John McLaughlin / Time Remembered ~ Plays Bill Evans ( 米 Verve 314 519 861-2 )
1993年のイタリア録音とのことだが、こんな録音があったなんてまったく知らなかった。マクラフリンのいわゆる「名盤」を聴いていると、
なんとなく説教されているような気分になって途中で投げ出してしまうことが多かったから、いつの間にか視界の外の人になっていた。
4本のアコースティック・ギターにアコースティック・ベース・ギターを加えた五重奏をバックに、マクラフリンもアコギ1本でエヴァンスの
作曲した楽曲を奏でる内容。きちんとツボを押さえたプログラムが組まれている。
聴いてみて、これが驚いた。まるでウィンダム・ヒルのウィリアム・アッカーマンかマイケル・ヘッジスですか? という感じの音楽なのだ。
それらをもっと洗練させた、切子細工のクリスタル・グラスのような質感。ひんやりと冷たく、どこまでも透き通っている。
楽曲の骨組みはバックのメンバーに任せて自身はアドリブのリードを取るけど、これがうるさくなくて見事に音楽的。
バックの演奏も恐ろしく上手く、アンサンブルには一糸の乱れもない。物凄く高度にまとまっている。
そして肝心なエヴァンスの音楽としての仕上がりだが、曲想を的確に表現していて、ちゃんとエヴァンスの香りが漂う雰囲気に溢れている。
そういう意味で、このアルバムは合格点を取れているのではないか。これを聴いていると、エヴァンスの作った楽曲の素晴らしさが改めて
浮かび上がってきて、これらは新しいクラシックとして残っていくのだろうと思う。最近、ジャズ・ミュージシャンのオリジナル楽曲を
集めたアルバムを聴く機会が多いけど、彼らの作曲家としての側面を評価するこういう作品群が作られるのは大変意義があると感じる。
アドリブ一発、みたいな聴き方だけがジャズの聴き方ではないのだ、ということを現役ミュージシャンたちが教えてくれるのだ。
30年近く前の録音にもかかわらず、録音も秀逸。上品な残響が響く中、ギターの音色が非常にクリアに録られていて素晴らしい。
"Waltz For Debby" における出だしのメロディーなんて、まるでエヴァンスのピアノの音のようで、細心の注意を払ってギターが
演奏されているのがよくわかる。手抜き一切なしの、マクラフリンが本気で臨んだエヴァンス・トリビュートだった。