廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

エセル・エニスの歌声

2019年12月07日 | Jazz LP (Vocal)

Ethel Ennis / Have You Forgotten  ( 米 Capitol T-1078 )


天才の技に接する時、人は直感的に、理屈抜きに、「これは敵わない」と感じるものだ。特に歌の場合はフィジカルな感覚として理屈抜きにわかる。
エセル・エニスの歌声は、その最もわかりやすいケースだ。この歌声を聴いてそう感じない人はまずいないだろうと思う。

クセのない真っ直ぐでよく通る声、正確な音程、抑制された感情、それでいてにじみ出る情感と芳香、これ以上の歌手が他にいるかと思わせる。
ありふれたスタンダードではなく、地味でいてメロディーの良い歌を静かに歌っていく素晴らしいアルバムで、キャピトルの真骨頂と言える。
こういうレコードはこのレーベルしか作れない。

ただ、キャピトルにはこういう趣味の良いヴォーカル作品がザクザク転がっていて、その中に埋没してしまい、目立たなくなるという面がある。
これがマイナーレーベルからポツンと発売されていたら、おそらくみんなが目の色を変えて探す名盤となっていただろうと思う。
素晴らしい音楽だからメジャーレーベルが契約してリリースしているのに、それが却って作品の価値を平準化させてしまう。何とも皮肉な話だ。
マニアが騒ぐ名盤や人気盤の正体とは、得てしてそんなものだ。

今のところはエセル・エニスが好きな人は本当にヴォーカル作品が好きな人だろうと思うけれど、これはそういう枠を超えて認知される価値がある。
黒人女性ヴォーカルはエラやサラやレディー・デイだけではない、という当たり前の認識に早くなればいいと思う。


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