「植草一秀の『知られざる真実』」
2014/09/15
基地建設阻止には「埋立承認撤回」が絶対に不可欠
第962号
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菅義偉官房長官は、沖縄県名護市辺野古海岸を破壊して米軍基地を新たに建設
する計画について、
「最大の関心は沖縄県が(辺野古沿岸部の)埋め立てを承認するかどうかだっ
た。知事が承認し粛々と工事しており、もう過去の問題だ。争点にはならな
い」
との認識を示し、次のように発言した。
「過去18年間で、県知事も市長も移設賛成の方がいた。そうした経緯の中
で、仲井真知事が埋め立て承認を決定した。そのことで一つの区切りがついて
いる」
ジュゴンが生息し、サンゴで覆われた、かけがえのない美しい辺野古海岸を破
壊して、必要のない巨大な米軍基地を日本の費用負担で建設して米国に上納す
ることについて、仲井真弘多沖縄県知事が埋立申請を承認したから、これで決
着したと述べている。
民主主義を根底から否定する、暴言である。
そこには、民意の尊重もなければ、民主主義の正当なプロセスを重視する慎重
さのかけらもない。
あるのは、「数の力」と「金の力」をもってすれば、人の心など、どうにでも
支配できるとの、歪んだ驕りと傲慢さだけである。
沖縄の人々の心を踏みにじる菅官房長官の暴言に対して、沖縄の人々はどのよ
うに対応するのか。
沖縄の人々の毅然とした対応がいまほど求められている局面はないと思われ
る。
2010年の知事選で、仲井真弘多氏は普天間の県外・国外移設を沖縄県民に
約束しているのである。
本年1月19日には、立地自治体である沖縄県名護市の市長選が実施された。
立地自治体の住民による意思表示を目前に控えて、公約違反の埋立申請承認に
突き進んだ仲井真弘多氏の行動こそ、万死に値するものである。
このような不正と欺瞞行為がまかり通るようでは、日本の民主主義の死と言わ
ざるを得ない。
その仲井真弘多氏が、のうのうと知事選に立候補するというのだから驚きであ
る。
仲井真氏はこの選挙での勝利を念頭に置いていないのではないかと思われる。
知事選を、表向き、辺野古基地建設賛成派と反対派による選挙に仕立てるため
に、役者として出馬するのではないか。
その疑いが存在する。
どういうことか。
辺野古基地建設反対を唱える人々は、元自民党の翁長雄志氏を支持する方針を
示している。
基地建設に反対する団体は、基地建設反対を訴えて立候補する候補者につい
て、
「埋立承認を撤回し、政府に事業中止を求める」
ことを条件に掲げた。
ところが、この表現が修正されたのである。
新たな文言は次の通りである。
「新しい知事は承認撤回を求める県民の声を尊重し、辺野古基地を造らせな
い」
何が変化したのかというと、
「埋立承認撤回」
の確約が取り除かれているのである。
菅氏が明確な言質を与えたように、辺野古基地建設を明確に阻止するために、
何よりも重要なツールは、
「埋立承認撤回」
である。
「埋立承認撤回」
を新知事が断行することにより、辺野古基地建設は止まる。
政府は訴訟を提起することになるだろうが、少なくとも、なし崩しの基地建設
をストップさせることが可能になる。
「埋立申請承認を撤回せずに辺野古に基地を造らせない」
ことを担保する明確な根拠がない。
現に安倍政権は、辺野古の海にフロートを設置して、市民が海に立ち入るのを
強制排除し、さらに、フロートが設置されている外側の海にいる市民に不当な
暴力行為を働いているのである。
埋立申請を撤回することこそ、
「辺野古に基地を造らせない」
具体的な第一ステップなのだ。
このまま進めば、翁長氏が新知事に選出されても、基地建設強行が止まらない
可能性が高い。
このことをあらかじめ前提として、いわば、「やらせの知事選」が実施されて
いるとの見立てを否定することができないのである。
辺野古に基地建設を認めないと考える沖縄県民は、知事選の前に、必ず翁長氏
から、「埋立申請撤回」の確約を取る必要がある。
翁長氏が「撤回」を確約しないなら、辺野古基地建設を阻止すべきと考える沖
縄県民は翁長氏に投票するべきでないということになる。
琉球新報は9月13日付紙面で、次の事実を報じている。
「民主党沖縄県連の上里直司幹事長が那覇市議会の安慶田光男議長と会談し、
知事選に出馬を表明している翁長雄志那覇市長の基地政策について考えを確認
した。
県連は辺野古の埋め立て承認撤回を公約に盛り込む候補の擁立を模索している
が、翁長氏を推す陣営の事務総長を務める安慶田氏は
「撤回ありきにはならない。撤回の文言は入れられない」
と回答したという。
上里氏によると、安慶田氏は
「承認撤回は裁判行為になる。圧倒的なノーを突きつけることが第一だ」
と説明し、撤回するかどうかは、
「当選後に考える。(撤回という手法が選択肢にあるかどうかは)特定された
くない」
と述べたという。
上里氏は辺野古に代わる普天間飛行場の代替施設についての考えも確認。
安慶田氏は「新しい負担を背負い込む必要はない」と述べ、県外移設による普
天間閉鎖を求める認識を示した。
上里氏は「考えの差はかなりあるが、『腹八分でみんなやっている』という説
明もあった。検討する」と話した。」
この記事を読むと、「知られざる真実」が浮かび上がってくる。
翁長氏は、現段階では
「埋立申請撤回」
を実行しない姿勢なのである。
しかし、冷静に現状を見れば、このこうどうの「偽計=トリック」がすぐに浮
かび上がる。
なぜなら、
「埋立申請撤回」
を行なわずして、
「辺野古基地建設阻止」
が実行される具体的根拠が存在しないからである。
「埋立申請撤回」を実行せずに、
「辺野古に基地を造らせない」
は、まさに絵に描いた餅である。
この「絵に描いた餅」で沖縄県民に満腹感を与えるのは「幻想=イリュージョ
ン」に過ぎない。
仲井真氏は「負けたふり」をして、予定通り、翁長氏にバトンを引き継ぐ。、
翁長氏は「辺野古に基地を造らせない」と叫びながら、辺野古の基地建設を黙
認する。
この、壮大な三文芝居が演じられる可能性は、極めて高いと言わざるを得な
い。
基地建設を阻止することを掲げる沖縄の政党、政治団体は、この現実を隠蔽す
るべきでない。
辺野古に基地を造らせないようにするには、まずは、「埋立申請承認撤回」か
ら始めなければ、実効性のある対応にはならないのである。
辺野古基地建設阻止の方針が、「埋立申請承認撤回」と切り離されることは、
単なる「偽装」=「偽計」に過ぎないことになる。
沖縄県民はこのことを熟知して行動しなければならない。
安倍政権は沖縄県民の足元を見ている。
金の力で懐柔すれば、基地建設阻止の要求など吹き飛ぶと考えているのだ。
たしかに、沖縄の経済振興は重要であるし、沖縄の人々の生活を支えることは
極めて重要である。
しかし、
「米軍基地を呑まなければ経済復興予算をつけない」
という政府のやり口を認めて良いということにはならない。
辺野古の米軍基地建設を中止して、他方で、沖縄の経済振興、沖縄の経済発展
に最大の力を注ぐというのが、正しい政策のあり方である。
いまからでも、まったく遅くない。
辺野古の美しい海岸を破壊して、半永久的に存続しつづける巨大な米軍基地新
設を断固拒否しようと考える沖縄県民は、
「埋立申請承認撤回」
を確約する候補者を擁立し、すべての基地建設反対票をこの正真正銘の基地建
設阻止候補者に集中させるべきである。