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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

家待・越中編(一)(01)穂向(ほむき)見がてり

2011年04月19日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成22年12月10日】

秋の田の 穂向ほむき見がてり
        わが背子せこが ふさ手折たをりける 女郎花をみなへしかも



天平十八年〔746〕三月 
家持やかもちは 宮内少輔くないのしょうに昇進した
待望の任官である 
朝廷内にあって  名門誉れ高い大伴氏
文雅の士としての 自負じふ持つ家待
適所の地位得  内心の満足を抱いていた

任務に励む  家待
六月二十一日 突如の任がりる
北陸道 越中 国守こくしゅ
天平十三年〔741〕能登を併合し 上国じょうこくの越中
国に  不足はない
一度は  地方官としての務め果たすが 昇進筋道
とは言え 宮内少輔くないのしょうにも未練が残る
まして  任地は 天離る鄙
しかし 官人にとり 任にいなやはない

越中では 同族 大伴池主おおとものいけぬしが 待っていた
池主は 先年 三等官じょうとして 赴任

秋も深まる八月 
かみ家持のやかた 参集するは 主だった役目の面々
歓迎のうたげである
えんせきは 季節ときの花 女郎花おみなえしあふれていた

うたげの口火は 新任国守 家持

秋の田の 穂向ほむき見がてり わが背子せこが ふさ手折たをりける 女郎花をみなへしかも
女郎花おみなえし 秋のみのりの 見聞けんぶんで 池主あんたどっさり これったんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九四三〕

受けて 応じる 大伴池主いけぬし

女郎花をみなへし 咲きたる野辺のへを 行きめぐり 君を思ひ出 たもとほり来ぬ
女郎花おみなえし 咲く野歩いて 花好きの 守殿あんたおもうて み来たで》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九四四〕

四等官さかん 秦八千島はだのやちしまが 『女郎花』を引き継ぐ

ひぐらしの 鳴きぬる時は 女郎花をみなへし 咲きたる野辺のへを きつつ見べし
ひぐらしが 切無せつのう鳴くよ 女郎花おみなえし 咲いてる野原 見ながら行こや》
                         ―秦八千島はだのやちしま―〔巻十七・三九五一〕

更に げんしょうが 続ける

妹が家に 伊久里いくりの森の 藤の花 今む春も つね如此かくし見む
妹家いえに行く 伊久里いくりの森の 藤花を 又来る春も やないか》
                         ―玄勝げんしょう―〔巻十七・三九五二〕

「これは  なんたること 秋に藤は合わぬが」
とがめる 池主に 玄勝
「この一首 大原高安おおはらのたかやす高安王たかやすおう〕の作りし歌
 合わぬとあれば 籐花を女郎花に 春を秋に変えて 吾輩それがしの歌と致そう」

玄勝のはかりに 座は一挙くつろ


家待・越中編(一)(02)結(ゆ)ひてし紐(ひも)を

2011年04月15日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成22年12月14日】

天離あまざかる ひなに月
        しかれども ひてしひもを 解きもけ無くに



うたげが進むにつれ 杯のめぐりは 速くなる
ふと沈む家待のおも
それと気づいた池主 
どちらも  規則ゆえの 独り身赴任
みずからに言寄ことよせ 家待の心持こころもち

秋の夜は あかとき寒し 白妙しろたへの 妹が衣手ころもで 着むよしもがも
《秋の夜は 明け方寒い そやけども お前のふくを 着ることできん》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九四五〕
霍公鳥ほととぎす 鳴きて過ぎにし 岡傍をかびから 秋風吹きぬ よしもあら無くに
《ほととぎす 鳴き飛んでった 岡辺から 秋風吹くよ 独りはさみし》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九四六〕

顔ほころぶ家待 心のままの 歌のり取り

今朝けさ朝明あさけ 秋風寒し とほつ人 雁が鳴かむ 時近みかも
《明け方の 秋風寒い い国の 雁鳴いて来る 季節ときは近いな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九四七〕
天離あまざかる ひなに月ぬ しかれども ひてしひもを 解きもけ無くに
《遠いここ こし来て月日 ったけど お前結んだ ひもそのままや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九四八〕
天離あまざかる ひなにあるわれを うたがたも ひもけて 思ほすらめや
《遠いこし 暮らすこのわし ひもくて 思てるもんか 都の妻が》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九四九〕
家にして ひてしひもを 解きけず 思ふ心を たれか知らむも
《家で妻 結んだひもを 解かへんで しとてる気持ち 誰かるかい》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九五〇〕
雁がねは 使つかひに来むと さわくらむ 秋風寒み その川の
《秋風の 寒い川辺で 雁の奴 使いに行こと 騒さわいどるかな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九五三〕

うち続く  妻恋し 都恋しの歌
これでは ならじと かみ家持は 歌を転ずる

めて いざ打ち行かな 渋谿しぶたにの 清き磯廻いそまに 寄する波見に
《さあ行こか 馬を並べて 渋谿しぶたにの 清い磯辺の 寄せる波見に》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九五四〕
ぬばたまの けぬらし 玉匣たまくしげ 二上山ふたがみやまに 月かたぶきぬ
《とっぷりと けたよや 玉匣たまくしげ 二上山ふたがみやまに 月傾いとおる》
                         ―土師道良はにしのみちよし―〔巻十七・三九五五〕
        ―――――――――――――――――
後日 秦八千島はだのやちしまの館でのうたげ

奈呉なご海人あまの 釣する舟は 今こそば 舟棚ふなだな打ちて あへてぎ出め
奈呉なご海人あまの 釣りする船は 今時分 船縁ふなべり叩き ぎ出すのんや》
                         ―秦八千島はだのやちしま―〔巻十七・三九五六〕


家待・越中編(一)(03)かねて知りせば

2011年04月12日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成22年12月17日】

かからむと かねて知りせば
        越の海の 荒磯ありその波も 見せましものを



家持は 今は廃都となった みや
泉川の岸辺ほとりを 思っていた
〔あの日 書持ふみもち面持おももち 悲痛であったな
佐保邸を出た  見送りは 
皆々 奈良山のふもとで別れしに
ひとり  泉川まで 同道
あぁ あの時の 書持ふみもちの言葉〕
《いつも 兄上は 私をひとりにさせる
 父上が  筑紫へ下られた折
 帰任後の  女通い
 聖武帝の 関東行幸みゆき
 ここ恭仁宮での  ご任務
 あの折 お送りした 霍公鳥ほととぎすの歌
 覚えておいででしょうか 
 そして 今度は 遥かなこし・・・》
〔思えば 独りの鬱々うつうつが こうじたか〕

天離あまざかる ひなをさめにと 大君おほきみの まけけのまにまに 出でてし われを送ると 
青丹あをによし 奈良山過ぎて 泉川 清き川原かはらに 馬とどめ 別れし時に
 
《都から 離れた越を おさめよと 天皇すめらみことの めい受けて 都出て来た このわしを
 送るてうて 付いてきて 奈良山越えて 泉川いずみがわ 清い川原に 馬めて》 
真幸まさきくて あれ帰りむ たひらけく いはひて待てと かたらひて し日のきは 
《わし無事帰る それまでは お前達者たっしゃで れよとて 言葉かわわして 別れたが》
玉桙たまほこの 道をたどほみ 山川の へなりてあれば 恋しけく 長きものを 
見まくり 思ふあひだに 玉梓たまづさの 使つかひれば
 
《道はとおうて 山川は 遥かへだてて 日ィった
 恋しゅうなって 逢いたいと おもてた時に 使い来た》 
うれしみと が待ち問ふに 
逆言およづれの 狂言たはこととかも しきよし おとみこと 何しかも 時しはあらむを
 
《ああ嬉しいと 用聞くと
 嘘やそんなん 阿呆あほ言いな いとおととに 何事や 時期うもんが あるやろに》 
はだすすき 穂にづる秋の 萩の花 にほへる屋戸やどを 
朝庭に 出で立ちならし 夕庭に 踏みたひらげず
 
すすき穂揺れる 秋の日に 萩花咲いた 朝庭に 
 出てもせんと 夕庭も 姿見せんで そのままや》 
佐保の内の 里を行き過ぎ あしひきの 山の木末こぬれに 白雲しらくもに 立ちたなびくと あれに告げつる
《佐保の屋敷の 里過ぎて 山の梢の 白雲しらくもに なって仕舞しもたと 知らせが言うた》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九五七〕

真幸まさきくと 言ひてしものを 白雲しらくもに 立ちたなびくと 聞けば悲しも
《達者でと 言うて来たのに 白雲しらくもに 成った言うんか 悲しいことに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九五八〕
かからむと かねて知りせば 越の海の 荒磯ありその波も 見せましものを
《こんなこと 成るんやったら こしうみの 荒磯ありその波を 見せたったのに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九五九〕

花好きの 心優しい 書持ふみもち
縁薄き弟を思う  家持の歌
むせぶか ぎこちない


家待・越中編(一)(04)楫(かじ)取る間無く

2011年04月08日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成22年12月21日】

白波の 寄する磯廻いそまを ぐ舟の
             かじ取る間無く 思ほえし君



家持は  待っていた
どんよりと 雲垂れ下がる こしの空
大嬢おおいらつめを 都に残し 心晴れやらぬ日々
そこへ もたらされた 訃報しらせ
共に嘆いてくれる  友とてない
心知れた  部下の池主
その  池主 今は 都の空の下
戸籍調査の報告を手に  上京
八月の出発から かれこれ二月ふたつき
書持ふみもち訃報ふほうからは 一月ひとつきが経っていた
往還一月ひとつきばかりの道程みちのりにしては 遅い
〔もう  帰ってもよさそうなもの
 もしや  
 書持ふみもちの 様子など 聞き及んでるやも知れぬ〕

首を長くして待つ 家持のもと
池主帰還 
月は  十一月に変わっていた

早速の 迎えうたげ
折からの 迎え雪 降り積もること一尺有余ゆうよ
遠望する 波間に浮かぶ 海人あまの釣り船

待ちび心を 一心に 家持はうた

庭に降る 雪は千重ちへ敷く しかのみに 思ひて君を が待たなくに
《庭に降る 雪が山ほど 積もったが それどこちゃうで 池主あんた待ったん》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九六〇〕
白波の 寄する磯廻いそまを ぐ舟の かじ取る間無く 思ほえし君
《波の立つ 磯ぐ船の 急ぎ梶 池主あんた思うん ひっきり無しや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九六一〕

うたげのあと 
池主共々 書持ふみもちが心根を辿たどる二人
思い出される  
にし天平十年〔738〕橘奈良麻呂たちばなのならまろ宴席えんせきでの歌

あしひきの 山の黄葉もみちば 今夜こよひもか 浮かびゆくらむ 山川やまがはの瀬に
《山もみじ  今晩あたり 散ってもて 浮いて行くんか 山の川瀬を》
                         ―大伴書持おおとものふみもち―〔巻八・一五八七〕
十月かむなづき 時雨しぐれに逢へる 黄葉もみちばの 吹かば散りなむ 風のまにまに
十月じゅうがつの 時雨しぐれうた もみじ葉は 散って仕舞うやろ 風に吹かれて》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻八・一五九〇〕
黄葉もみちばの 過ぎまく惜しみ 思ふどち 遊ぶ今夜こよひは 明けずもあらぬか
《もみじ葉の 散るのしんで 友同士 遊ぶこのよる 明けて欲しない》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻八・一五九一〕

〔歌の上手であった 
 今 わし有るは 書持ふみもち有ったればこそ〕


家待・越中編(一)(05)死ぬべき思へば

2011年04月05日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成22年12月24日】

世間よのなかは かず無きものか
        春花の 散りのまがひに 死ぬべき思へば



天平十九年〔747〕二月 
やっと越した  任地初めての冬
慣れぬ任務の疲れか 
郡司ぐんじとの 付き合い気疲れか
春の訪れを  迎えたと云うに
家持は とこしていた

大君おほきみの まけのまにまに 大夫ますらをの 心振り起し あしひきの 山坂越えて 天離あまざかる ひなに下くだ 
天皇おおきみの 任命受けて 奮い立ち 任務一途いちずと 山越えて 遠いこしへと やって来た》
息だにも いまだ休めず 年月としつきも いくらもあらぬに 
うつせみの 世の人なれば うちなびき とこ臥伏こいふし 痛けくし 日にまさ
 
《ほっとする間も 無いままに 月日あんまり たんのに
 わしも人の子 仕様しょうないが やまいかかって とこ伏して 苦痛日に日に ひどなった》
たらちねの 母のみことの 大船おほふねの ゆくらゆくらに 下恋したごひに 何時いつかも来むと 待たすらむ こころさぶしく 
気懸がかごころ 胸秘めて 何時いつ帰るかと 待ってはる 母の気持ちは どんなやろ》
しきよし 妻のみことも 明ければ かどに寄り立ち 衣手ころもでを 折りかへしつつ 
夕されば とこ打ち払ひ ぬばたまの 黒髪敷きて 何時いつしかと 嘆かすらむそ 
妹もも 若き児どもは 彼此をちこちに さわき泣くらむ
 
いとしい妻も 朝来たら 門のそと立ち 袖折って
 夜になったら とこ清め 黒い髪の毛 なびかせて 帰るん何時いつと 待ってるで
 幼い子らの あにいもと あっちこっちで 泣き騒ぐ》
玉桙たまほこの 道をたどほみ 間使まづかひも るよしも無し 思ほしき 言伝ことづらず 恋ふるにし こころは燃えぬ 
《道は遥かに いよって 使いを送る すべうて 思い伝える こと出きん 恋し思うて 焦るだけ》 
たまきはる いのちしけど むすべの たどきを知らに かくしてや あらすらに 嘆きせらむ
生命いのち惜しけど どもならん 困って仕舞しもて 男やに 嘆くだけしか でけんのや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九六二〕

世間よのなかは かず無きものか 春花の 散りのまがひに 死ぬべき思へば
《世の中は こんなはかない もんかいな 春花はな散る時に 死ぬのんやろか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九六三〕
山川の 退方そきへへを遠み しきよし 妹を相見ず かくや嘆かむ
《山や川 隔てとおうて 仕様しょう無しに 大嬢おまえ逢えんで 嘆いてばかり》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九六四〕


家待・越中編(一)(06)手力(たぢから)もがも

2011年03月29日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成22年12月28日】

春の花 今は盛りに にほふらむ
           折りて插頭かざさむ 手力たぢからもがも



病の苦しみは  十日余り続き
ようやく 小康しょうこう得たものの
足腰え 身体はだるく
病は  家持をすっかり 気弱にしていた
こころだのみは おぬしばかりと 
大伴池主いけぬしへ 文を

春の花 今は盛りに にほふらむ 折りて插頭かざさむ 手力たぢからもがも
《春花は 今を盛りと 咲いとるが 折ってかみす 力も出んわ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九六五〕
うぐひすの 鳴き散らすらむ 春の花 何時しか君と 手折たを插頭かざさむ
《鶯が 鳴き散らしとる 春の花 池主あんた髪挿かざし 何時いつ出来るやろ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九六六〕

〔困った 国守かみ殿じゃ
 これしきの病  吹き飛ばせぬか
 坊ちゃま育ち  致し方無いか〕

池主から  見舞いの文が届く
《お手紙拝見  見事な文章感じ入ります
 添えられし歌  これも素晴らしく
 口ずさむたび 心洗われます
   そう 今 春たけなわ
 春宵くれおもむき 桃の花 飛び交う蝶 
 緑なすやなぎ 葉隠はがくれにさえずる鶯
 これを たたえずして なんの人生でしょう
 二人しての  楽しみ
 これを  病が裂き 悔しくてなりません
 私の春は 
 琴も無し  酒も無し 友も無し で
 過ぎるのでしょうか》 
〔少し 嫌味かるが 良しとするか〕
 
山峽やまがひに 咲ける桜を ただひと目 君に見せてば 何をか思はむ
山合やまあいに 咲いた桜を 一目でも 見せられたなら 言うこと無いで》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九六七〕
うぐひすの 鳴く山吹 うたがたも 君が触れず 花散らめやも
《鶯が 鳴きに来る山吹はな あんた手が 触れへんままで 散るもんかいな》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九六八〕


家待・越中編(一)(07)君は羨(とも)しも

2011年03月25日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成22年12月31日】

山吹やまぶきの 繁み飛びくく うぐひす
             声を聞くらむ 君はともしも



あくる日 早速さっそくの返しが 池主に
行間 弱気の虫がのぞ

大君おほきみの けのまにまに 級離しなざかる 越をおさめに 出でてし 大夫ますらわれすら 
世間よのなかの 常し無ければ うちなびき 床に臥伏こいふし いたけくの 日にに増せば
 
天皇おおきみの 任命受けて こしの国 おさめに来たが このわしも
 無情世の中 逆らえず やまいかかって とこ伏して 日に日に苦痛 えてきた》
悲しけく 此処ここに思ひ いらなけく 其処そこに思ひ 
嘆くそら 安けく無くに 思ふそら 苦しきものを 
 
《悲しいことや つらいこと あれやこれやと 思い出す
 嘆いてみても 安まらん 思いつめても 苦しだけ》 
あしひきの 山きへなりて 玉桙たまほこの 道の遠けば 
間使まづかひも よしも無み 思ほしき ことも通はず 
たまきはる みこと惜しけど むすべの たどきを知らに 
こもり居て 思ひ嘆かひ なぐさむる 心は無しに 
 
《山をへだてて 道とおて 使いすべ 無いよって おもてることも 伝わらん
 生命いのちしけど ども出来ん 家にこもって 嘆いても 心安らぐ ことはない》
春花の 咲けるさかりに 思ふどち 插頭かざさず 
春の野の 茂み飛びくく うぐひすの 声だに聞かず
 
《春の盛りの 野の花も 友と一緒に かみせん
 春の野原で しきり飛ぶ 鶯声うぐいすこえも 聞かれへん》
少女をとめらが 春菜ますと くれなゐの 赤裳あかもの裾の 春雨に にほひひづちて 
通ふらむ 時の盛りを いたづらに すぐりつれ
 
《春菜摘みする 乙女おとめらの 赤いすそが 春雨はるさめに 綺麗きれえに濡れる この季節
 意味過ごすか むなしいに》
しのはせる 君が心を うるはしみ この夜すがらに 
も寝ずに 今日けふもしめらに 恋ひつつそ居る 

《こんな気持ちを 知りぬいて 気づかいくれる 池主あんたはん
 ありがと思い 昼もも 感謝してます ほんまおおきに》 
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九六九〕
あしひきの 山桜花さくらばな ひと目だに 君とし見てば あれ恋ひめやも
《山桜 池主あんた一緒に 見られたら 一目だけでも 満足やのに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九七〇〕
山吹やまぶきの 繁み飛びくく うぐひすの 声を聞くらむ 君はともしも
《山吹の 繁み飛びう 鶯を 聞ける池主あんたは うらやましいな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九七一〕
出で立たむ 力を無みと こもり居て 君に恋ふるに 心神こころともなし
出歩であるける 力無いんで 家こもり 池主あんたしのぶん り切れんがな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九七二〕

身体のえは 心の
池主  苦肉の励まし 届かない


家待・越中編(一)(08)うら恋(ごい)すなり

2011年03月18日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年1月4日】

・・・・・くれなゐの 赤裳あかも裾引き
      少女をとめらは 思ひ乱れて
            君待つと うらごいすなり



〔はてさて  困ったお人じゃ
 この上は うらやましく思わす他ないか〕

晩春の日差し うららかにして めるに値し
弥生やよい三日の 風光ふうこう景色けしき 遊覧に足る
つつみの柳は 入り江に並びて 美服びふくいろど
桃源とうげんの流れ 海へと通じて せんせん浮かぶ
雲型くもがたさかつぼに 香り浮かべて 清酒さけを満たし
羽根はねさかずき 好飲をうながして 曲水をめぐ
酒に酔いて 心陶然とうぜん あれこれを忘れ
酩酊めいていすれど 飽き足らず なおもとどまる

〔いやいや  これでは足らぬ
 遠回しでは らちあかぬ 
 連れ出すべし  連れ出すべし〕

大君おほきみの みことかしこみ あしひきの 山野さはらず 天離あまざかる ひなをさむる 大夫ますらをや 何かもの 
天皇すめらみことの 任命受けて 山や野原を 越え来てここの 国をおさめる 大夫ますらお守殿あんた 何を思うて わずらるか》
青丹あおによし 奈良路ならぢかよふ 玉梓たまずさの 使つかひ絶えめや こもり恋ひ いきづき渡り 下思したもひに 嘆かふわが背 
《都の 使いの者が 絶えることなど 有る訳ないぞ 家にこもって 思いにふけり 溜息ためいきばかり いてる守殿あんた
いにしへゆ 言ひらし 世間よのなかは かず無きものそ なぐさむる こともあらむと 里人さとびとの あれに告ぐらく 
《昔の人は 世の中なんて れたもんやと えことてる 里の人かて こうおもたなら 気晴らしなると このわし言うた》
山傍やまびには 桜花さくらばな散り かほとりの 無くしば鳴く 春の野に すみれを摘むと 白妙しろたへの 袖折りかへし くれなゐの 赤裳あかも裾引き 少女をとめらは 思ひ乱れて 君待つと うらごいすなり
《「山に桜花はな散り 郭公かっこう鳴くよ 春の野原で すみれを摘もと 袖をからげて すそを引いて 遊ぶ乙女おとめら 守殿あんたを待って 心おどらせ わくわくしてる」》 
心ぐし  いざ見に行かな 事はたなゆひ
《ぐずぐずせんと  さあ見に行こや 事は決まった 約束したで》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九七三〕
山吹は 日に日に咲きぬ うるはしと 吾がふ君は しくしく思ほゆ
《山吹の 花は日に日に 咲きそろう 見ておもうんは 守殿あんたばっかり》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九七四〕
わが背子せこに 恋ひすべながり 葦垣あしかきの ほかに嘆かふ あれし悲しも
垣外かきそとで 守殿あんたおもうて 立つだけでで 嘆くしかない わし可哀想かわいそや》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九七五〕


家待・越中編(一)(09)知らずしあらば

2011年03月15日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年1月7日】

咲けりとも 知らずしあらば もだもあらむ
             この山吹を  見せつつもとな



昨日さくじつ 晩春遊覧の詩 確かに拝見
 また  今朝 重ねてのお便り
 さらに  野遊びのお誘い歌まで
 ご厚意  有難く
 お陰さまにて  気も晴れ
 心のうれいも のぞかれ申した
 心のびやかにさせるは 
 春の風光を眺め  楽しむ以外 有りますまい
 重ね重ねの気遣い  痛み入ります》

晩春の残り日 明媚めいびの風光は 目にうるわ
吹く風は なごやかにして 頬をなぞるに軽い
遠来のつばくらめ 泥を口にして 家に来たり
帰るかりがねは 葦をくわえて 大海を目指す
ともと連れ立ち 詩歌しいかふけりて 曲水に遊び 
弥生の酒宴うたげ 飲をうながして はいを浮かべしよし
訪ね行き 臨席りんせきせんと 欲すれど
くやむべし 病みあがり身の 脚のよろめき


咲けりとも 知らずしあらば もだもあらむ この山吹を 見せつつもとな
《咲いてるて 知らんかったら 済んだのに 見せたら山吹はなを 見となるやんか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九七六〕
葦垣あしかきの ほかにも君が 寄り立たし 恋ひけれこそば いめに見えけれ
垣外かきそとで 池主あんたが立って わしのこと しとてるよって 夢に出たんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九七七〕

ここまでを したためた家待
身心共の みなぎりを覚えた
〔この 沸々ふつふつと湧いてくるものは・・・
 そうか  歌作りじゃ
 奈良の都での  
 政争の匂い芬々ふんぷんうたげ
 付き合い歌の むなしさ
 ために封印しておいた  歌作り
それが 
 いつの間にか 歌を作ってるではないか
 天離あまざかる ひなへの赴任
 慣れぬ任務遂行 
 大嬢おおいらつめと離れての生活くらし
 書持ふみもちの訃報
 心の  納め所を失うた日々が 病呼んだか
 そうか 
 池主殿が 得手えての漢詩で
 わしの歌心を 呼びましてくれたのか
 そうじゃ  そうじゃ
歌作りじゃ 
父上遺稿のたぐいが 役に立つ
 改めて 人麻呂殿 赤人殿に まねぶ時じゃ
 それには  花を詠み 鳥を詠み 景を詠み・・・
 とりわけ 長歌ちょうかを 心掛けずばなるまい
 おお  なるほど
 こし赴任は これが為であったか》

天平十九年〔747〕三月から四月 
人麻呂 赤人 まねびが
せきを切った如くの長歌連作へと 
家持を駆り立てる 


家待・越中編(一)(10)逢ひて早見む

2011年03月11日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年1月11日】

・・・ぬえ鳥の うら泣けしつつ 下恋したごひに 思ひうらぶれ 
       かどに立ち 夕占ゆふけひつつ 
            を待つと すらむ妹を 逢ひて早見む



歌づくりの思い 先ずは大嬢おおいらつめへと飛ぶ

妹もわれも 心はおやじ たぐへれど いやなつかしく 相見れば 常初花とこはつはなに 
心ぐし めぐしもなしに しけやし 奥妻おくづま
 
《お前とわしの 思いは同じ そばったら 心が引かれ 顔合わしたら 初々ういういしいて
 うれい気苦労 何にもうて いとおもてた 心の妻に》
大君おほきみの みことかしこみ あしひきの 山越え行き 天離あまざかる ひなをさめにと 別れし 
その日のきはみ あらたまの 年がへり 春花の うつろふまでに
 
《国の任命 かしこみ受けて 遠いこしくに おさめるために 野山を越えて 別れて来たが 
その日限りで 逢うことうて 年が変わって 春花はな散って仕舞た》
相見ねば いたもすべ無み 敷栲しきたへの 袖かへしつつ 落ちず いめには見れど 
うつつにし ただにあらねば 恋しけく 千重に積もりぬ
 
《どうも出来んで  袖折り返し 独りで寝たら 夢には出るが
 逢われんよって がれがつのる》
近くあらば 帰りにだにも うち行きて 妹が手枕たまくら へて てもましを 
玉桙たまほこの みちはしどおく 関さへに へなりてあれこそ
 
《もしも都が ちこうにあれば ちょっと帰って 手枕てまくらをして お前一緒に 寝られるものを
 道は遠いし 関まであって あいだ隔てて うこと出来ん》
よしゑやし よしはあらむそ
霍公鳥ほととぎす 来鳴かむ月に 何時しかも 早くなりなむ 
の花の にほへる山を よそのみも 振りけ見つつ 
近江路あふみぢに い行き乗り立ち 青丹あをによし 奈良の吾家わぎへ
 
《きっと何処どこかに 手立てだてはあるぞ 
 ほととぎす鳴く 四月が来たら の花咲いた 山もせんと
 近江路辿たどり 家まで行くぞ》
ぬえ鳥の うら泣けしつつ 下恋したごひに 思ひうらぶれ 
かどに立ち 夕占ゆふけひつつ を待つと すらむ妹を 逢ひて早見む

《嘆く心で  恋くたびれて
 家のそと立ち 占いをして わし待ちながら 独り寝してる お前に逢いに 早よ早よ行くぞ》 
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九七八〕

あらたまの  年かへるまで 相見ねば 心もしのに 思ほゆるかも
《逢われんで あたらし年が 来て仕舞しもた こんな逢えんと 心しぼむわ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九七九〕
ぬばたまの いめにはもとな 相見れど ただにあらねば 恋ひ止まずけり
《寝てたなら 夢に見るけど むなしいで じかに逢わんと がれ止まらん》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八〇〕
あしひきの 山きへなりて 遠けども 心し行けば いめに見えけり
《山へだて 奈良みやこいけど こころなか かよてるよって 夢出てんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八一〕
春花の うつろふまでに 相見ねば 月日みつつ 妹待つらむそ
《春花が 散って仕舞うまで 逢われへん 指折り数え 待ってるやろに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八二〕
                                【三月二十日】 


家待・越中編(一)(11)花橘を乏(とも)しみし

2011年03月08日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年1月14日】

たまく 花たちばなを ともしみし
          このわが里に  来鳴かずあるらし



季節は  初夏を迎え
家持は 待ちびていた
立夏を過ぎ  数日が経っている
聞こえてこない 霍公鳥ほととぎすの声
〔ほい ここはこしであった
 温暖な  都ではないわい
 いかな  夏が立ったとは云え これは無理か〕

あしひきの 山も近きを 霍公鳥ほととぎす 月立つまでに 何かかぬ
《ほととぎす  夏立つ月に なったのに なんで鳴かんか 山近いのに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八三〕
たまく 花たちばなを ともしみし このわが里に 来鳴かずあるらし
《ほととぎす 鳴きにんのは ここ越に 花たちばなが 少ないからや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八四〕
                                 【三月二十九日】 

霍公鳥ほととぎす ほととぎす と・・・」
歌記録をる家持の眼に とある歌が まる

たちばなは 常花とこはなにもが ほととぎす 住むとかば 聞かぬ日けむ
《橘が 年中ねんじゅうばなで あって欲し 鳴くほととぎす 毎日聞ける》
                         ―大伴書持おおとものふみもち―〔巻十七・三九〇九〕
たまく あふちを家に 植ゑたらば 山霍公鳥ほととぎす れずむかも
薬玉たま作る 栴檀せんだんばなを 植えたなら 山ほととぎす ずっと来るかな》
                         ―大伴書持おおとものふみもち―〔巻十七・三九一〇〕

〔おお これは 書持ふみもちが歌
 佐保を留守にし 恭仁の都づくりにいそしんでおった折 寄越よこしたものであった
 そう言えば  泉川の別れで 『覚えていますか』などと 申しておったが・・・
 おおっ  そうか そうであったか・・・〕

《兄上が 年中ねんじゅうばなで あって欲し そばったら 毎日逢える》
薬玉たま作る 栴檀せんだんばなを 植えたなら 兄上ずっと てくれるかな》
思わずに こぼれる涙 
今更の気付きが  悔やまれる

半月ばかりの後  
それとはなしに  聞こえ来る声

ぬばたまの 月に向ひて 霍公鳥ほととぎす 鳴くおとはるけし 里どほみかも
《空渡る 月こて飛ぶ ほととぎす 声はるかやな 里いからか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八八〕
                                 【四月十六日】 

〔そうか  そうか 
ほととぎすは  遠い人を思い出させるとか
そうか  そうか・・・〕


家待・越中編(一)(12)許多(そこば)貴(たふと)き

2011年03月04日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年1月18日】

射水川いみづかは い行きめぐれる 玉匣たまくしげ 二上山ふたがみやま
    はるはなの 咲ける盛りに 秋の葉の にほへる時に
        出で立ちて 振りけ見れば 神柄かむからや 許多そこばたふと



二上山ふたがみやま
なんと  心ときめく名であろう
家持は  深く感じ入っていた
往古いにしえの 藤原の宮 大和三山の地西方
葛城の峰々へと続く 雄岳おだけ雌岳めだけの山
その里は 奈良人ならびとにとって 
自らの出自しゅつじに関わる 心の故郷ふるさと
それと  同じ名の山
こここしにも
ましてや  国庁のある台地そのものが
お山 東麓とうろく高地ともあれば
ゆかしさも 一入ひとしお

〔これが うたわずに おれようか〕

射水川いみづかは い行きめぐれる 玉匣たまくしげ 二上山ふたがみやまは 
はるはなの 咲ける盛りに 秋の葉の にほへる時に 出で立ちて 振りけ見れば 
神柄かむからや 許多そこばたふとき 山柄やまからや 見がしからむ
 
射水川いみずがわ 裾めぐってる 二上山ふたがみ
 春花はなの盛んな 時見ても 照る黄葉もみちの 時見ても
 神さんやから とおとうて 山そのものが え景色》
め神の 裾廻すそみの山の 渋谿しぶたにの 崎の荒磯ありそに 
なぎに 寄する白波 夕なぎに 満ち来るしほの いや増しに 絶ゆること無く
 
《神さん山の 裾めぐる 渋谿しぶたに崎の 荒磯あらいそ
 朝のなぎには 白波なみ寄せて 夕のなぎには 潮満ちる》
いにしへゆ 今のをつつに かくしこそ 見る人ごとに けてしのはめ
い昔から この日まで このえ景色 続き来た
 見る人みんな こころ懸け 誉め続けるで この山を》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八五〕

渋谿しぶたにの 崎の荒磯ありそに 寄する波 いやしくしくに いにしへ思ほゆ
渋谿しぶたにの 荒磯ありそ次々 寄せる波 次々思う 古来むかしの景色》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八六〕
玉匣たまくしげ 二上山ふたがみやまに 鳴く鳥の 声の恋しき 時はにけり
《とうと来た 二上山ふたがみやまで 鳴く鳥の ゆかしい季節 とうと来たんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八七〕
                                  【三月三十日】 


家待・越中編(一)(13)いや毎年(としのは)に

2011年03月01日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年1月21日】

布勢ふせの海の おきつ白波
         ありがよひ いや毎年としのはに 見つつしのはむ



二上山ふたがみやまの山すそを 南に見
北と西を  低く伸びる丘陵に 囲まれ
東 ありの海とは 松田江浜が隔てる 一帯
そこは  波静かな 湖水の広がり 
水鳥浮かび かづ
霍公鳥ほととぎす鳴き飛ぶ 水海みずうみ
風光 この上なしの 布勢ふせの水海みずうみ
岸々に  藤波
官人たち  格好の遊覧地

家持  
気心知れた友引き連れ 遊びうたげする

物部もののふの 八十やそともの 思ふどち 心らむと 馬めて 
うちくちぶりの 白波の 荒磯ありそに寄する 渋谿しぶたにの さき徘徊たもとほり 松田江の 長浜過ぎて 
宇奈比うなひ川 清き瀬ごとに 鵜川うかは立ち かきかくき 見つれども そこもかにと
 
《おつかえの 友達同士 打ちそろい 楽しみ求め 馬並べ
 白波寄せる 荒磯あらいその 渋谿しぶたに崎を 行きめぐり 松田江浜を 後にして
 宇奈比うなひの川の 清い瀬で いしながら あちこちと 見て来たけども まだりん》
布勢ふせの海に 船ゑて おきぎ ぎ見れば 
なぎさには あぢむらさわき 島廻しままには 木末こぬれ花咲き 許多ここばくも 見のさやけきか
 
布勢ふせ水海みずうみ 船浮かべ おき岸辺きしべを漕ぎ見ると
 なぎさあじがも 群れさわぎ 島の梢に 花が咲き 見事な景色 目に映る》 
玉匣たまくしげ 二上山ふたがみやまに つたの 行きは別れず 
ありがよひ いや毎年としのはに 思ふどち かくし遊ばむ 今も見るごと

二上山ふたがみやまの つたに ずっと一緒に 連れうて
 友と毎年 来ると仕様しょう また来て遊ぼ 今年みたいに》
                        ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九一〕

布勢ふせの海の おきつ白波 ありがよひ いや毎年としのはに 見つつしのはむ
布勢ふせの海 おきの白波 寄せるに ここへ毎年 また見にうや》
                        ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九二〕
                                【四月二十四日】 

遊覧の感懐かんかいを すぐさまの歌に結んだ 家持
池主の こころえや如何いかにと 歌を


家待・越中編(一)(14)継(つ)ぎて見に来(こ)む

2011年02月25日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年1月25日】

白波の 寄せ来るたま
        世のあひだも ぎて見に来む 清き浜辺はまび



〔おう  これは 先を越された
 わしが 先と思うたに さすがかみ殿どの
 ようし  負けてなるものか〕

藤波ふぢなみは 咲きて散りにき の花は 今そさかりと あしひきの 山にも野にも 霍公鳥ほととぎす 鳴きしとよめば 
《藤の花 咲いて散ったで の花は 今さかりやと ほととぎす 鳴き知らせとる 山や野で》 
うちなびく 心もしのに そこをしも うらごひしみと 思ふどち 馬うちれて たづさはり 出で立ち見れば 
《その声聞いて 胸躍り 野山のさかり 見たいなと 友達同士 連れ立って 馬けさせて 来て見たら》
射水川いみづかは 湊の洲鳥すどり 朝なぎに かたにあさりし しほ満てば 妻呼びかはす ともしきに 見つつ過ぎ行き 
射水いみずの川の の鳥は あさなぎかたで 餌あさり 潮が満ちたら 連れ呼ぶよ 見てたいけども 先急ぐ》 
渋谿しぶたにの 荒磯ありその崎に おきつ波 寄せ来るたま 片りに かづらに作り 妹がため 手に巻き持ちて 
渋谿しぶたに崎の 荒磯ありそでは おき波寄せた たま採り り合わせして かずらにし お前にやろと 手に巻いて》
うらぐはし 布勢ふせ水海みずうみに 海人あまぶねに かじかいき 白栲しろたへの 袖振り返し あどもて わがぎ行けば 
布勢ふせ水海みずうみで 海人あま船に 梶取りつけて みんなして 袖なびかして いでくと》
乎布をふの崎 花散りまがひ なぎさには 葦鴨あしがもさわき さざれ波 立ちても居ても めぐり 見れどもかず 
乎布をふの崎では 花散って なぎさあじがも さわいどる 気持ちたかぶり 見る景色 何処どこいでも 見けへん》
秋さらば 黄葉もみちの時に 春さらば 花の盛りに かもかくも 君がまにまと かくしこそ 見もあきらめめ 絶ゆる日あらめや 
《秋になったら 黄葉もみじ時 春が来たなら はなどきに 守殿あんたえ時 此処ここへ来て 楽しみ遊び 仕様しょやないか きること無い この景色》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九九三〕

白波の 寄せ来るたま 世のあひだも ぎて見に来む 清き浜辺はまび
《白波が 運ぶたまの この浜辺 生きてる限り ずっと見によ》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九九四〕
                                 【四月二十六日】 


家待・越中編(一)(15)鄙(ひな)に名懸(か)かす

2011年02月22日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年1月28日】

天離あまざかる ひなに名かす
          越のなか 国内くぬちことごと・・・



〔池主のやつ 漢詩得手えてと 思いきに
 和歌やまとうたも なかなかやるではないか
 ようし 今度は あの立山たちやまじゃ〕

立山たてやま
それは 越中えっちゅう随一の霊峰れいほう
連なる峰々は  朝日に輝き
頂く雪は  真夏にも
ここ 国府こくふの地から 東方に望む雄姿ゆうし
家持の  歌心を 捉えて止まない

天離あまざかる ひなに名かす 越のなか 国内くぬちことごと 山はしも しじにあれども 川はしも さはに行けども 
《都から とおに離れた こしの国 そのこしくにに 山や川 仰山ぎょうさんあるが そのなかに》
皇神すめかみの うしはきいます 新川にひかわの その立山たちやまに 常夏とこなつに 雪降り敷きて 
ばせる 片貝川かたかひがはの 清き瀬に 朝夕よひごとに 立つ霧の

《神さん宿る 立山たてやまは 夏さ中も 雪おお
 裾めぐってる 片貝かたかいの 川瀬朝夕 霧が立つ》
思ひ過ぎめや ありがよひ いや毎年としのはに よそのみも 振りけ見つつ 万代よろづよの かたらひぐさ
《その山と川  忘られん 来る年毎に 見に来るで 遠くからでも 眺めるで ずうっとずっと 伝えるで》 
いまだ見ぬ 人にも告げむ 音のみも 名のみも聞きて ともしぶるがね
《見てない人に 言いぐで 噂と名前 聞くだけで うらやましがる 決まってる》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇〇〇〕

立山たちやまに 降り置ける雪を 常夏とこなつに 見れどもかず 神柄かむからならし
立山たてやまに 冬降った雪 夏でも 素晴らし見える 神山かみやまやから》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇〇一〕
片貝の 川の瀬清く 行く水の 絶ゆること無く ありがよひ見む
片貝かたかいの 川の瀬きよて 水えん 絶えず見によ この立山たてやまを》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇〇二〕
                                 【四月二十七日】