Benny Golson / & The Philadelphians ( 米 United Artists UAL 4020 )
ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のミュージシャンが集まって作られたアルバム。パーシー・ヒースはノースカロライナ州生まれだが、
その後すぐにフィラデルフィアに引っ越したから、ギリギリセーフ。どの国でもそうだが、人は出身地にこだわるものだ。出身地を知ることで
その人となりがなんとなくわかるような気がするから不思議なものだ。フィラデルフィアはワシントンD.Cとニューヨークのちょうど中間にある
都市で、文化レベルの高い街だったから、優秀な人材が輩出されるのは不思議ではない。スタン・ゲッツもフィラデルフィア出身だった。
メンツからはバリバリのハード・バップを想像してしまうが、意外と落ち着いた雰囲気の仕上がりになっている。音を弾き過ぎず、抑制された
ピアノをレイ・ブライアントが弾いているのがこの佇まいに貢献している。この人は管のバックにいる時にこういう知的な側面を見せる。
更に "Calgary" というオリジナル曲を提供しており、これが印象に残る佳作だ。
この時期、ゴルソンはリー・モーガンと共にジャズ・メッセンジャーズに加入していて、その流れでこのアルバム制作時にモーガンを呼んでいる。
ジャズ・メッセンジャーズというユニット形式の音楽をやっていた影響があったのだろう、モーガンはその場だけのジャム・セッション時に見せる
爆発的なソロは取らず、グループの調和を優先するような抑制された演奏に終始する。デビュー時には高らかにラッパを鳴らしていたが、
そういう子供じみたスタイルからは脱却しつつある時期で、それはブレイキーのバンドの中で学んだのだろう。ベニー・ゴルソンが作った
クォリティーの高い楽曲群や優れた編曲の中で演奏することで、音楽的感性も磨かれていっただろう。
そういう風に、参加しているミュージシャン一人ひとりの個性や成長の過程がよく見えるのがこのアルバムの特徴といっていい。
ゴルソンの知性ある音楽性がベースになっているので、ここで聴かれる音楽の元々のクオリティーの高さはもちろんのことだが、
真の実力派ばかりが集まっての演奏は圧巻だ。
そして、このアルバムの魅力のコアとなっているのは "木曜日のテーマ(Thursday's Theme)" である。デューク・ジョーダンが作る曲にも
通じる孤独な哀愁漂うメロディーに、どうすればこんな魅力的なタイトルが付けられるんだろう? と感心させられる語感が素晴らしい。
ここで聴かせるレイ・ブライアントの優美で物憂げなソロは絶品で、楽曲の素晴らしさをこれ以上なく後押ししている。
果たして、木曜日のテーマとは一体何だったのか? この曲を聴いた人は、誰もが自らにそう問いかける。