廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

品格が際立つ傑作

2020年04月10日 | jazz LP (Atlantic)

Billy Taylor / One For Fun  ( 米 Atlantic 1329 )


中古レコード屋に通うマニアにとって、ビリー・テイラーは馴染みの人。どこに行っても何かしらの在庫が転がっていて、値段も安い。レーベルも
ブレスティッジ、リヴァーサイド、ABCパラマウント、アトランティック、ルースト、と幅広く、選びたい放題。おそらくほとんどの人が何かを
聴いたことがあるだろう。ピアノ・トリオの楽しさを一番わかりやすく教えてくれる教師のような存在かもしれない。

そういう親しみやすさが仇となり、軽く見られているのがちょっと残念な気がする。レコードがたくさんあると有難みが薄れて、それがアーティスト
本人の評価へと転化されていくのがこの世界の悪しき風潮。その代表格がこの人かもしれない。

この "One For Fun" は私が一番好きなレコード。非常に上質で高貴な雰囲気がある。内容は平易で極めてわかりやすいのに、チープな感じがまったく
しない。他のアルバムとは明らかに雰囲気が違うのだ。どの曲も似たようなテンポで演奏されていて、こういうのは普通ならのっぺりとした印象に
堕するのに、1曲1曲がしっかりと立っている。どの曲も軽快なテンポなのに、非常に落ち着いてていねいに弾かれているからかもしれない。

問題の多いアトランティックのモノラル盤としては音質もいい。高い周波数帯を切ったようなフラットさは相変わらずだけれど、個々の楽器の音が
くっきりと独立していて、ベースとドラムの音が分離のいい音像として迫ってくる。テイラーのピアノはどこかガーランドを想わせるところがあり、
このアルバムはガーランドのプレスティッジ盤と雰囲気がよく似ている。そういう意味でも聴き応えがあって、満点の内容だと思う。

このレコードは昔は寺島本が出るまでは知る人ぞ知るレコードで、入手が非常に難しい1枚だった。私も必死に探して、ようやく見つけたのは
コンデイションの悪いものだったけれど、我慢して聴いていた。それくらい珍しいレコードだった。でも、今はどこにでも転がっていて、
どれも状態は良く、値段も安い。個人的に時代が変わったことを1番実感するのが、これがエサ箱で売れ残っているのを見かけた時だったりする。


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