 庭にる はだれのいまだ 残りたるかも
《庭散るは すもも落花はなか っとった 雪がまだらに 残っとるんか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四〇〕

【  〃  夜】飛びかけしぎを見て
けて ものがなしきに さ夜けて 羽振はぶき鳴くしぎ が田にか
《春なって 物憂ものうよるに 羽ばたいて 鳴いてるしぎは 何処どこの田やろか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四一〕

 三月二日】柳を折取り 都偲んで
春の日に れる柳を 取り持ちて 見れば都の 大路おほぢし思ほゆ
《春の日に 芽吹く柳を 眺めたら 奈良の大路おおじの 柳なつかかし》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四二〕

【 〃 】堅香子草かたかごを折取りて
物部もののふの 八十やそ娘子をとめらが まがふ 寺井てらゐうへの 堅香子かたかごの花
《乙女らが 多数よけ集まって 水を汲む 湧水わきみず場所に 咲く堅香子かたかごよ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四三〕

  〃 】帰る雁を見て 二首
つばめ来る 時になりぬと 雁がねは 本郷くにしのひつつ 雲がくり鳴く
つばめ来る 季節なったと 雁の奴 故郷くにしのんで 雲なか鳴くよ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四四〕
けて かく帰るとも 秋風に 黄葉もみちの山を 越えざらめや
《春になり 帰って仕舞ても 秋風の 黄葉もみじの山を 越えまた来るで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四五〕