廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

己の気配を消す忍びの術

2020年05月27日 | Jazz LP (Milestone)

Wynton Kelly / Full View  ( 米 Milestone MSP 9004 )


ジミー・コブが亡くなった。91歳だったそうだ。突然の訃報に驚いたが、Yahooニュースに出たことにも驚いた。リー・コニッツの時は出てたっけ?
"Kind Of Blue" 最後の生き残り、という紋切り型の書きっぷりにうんざりしながらも、それは悲しい話だった。

その高名さとは裏腹に、50~60年代の全盛期に唯一自己名義のリーダー作を作らなかった、寡黙なドラマーだった。ドラマーがリーダー作をつくる
ことの是非について私はどちらかと言えば懐疑的な立場だが、彼もそうだったのかもしれないとぼんやりと考える。

強者揃いだったマイルス・バンドのドラマーたちの中でも、彼がいた時期のアルバム群の重要性は際立っていて、それは幸運な巡り合わせだった
と言ってしまうのは不公平だろう。彼がいたからこそ、である。"Kind Of Blue" がフィリー・ジョーだったら、若しくはトニーだったら、と考えると
それは明白なことに思える。あそこまで静かな音楽にはならなかっただろう。

彼のドラマーとしての最大の美質は、忍びの術で己の気配を消して、音楽を黙って支えたことに尽きる。これは共演する演奏家たちにとっては
最高の存在だったはずだ。派手なおかずを入れず、完璧なリズムをキープし続ける。濡れたように輝くデリケートなシンバル、羽虫が薄く
透き通った羽根を震わすようなブラシ音など、彼の演奏はいつも素晴らしい歌い手の静かな唱を聴いているようだった。

マイルス・バンドでの共演が縁となって、ウィントン・ケリー・トリオの常設メンバーとなってからケリーは傑作を連発するようになるが、
その中で私が最も好きなアルバムは、ケリー晩年のこの作品だ。それまでの跳びはねるような弾き方からは一皮むけた、グッと落ち着いて、
深いタメの効いた弾き方になっていて、濃厚なペーソスが漂う。ありふれたスタンダードに、他では聴いたことがないような新鮮さと
ディープな情感を感じる。

そして、この演奏に完全に一体化したジミー・コブのドラムが素晴らしい。無駄な音は一つも出さず、完璧にケリーのピアノと同化する。
最適なリズムを選択することで、ケリーは最高の演奏を残すことが出来たのだ。いい意味でドラムの存在感を消し去った音場感の中で、
ピアノは孤高の音を響かせている。

素晴らしい演奏をありがとう、ジミー・コブ。あなたは最高のドラマーだった。




R.I.P Jimmy Cobb


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