廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

寂寥感に感じ入ることができれば

2020年06月28日 | Jazz LP (Enja)

Lee Konitz / Strings For Holiday ~ A Tribute To Billie Holiday  ( 独 Enja ENJ-9304-1 )


ノンビブラートの穏やかな音色が伸びやかで心地いい。とてもリラックスして吹いている。最初から最後まで、歌心で溢れている。私が知っている
コニッツのアルバムの中では、最も優しい音色で吹かれている。

ウィズ・ストリングスといっても大編成ではなく弦楽六重奏がバックなのでイージーリスニングの雰囲気はなく、もっとジャズらしい仕上がりに
なっているのがいい。弦楽のアレンジも変に凝ったものではなく、適度に現代的で過度に甘くならず、ちょうどいい匙加減だ。音の隙間が多いので、
コニッツのアルトがよく聴こえて全体のバランスもとてもいい。

このアルバムの雰囲気はアート・ペッパーの "Winter Moon" に少し似ていて、孤独な寂寥感が全体を覆っている。寂しくならざるを得ない、大人の
男の音楽である。だから、聴く人を選ぶ。この演奏の雰囲気の良さは、おそらく若い人にはピンとこないだろうと思う。自分が若かった頃の感覚を
思い起こすと、きっと途中で投げ出している様子が想像できる。

難しいことは何もしておらず、何かの野心があるわけでもない。老齢にさしかかった音楽家が、永く好きだった伝説の歌い手のことを想って作った、
素朴なアルバムだ。その音楽家の素直な心が感じ取れる。もし、今聴いて理解できなかったら、10年後にもう1度聴いてみるといい。
きっと、あなたが聴くにはまだ早かったのだ。


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