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スコットランド独立運動から学ぶ

2014年09月13日 11時50分40秒 | 政治経済、社会・哲学、ビジネス、

     

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                   「植草一秀の『知られざる真実』」

                             2014/09/09

               スコットランド独立運動から学ぶもの

                              第957号

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英国の一角を占めるスコットランドで、この9月18日に、スコットランドの
英国からの独立の是非を問う住民投票が行われる。

9月に入ってから実施された世論調査では、賛成と反対が拮抗する結果や、賛
成が反対を上回る結果が示されている。

18日に行われる住民投票は英国のほか英連邦や欧州連合加盟国の国籍がある
16歳以上のスコットランド居住者約400万人が有権者となる。

スコットランドの人口は昨年6月末時点で推定約532万人。

住民投票は、独立に賛成か反対かの二者択一制で実施され、賛成票が有効投票
の半数以上になると独立が確定する。

この場合には、その後の英政府との交渉を経て2016年3月から独立するこ
とになる。

2007年5月のスコットランド議会選挙で、完全な主権国家としてスコット
ランドを英国から独立させることを目指す「スコットランド民族党」が第一党
になった。

それまでの与党であった労働党と1議席の差で民族党が第一党となり、スコッ
トランド独立の夢が現実味を帯び始めた。

金融市場ではスコットランド独立の可能性、および英国のキャメロン政権の弱
体化の可能性を警戒する動きが広がり始めている。



英国は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北部アイルランドの4
つの地域が統合されて構築されている、一種の連邦国家である。

しかし、政治、経済の中心はイングランドが握っており、イングランドの影響
力が圧倒している。

英国内での地域間の峻別は鮮烈であり、イングランド中心主義が極めて根強
い。

イングランド人は

I’m an English.

と発言して、英国の他の地域の民族ではないことを強調することも多い。

スコットランド独立の気運が高まっている背景として、社会のあり方に対する
価値観の相違が存在することを指摘できる。

かつての英国は、「ゆりかごから墓場まで」の言葉が象徴するように、社会保
障制度の充実を国是とする国であった。

18世紀の産業革命以降、自由主義の経済政策で資本主義的発展を遂げた英国
であるが、その英国が、19世紀、20世紀と時代を経るにつれて、自由主義
経済、資本主義経済の限界と弊害を認識するに至ったのである。

基本的人権の分野では

自由権を18世紀的基本権

参政権を19世紀的基本権

生存権を20世紀的基本権

と呼ぶことがある。

経済政策運営においては、とりわけ1929年に始まる世界大恐慌をひとつの
契機として、自由主義の経済学の限界と弊害が認識され、ケインズ経済学が脚
光を浴びる局面を迎えた。

自由主義の流れ、資本主義の流れには大きな修正の力が加えられていったので
ある。



その延長上に唱えられた、理想の社会の姿が福祉国家である。

社会を構成するすべての個人の、最低限度の生活水準を、国家が十分に保障す
ることが望ましい社会の姿である。

社会を構成する鎖の輪のもっとも弱い部分をいかに強くするか。これが社会の
強さを測る尺度である。

といった考え方が登場したのである。

こうした、福祉国家を追求する思潮の流れのなかで、英国もその先頭を走る国
家となったのだ。



ところが、1980年ころを境に、こうした「福祉国家」に対する批判と、見
直しの気運が急速に広がった。

米国のレーガン大統領、英国のサッチャー首相、そして、日本の中曽根首相
が、福祉国家見直しの旗手として登場した。

英国では福祉国家を目指す政策が、英国人の勤労意欲と企業家精神を削ぎ落と
し、いわゆる「英国病」を生んだとの批判が一世を風靡したのである。

「鉄の女」とも称されるサッチャー首相は、英国を「福祉国家」を代表する国
から、「新自由主義」を代表する国へと、大転換を図ったのだ。



今回のスコットランドの独立を目指す運動は、サッチャリズムに代表される
「反福祉国家」の政治路線に対する、「福祉国家」への回帰を求めるスコット
ランド社会民主主義の政治路線の挑戦と表現することもできるものである。

英国のキャメロン首相は、仮に、住民投票でスコットランド独立が否決された
としても、僅差での否決となれば、英国の保守党による政治支配に大きな脅威
になるわけで、英国政治に対する「揺らぎ」は避けられない。



ウクライナのクリミアでは、住民投票によりクリミアの独立が達成された。

日本でも、沖縄県では、日本政府から蹂躙され続けるなら、独立の道を選択す
るとの声が、大きな声として広がりを示し始めている。

沖縄では、辺野古海岸を域内に有する名護市の市民が、市長選でも、市議選で
も、米軍基地建設拒否の意思を明示している。

この住民の意思を踏みにじって政府が米軍基地建設を強行するということにな
れば、沖縄の人々が日本からの独立を真剣に検討し始めておかしくない。

スコットランドやクリミアでの運動が日本にも波及する可能性は十分に考えら
れるのだ。



私は近著『日本の真実』(飛鳥新社)

http://goo.gl/8hNVAo

において、「日本の選択」についての問題提起を示した。

それは、日本の主権者が日本の進むべき方向として、

「戦争と弱肉強食」

を選ぶのか、それとも、

「平和と共生」

の道を選ぶのかという問題である。

少し前まで、日本社会は「一億総中流」とも表現され、結果における不平等が
小さい国の代表とされていた。

ところが、1980年代以降の自由主義の思潮の強まり、2000年代以降の
小泉改革政治による新自由主義政策の強化により、世界でも有数の格差社会に
移行しつつある。

そして、いま、安倍政権は、この新自由主義の政策路線をさらに強化しようと
している。

グローバルに活動する強欲巨大資本の利益のみを優遇し、その裏側の現象とし
て、大多数の労働者の分配所得削減が奨励、推進されているのである。

現在の最低賃金である時給780円の状況下では、フルタイム働いても年収が
150万円にしかならないが、この所得水準の労働者が若年労働者を中心に大
多数を占めてしまう状況が生み出されている。



実行されている経済政策は、

1.法人税の大減税

2.消費税の大増税

3.労働規制の緩和

4.社会保障制度の解体

5.グローバル資本への市場提供

の五つである。

目的はただひとつ。

グローバルに活動する強欲資本の利益を増大させることである。

ものごとには、陰と陽がある。

ある者に対する優遇策は、必ず、同時に別の者に対する圧迫策になる。

大資本が求めることは、市場の拡大とコストの削減である。

TPPはグローバル資本に日本市場を献上するための施策であり、グローバル
強欲資本の利益が増大される反面で、国内の農業事業者がせん滅され、国内の
共済組合組織が破壊される。

日本国民の生命と健康を守るために機能してきた公的医療保険制度が実質的に
破壊される。

また、労働規制の緩和は、労働者の処遇の引下げ、身分の不安定化をもたら
す。

福利厚生が切られる非正規社員化が激しい勢いで推進され、解雇の自由が資本
に付与される。

最低賃金の規制が取り払われ、労働者の所得がさらに削減される。



結局のところ、1%の「強者」に生産活動の果実と、その蓄積である富を集中
的に配分することが推進されているのである。

これが「弱肉強食」の社会である。

経済政策運営の振り子は、大きく「新自由主義」=「弱肉強食奨励」の方向に
振れてきたが、この政策を推進する者は、この政策の帰結が、経済社会の自己
崩壊であるという、厳然たる事実に気付いていない。

経済社会が成り立ち、繁栄するのは、国を構成するすべての構成員による再生
産があるからだ。

すべての構成員が労働し、所得を獲得し、それを消費に回すことによって、経
済の循環が成り立つ。

この経済循環なくして、経済の繁栄はないし、経済の成長もない。

「弱肉強食」の政策がもたらす最終的な帰結は、経済社会の繁栄の源泉であ
る、全労働者の生活基盤を破壊することにある。



「弱肉強食」の方向に振れ切った振り子が、「共生」=「福祉社会」の方向に
回帰するのは、考えてみれば当然のことである。

日本の主権者は、まだ、この選択の問題に気付いていない。

目先の株価が上がり、これをメディアが「アベノミクス」と騒ぎ立てるなか
で、この政策の延長上に一般国民の繁栄があるのかも知れないという、間違っ
た幻想が創作されてしまっている。

しかし、安倍政権が目指しているのは一般庶民の繁栄ではない。

強欲大資本への所得と富の集中なのである。

「弱肉強食」か、それとも「共生」か、という根本的な問題に対する主権者の意
識を先鋭化させ、主権者の覚醒を図ってゆかねばならない。

スコットランドの試みを、その狙いを含めて、広く伝播させることが必要であ
る。
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