廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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何か意味のあるピアノ

2016年03月13日 | jazz LP (Fantasy)

Duke Ellington / The Pianist  ( 米 Fantasy F-9462 )


1966年と1970年に録音したピアノトリオの演奏を1974年にオリン・キープニューズらがファンタジー社のスタジオでミキシングし直して発売されたレコードで、
エリントンがスモールグループで録音した演奏としてはおそらくは最後に近いものではないだろうか。 とにかくエリントンの音源はあまりに多過ぎて、
正規のもの、ブートレグ、編集物らが入り乱れていて、私なんかにはとても何がなんやらさっぱりわからない。 でも、そんな中でエリントンのピアノが
純粋に愉しめるスモールコンボのレコードは数えるほどしかない。

エリントンのピアノのルーツはラグタイムやストライド・ピアノだから、左手が常にリズムを刻んでいくことで、ピアノ単独でリズム・和音・メロディーが
完結するスタイルだ。 だから、ここにベースやドラムが加わる場合、それらは通常の意味でのリズムセクションとは少し異なる演奏をすることを迫られる。
特にベースはリズムキープだけではなく、少しリード楽器的なアプローチをすることが許されることになるので、レイ・ブラウンやミンガスなんかは相性が
よかった。 そういうメンバーとの演奏の際は、エリントン自身は間を多めにとったピアノをわざと弾いていて、共演者のプレイを楽しんでいるような
ところがあった。

でも、ここではそういう風に対等に渡り合えるようなタイプの共演メンバーではなかったので、エリントンはパブロ盤の時よりも遥かに両手をたくさん
動かして目一杯ピアノを弾いている。 そのお蔭で、他のアルバムよりもエリントンのピアノがたっぷり聴くことができる。

エリントンのピアノを聴いていつも思うのは、それが「何か意味があるピアノ」だということだ。 我々の眼には見えない、どこか知らない場所に存在する
何かとても重要なもの、それを常に暗示しているような気がしてならない。 オカルト趣味は特に持っていないけれど、音楽としてピアノが鳴っている
というのではなく、何かの啓示を聴いているような、その意味を探り当てないと帰ってこれないような、何か意味のあるピアノ。 うまく表現しきれない。

収録された曲はすべてエリントン作曲のもので、あちらこちらにエリントンのストックフレーズが出てくる、どちらかと言えば彼自身の鼻歌のような簡素な
曲ばかりだ。 自宅で指慣らしのために思いつくまま弾いたものを採譜したような、普段着の演奏が聴ける。 にも関わらず、エリントンのピアノの音は
強烈で、何も言葉が出て来ない。 黙ってそこに埋め込まれた意味を探り続けることになる。 いつか、その意味がわかる日は来るだろうか。



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