Keith Jarrett / Shades ( 米 ABC-Impulse AS-9322 )
のっけから王道の明るい現代ジャズで始まり、面喰う。このカルテットの現代ジャズを予言する感覚には驚いてしまう。こういうのを聴いていれば、
イマドキの新譜なんて買う必要はないんじゃないか、と思ってしまう。1曲目と2曲目の境目に気付かず、気が付くとA面が終わっていた。
現代の感覚でこれを聴くと、50年近く前に今のジャズと変わらない音楽を既にやっていたんだ、という感慨に打たれるが、発表当時に聴いた人々は
どういう感想を持ったのだろう。こんなのはジャズじゃない、と多くの人が感じたんじゃないだろうか。フリー・ジャズの影響がある、とかいう見当違いな
評論もあったのかもしれない。
このグループへの評価が低いというのは、結局のところ、昔のジャズから離れられない人々の見解がベースになっているんだろうと思う。現代ジャズを
ちゃんと聴いている人なら、何の違和感もなく聴けるんじゃないだろうか。キース・ジャレットをめぐるいろいろな見解については、とにかく、その底流には
常に古き良き時代のジャズがもう2度と戻ってこないことへの落胆と激しい懐古の念が流れていて、この人なら何か奇跡を起こしてくれるんじゃないか、
という身勝手な期待を勝手に背負わせてしまったところにいろんな混乱が生じた原因があるような気がする。そのことがありのままの音楽を鑑賞する
ことを邪魔してきたんじゃないだろうか。そして、そのことに一番いらだっていたのが、キース本人だったように思える。
耳障りのいいヨーロピアン・カルテットの音楽はあれはあれで見事だと思う反面、こうやってこのカルテットのアルバムを1つずつ聴いていくと、
こちらのほうがジャズとしては本流だと感じる。ECMの音楽は独特の強固な美学が創り上げた1つの世界ではあるが、それは元々あったジャズという
音楽と融合することを、根本のところでは拒み続けている。その距離の置き方に、私はいつまでたっても親友になれないよそよそしさを感じる一方で、
アメリカン・カルテットには古着のTシャツを着た時のような親しみやすさや解放感を感じるのだ。