廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

再発盤の風格

2020年09月15日 | Jazz LP (Milestone)

Bill Evans / Spring Leaves  ( 米 Milestone M-47034 )


同じくキープニューズが作った再発で、 "Portrait In Jazz" と "Exploraions" に、後者のセッション時に録音されたが未発表に終わった
"The Boy Next Door" を加えたもの。この2枚はステレオ初版が手許にないので、モノラル初版と国内初版であるビクターのペラジャケとで
聴き比べてみる。但し、ビクター盤はこの後複数の規格番号でリリースされていて、どうもマスタリングも変えているようなので、
今回のビクター盤はあくまでも初回のペラジャケに関して、ということで話を進める。

この3種類を聴き比べると、ビクター盤はモノラル・オリジナルの質感に似ているが、マイルストーン盤は違うテイストになっている。
ビクター盤はフォンタナのマザーを使っているようなので、リヴァーサイド盤の匂いが残っているのだろう。一方のマイルストーン盤は
ファンタジー社でリマスタリングされていて、完全にリプロダクションということになる。

ビクター盤のステレオの音場感はやはり楽器の左右のチャンネルへの振り分けが明確で少し偏り感があるのに対して、マイルストーン盤は
楽器が中央寄りに修正されていて、そういう面での違和感は解消している。

楽器単体の音については、ベースの音に違いが顕著に表れている。ビクター盤はベースの音が電気的に増幅されたように重低音感が増している。
これは意図的に音を触っているのかもしれない。それに比べて、マイルストーン盤の方は全体の音の纏まり方に重点が置かれていて、
何かが飛び抜けるようなことは避けている感じだ。非常に丁寧にリマスタリングされていて、音楽として聴き易い仕上がりになっている。

当時はオクラ入りした "The Boy Next Door" はエヴァンス本人が演奏の出来に満足できずにNGを出したということだが、確かに演奏が
ぎこちなく、十分にこなれていない印象を受ける。でも、エヴァンスはこの曲が好きだったようで、その後も頻繁に演奏しており、
シェリーズ・マン・ホールでのライヴ演奏では素晴らしい仕上がりになっている。そういう経緯が伺い知れるところも面白い。

こうして聴き比べをしていると、マスタリングというのは時代を映す鏡なんだということを感じる。単に音質を整形するということに
留まらず、過去にリリースされた音質への反省やその時代の再生環境への配慮、また経済成長の度合いだったり戦争や社会的混乱による
疲弊などの世相にも影響を受けて、新しいサウンドは生み出されていくのだろう。再発はオリジナルよりも音が悪いとして、やみくもに
再発盤を退ける態度には賛同しかねる。違いがあるのは当たり前で、その違いを楽しむ方が音楽はより楽しいのである。


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