廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

「いそしぎ」の名演

2016年09月03日 | Jazz LP (国内盤)

Art Pepper / Besame Mucho ~ Live in Tokyo  ( 日 ビクター音楽産業 JVC VIJ-8372 )


1979年7月に来日したアート・ペッパーが東京の郵便貯金ホールで行ったライヴ演奏の中から、自身で選んだ曲で編まれた日本オリジナル作品。
復帰後は日本のファンからの熱いラブコールを受けて何度も来日して日本オリジナルのアルバムをたくさん残したが、それらの中で最も好きなのがこのアルバムだ。

若い頃のいくつかの優れた作品が忘れられない多くの人々が復帰後の彼に執拗に作品を作らせたものの、以前とは雰囲気が変わった内容に誰もが戸惑った。
長いブランクのせいでまだ調子が戻っていないだけだろう、次こそはあの輝かしい美音が聴けるに違いない、としつこくまるで鞭を打つように録音させた。
でも、そうやって追いかければ追いかける程遠のいていく逃げ水のように、アート・ペッパーは捕まえられない。 それが晩年の彼と聴衆の関係だった。

アート・ペッパー独特の節まわし、つまりフレーズのすべてを吹き切らず、遠回しに遠慮がちに語るような語り口はここでも変わらず聴ける。 音量も大きく、
豊かで、熱を帯びている。 黄金色のサックスが照明の中に浮かび上がってキラキラと輝いているのが目に浮かぶようだ。

そして、このアルバムが他のものと一線を画しているのが "The Shadow Of Your Smile" の素晴らしいバラード演奏だ。 元々バラード演奏が
際立っていた人だけど、ここでは若い頃にはなかった深みが加わっている。 原曲の哀感を最大限に活かした切ない表情に言葉を失ってしまう。

復帰後のペッパーを支え続けたジョージ・ケイブルスも常に寄り添うようにデリケートな演奏に終始している。 聴衆の熱狂ぶりも凄くて、晩年のペッパーは
本当に多くの人に支えられたのだということがこの作品1枚からでも読み取れる。

加えて、ビクターのこのレコードはとても音がいい。 豊かなステレオ感とクリア過ぎる程クリアな空気感が高い音圧で再生されて、この時の演奏の
素晴らしさをヴィヴィッドに伝えてくれる。 ホールの残響感も上手く生きていて、ビクターはよく頑張ったと思う。

後期のアート・ペッパーはつまらない、という世評などは相手にせず、この素晴らしい演奏を純粋に愉しむといい。 愉しんだ者が勝ち、なのだ。


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6 コメント

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the shadow of my smile (starraney)
2016-09-03 20:15:05
このArt Pepper の"いそしぎ"、ほんといいですねえ。
(Art Pepperはアバシリ・コンサートもお勧め。)
この記事を見たら彼のRoadgameのクラリネットが無性に聴きたくなりました。
でもそれ以上に、Bill Evans の"いそしぎ"、大好きです。Bill Evansは最初の一音を切り離してメロディーを奏でます。

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Unknown (ルネ)
2016-09-03 21:24:48
starraneyさん、こんにちは。

後期ペッパーはほとんど聴いていますが、網走だけは縁が無くて未聴なんですよね~ これ、褒める人が多いですよね、聴いてみたいです。
エヴァンスもいいですね。 この曲はエヴァンスに最も似つかわしい曲の1つです。
私のベスト「いそしぎ」は・・・・・、今後、また記事に書きますね。

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Unknown (dodge(bs))
2016-09-03 21:30:02
こんばんは
 
語弊があるやもしれませんが、コレクター気質の強い方やメンツを重んじる評論家には無縁の一枚かもしれません。
先入観は毒になっても薬にはなりませんね。
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Unknown (ルネ)
2016-09-03 21:51:59
dodge(bs)さん、こんばんは。

これは、金のない学生時代に手にした思い出のレコードです。 当時、ずいぶん一生懸命聴きました。
その後、有名な前期のレコードも聴くようになりましたが、ペッパーはどの時期もいいと思ったし、今もその想いは変わりません。
聴かずに死ねるか、ですね。
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食欲ならぬ (ken)
2016-09-17 15:55:28
食欲ならぬ聴欲をそそる内容ですね。後期ペッパーのギャラクシー盤はリアルタイムに結構入手しましたが、これは未聴。この時期はartist houseのso in loveが気に入り(今のところ)。
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Unknown (ルネ)
2016-09-17 20:13:58
"So in Love" はいいですね、私も好きですね。 ギャラクシーにも好きなのがあります。
東京のライヴ、とてもしっかりとした演奏です。 ぜひ。
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