廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

バイプレーヤーとしての生き方

2020年11月23日 | Jazz LP (Prestige)

Curtis Fuller / New Trombone  ( 米 Prestige PRLP 7107 )


カーティス・フラーは気が付くといつの間にかハード・バップのど真ん中で活躍していた、という印象がある。デビューに際しては何か
目立ったエピソードがあった訳でもないのに、初リーダー作がプレスティッジ7000番台だったというのは稀に見る幸運だった。
この後、すぐにブルーノートへ移ってアルバムを固め打ちするし、次のサヴォイでもしっかりとリーダー作を作っている。
そして、すぐにジャズテットに加わり、ジャズ・メッセンジャーズへと続く。

演奏が飛び抜けて上手いという訳でもないし、曲が書ける訳でもないのに、この堂々たるエリート街道は一体何だったのか。
それはおそらく、トロンボーンというハードバップ期における脇役楽器のプレイヤーだったおかげなんだろうと思う。

アーリー・ジャズでは主役の座に居たトロンボーンは、ビ・バップという激しい音楽が始まると、早いパッセージを吹くことが難しく、
音色もぼやけていることから、脇役へと下がらざるを得なかった。しかし、ハード・バップへと移行すると、それまでの旋律一本から
ハーモニー重視へと価値観が変わり、サウンドに厚みを持たすためにはトロンボーンが必要になってくる。

ジャズ奏者として名前を上げるために有能なプレーヤーはサックスやトランペットへ殺到したから、トロンボーンの座席は
ガラガラだったのだ。だから、彼は時期的にちょうど重宝された。セッションでちょっとトロンボーンが欲しい、という時、
大物のJ.J.を呼ぶ訳にはいかない中、気軽に声を掛けられる奏者は彼くらいしか居なかった。

競争の激しい世界には身を置かず、スター・プレーヤーの傍にいるという生き方も「あり」だったのだ。
彼はまだ健在で、近年はバークリー音楽院で名誉博士の称号を与えられるなど、長年の功績が認められたエスタブリッシュメント
として敬意をもって迎えられている。

その彼のスタートが、このデビュー・アルバムだ。とにかく地味な内容で、相方のソニー・レッドもまだ覚束ない演奏だし、
名盤というには程遠い。一番目立っているのはダグ・ワトキンスの重低音で、如何にも彼らしい縦ノリの規則正しいリズム感で
音楽がしっかりと建付けられている。

耳に残る楽曲もなく、話題性にも欠ける内容なので、まったく売れなかったのだろう。初回プレスのみで、NJ追加ブレスもなく、
80年代のOJCまで再発もなかった。そのせいで、今となってはプレスティッジの中でも指折りの稀少盤になってしまっている。


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