【掲載日:平成21年12月16日】
高円の 野辺の秋萩 いたづらに
咲きか散るらむ 見る人無しに
【志貴皇子の墓 茶畑に囲まれて】

采女の 袖吹き返す 明日香風 都を遠み いたずらに吹く
〔ああ あの志貴皇子が 亡くなられた
天智天皇の 皇子として生まれ
壬申の乱後の 世を生きて来られた 皇子
ここ 高円山の風も いたずらに吹くのか〕
梓弓 手に取り持ちて 大夫の 得物矢手ばさみ 立ち向ふ 高円山に
春野焼く 野火と見るまで もゆる火を いかにと問へば
《武人が 手に持つ弓に 矢を番え 射るため向かう 的の様な 高円山廻る 春の野を
焼く火みたいに 燃えるのは 何の火ィかと 尋ねたら》
玉桙の 道来る人の 泣く涙 小雨に降り 白拷の 衣ひづちて 立ち留り われに語らく
《道を来る人 顔上げて 溢れる涙 雨みたい 着てる服まで 濡れそぼち 足を留めて 語るには》
何しかも もとな問ふ 聞けば 哭のみし泣かゆ 語れば 心そ痛き
天皇の 神の御子の いでましの 手火の光そ ここだ照りたる
《何で聞くんや そんなこと 聞いたら余計 泣けてくる 話すと胸が 痛うなる
天皇さんの 御子はんが あの世旅立つ 送り火や こんないっぱい 光るんは》
―笠金村歌集―〔巻二・二三〇〕
笠金村は あの葬送の日を 思い出していた
〔皇子の居た 春日宮から 高円山の裾を巡り
田原の里へ 延々と続く 送り火の列
あれほどの人が 嘆きを持って 続いていた
爽やかな 人柄が そうさせたか〕
〔こうして 皇子を偲んで 宮跡を 訪れると 淋しい限りだ〕
高円の 野辺の秋萩 いたづらに 咲きか散るらむ 見る人無しに
《高円の 野に咲く萩は 虚しいに 咲いて散ってる 見る人おらんで》
―笠金村歌集―〔巻二・二三一〕
三笠山 野辺行く道は こきだくも 繁り荒れたるか 久にあらなくに
《亡うなって 日も経たんのに 野辺の道 えらい荒れてる 三笠の山は》
―笠金村歌集―〔巻二・二三二〕
〔この 寂寥短歌 本歌は 皇子遺族の鎮魂歌であった〕
高円の 野辺の秋萩 な散りそね 君が形見に 見つつ思はむ
《高円の 野に咲く萩よ 散らんとき あんたを偲ぶ 縁と見たい》
―笠金村歌集―〔巻二・二三三〕
三笠山 野辺ゆ行く道 こきだくも 荒れにけるかも 久にあらなくに
《三笠山 廻る野の道 こんなにも 荒れてしもうた 日も経たんのに》
―笠金村歌集―〔巻二・二三四〕

<田原西陵>へ