Wynton Kelly / Kelly Great ( 米 Vee Jay Records LP 1016 )
昔からウィントン・ケリーの代表作の中の1枚に挙げられてきたが、その言い分には違和感を感じざるを得ない。どちらかというと、彼の限界を
露呈したアルバムだろうと思う。
レッド・ガーランドの正当な後継者としてマイルスのバンドに迎えられたが、タイミングとしては遅過ぎた。マイルスの音楽の発展の過程上、
ケリーではそれを支えることが困難だったことは明らかで、それは当時のアルバムを聴けば明白だ。"Kind Of Blue" から "My funny Valentine" ~
"Four & More" までの間の数年間はマイルスの音楽は1歩後退した時期で、結局それはハンク・モブレーやウィントン・ケリーというマイルスの
音楽を次の時代へとドライヴすることが出来なかったメンバーしかいなかったことに原因がある。この時期に録音された "王子様" は素晴らしい
演奏であることは間違いないけれど、マイルスの音楽の軌跡からみれば停滞した内容で、当時のメンバーではあれが精一杯だった。
同じことがこのアルバムにも言える。ここでの音楽上のリーダーはショーターだが、ショーターの新しさとケリーの感覚はまったく嚙み合って
いない。冒頭の "Wrinkles" はケリーのオリジナル曲だが、このベタなブルース感がアルバムの中では激しく浮いている。全体の雰囲気の中では
明らかにミスマッチで別の楽曲に差し替えるべきだったと思うけど、一応はケリーのリーダー作だからそういう訳にもいかなかったのだろう。
そして、その前時代感をショーターが別の色に上書きする。彼の演奏がケリーの個性を別のものへと書き換えるのだ。
このアルバムのショーターは凄まじく、彼の当時のリーダー作を上回る存在感で音楽を制圧する。そしてそれを煽っているリー・モーガンも
ベスト・プレイで応える。モーガンも新しい音楽が出来た人だったので、この2人の組み合わせは間違いない。更にそこにフィリー・ジョーが
制約から解かれたキレッキレのドラミングで支えるからバンドとしての音楽の高揚感は圧巻で、ウィントン・ケリーの軸からという視点から
離れて見れば、このアルバムは傑作中の傑作という評価が相応しい。そして、アルバムの最後は如何にもショーターが書きそうな憂いに満ちた
バラードで幕は下りる。
ウィントン・ケリーは、この後はこのフォーマットではアルバムを作らなかった。自身の武器であるスイング感を生かしたピアノトリオを軸に
マイ・ペースで活動していく。このアルバムを聴くたびに、おそらくはそういう道へと進むことを決めさせたのがこのアルバムだったのでは
ないかと思ってしまうのだ。