工作台の休日

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車椅子の闘将、逝く

2021年12月01日 | 自動車、モータースポーツ
 F1のウィリアムズチームの創設者だったフランク・ウィリアムズ卿が先日亡くなりました。私のようにF1ブームの頃からのファンですと、車椅子姿でピットガレージで戦況を見つめる姿を覚えているという方も多いでしょう。
 ウィリアムズ卿はもともと自身もレーサーでしたが、ほどなくしてチーム運営の側に回り、1960年代にはF3などのカテゴリーから若いドライバー達を出走させていました。その中には日本から欧州に飛び出したパイオニアでもある生沢徹もおりました。しばらくはチームの経営面も安定せず、生沢氏は「未払いのウイリアムズの小切手をいまだに(1990年代初頭)持っている」ということで、ホンダF1の初代監督だった故・中村良夫氏は「小物的ビジネスマンのイメージ」とその頃の印象を記しています。
 1970年代にはF1に参戦しますが、他の企業・メーカーとスポンサー契約を結んだり、マーチのマシンをレンタルしたり、といった形で不安定なものでした。

(1975年のマシン。スポット参戦した女性ドライバー、レッラ・ロンバルディ仕様のようです。コクピットサイドの「LAVAZZA」はコーヒーの会社ですから「飲むF1」ですね) 
ウィリアムズ・グランプリ・エンジニアリングという名前で改めて参戦した1977年からが、コンストラクターとしてのウイリアムズの歴史となっています。ようやく資金にも恵まれ、1980年にはアラン・ジョーンズの手でタイトルを獲得しています。このころのウィリアムズのスポンサーの多くがサウジアラビアの企業で、リアウイングにはサウディア航空の名前が見えますし、あのビン=ラディンの一族もスポンサーに名を連ねていたことがあります。当時のイギリスはオイルマネーで豊かになったサウジ系の企業が我が物顔だった時代でもあり、ちょうど1980年に欧州を旅した私の亡父も「ロンドンのホテルやお店がサウジ系の企業に買われている」と話してくれたことがあります。余談になりますが故・海老沢泰久氏の小説「F2グランプリ」にも、鈴鹿にいる日本のF2ドライバーの会話の中でA.ジョーンズがタイトルを獲ったという話が出てきて「サウジ航空がスポンサーだから、資金面でも潤沢」といったセリフが出てきます。

1982年のチャンピオンマシン。FW08。K.ロズベルグが混戦を制し、わずかシーズン1勝でタイトルを獲得しています。
 1980年代に入りますと、ターボエンジンをどのチームも搭載するようになり、ウイリアムズチームはホンダと組みます。なかなか結果が出なかったのですが、1984年ダラスGPでホンダの復帰後初優勝が成し遂げられました。

 いよいよホンダの快進撃が始まったのが1985年終盤からで、1986年にスタートダッシュを決めてタイトル獲得をもくろんでいたところに、シーズン前のテストの帰路でフランク・ウィリアムズの乗っていた乗用車が事故に遭い、ウィリアムズは一命をとりとめたものの半身不随・車椅子の生活を送ることになりました。留守を託された盟友、パトリック・ヘッドの指揮のもと、マンセル、ピケが優勝争いを演じ、この年はホンダにとっても念願だったコンストラクターズタイトルを獲ることができましたが、ドライバーズタイトルはマクラーレンのプロストに最後の最後で奪われました。コンストラクター、ドライバーの両方のタイトルを獲得したのは翌1987年でした。ウイリアムズとホンダが時にはぶつかりながら、いかに戦ってタイトルを獲得したかについては前述の海老沢素久氏の「F1地上の夢」、「F1走る魂」に詳しく記載されています。

(1986年のマシン、FW11 N.マンセル車。マンセルと僚友ピケの二人の間は決してうまくいっていなかったようです)
1987年でホンダとのジョイントが解消されると一時低迷しますが、ルノーと組んだ1990年代にはまた優勝戦線に復帰します。ブーツェン、パトレーゼといったいぶし銀たちが好走しましたし、1992年にはマンセルがシーズンを席巻、念願のタイトルをもたらします。翌1993年はマンセルの代わりに加入したプロストがタイトルを獲得して引退、1994年にはセナが加入し、カラーリングも紺とキャメルタバコのイエローからロスマンズタバコの明るい青主体の色になりましたが、サンマリノGPでセナが事故死というF1界全体にとっても大きな悲劇も起きました。この年はヒル、クルサード、スポット復帰のマンセルらによってようやくコンストラクターズタイトルを獲得します。しかしそれはとても苦い栄光でした。
 チームの歴史を書き続けていたらだいぶ長くなり、しかも途中ですのでこの稿はつづきます。


 

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