Gerry Mulligan / Something Borrowed, Something Blue ( 米 Limelight LM 82040 )
安くて内容のいいレコードを買いたければ、財布の中にお金を少ししか入れないことだ。 若しくは、お金のない時に敢えてレコード屋に行く。
財布に3万円入っていると、どうしても高いレコードから優先して探してしまう。 そうすると、早い段階で予算は尽きてしまい、安レコのコーナーまで
辿り着くことはない。 でも、財布に千円しか入っていなければ、千円以下のレコードしか買えないわけだから、本気で安レコを掘らざるを得ない。
そして、こういう時にこそ、イカした安レコに出会うことができる。
金曜日の夜、財布を見ると2千円しか入っていなかった。 そこで、よし、今日はこれで買えるものを探すぞ、と一人腹を括ってみる。 そうすると、今までは
目に留まることのなかったこういうレコードが視界に入ってくるようになる。 もし、もっとお金が入っていたら、私はこの最高にイカしたレコードを
手に取ることはなかったろうし、この極上の音楽を聴き逃していたに違いない。 そういうアホなゲームを楽しみながら、安レコを探すのだ。
マリガンがズートと組んで、ウォーレン・バーンハート、エデイ・ゴメス、デイヴ・ベイリーをバックに吹き込んだこのアルバムは、まるでもう1つの "Night Lights"
と言ってもいいようなおだやかで上質な趣味のいいジャズになっていて、これ、最高だよ、と一人で小躍りした。 当面のヘビロテ決定である。
マリガンは曲によってはアルトを吹いたりしてのんびりと楽しそうだし、ズートは少しかすれたような穏やかなトーンで静かにメロディを紡ぐ。
ウォーレン・バーンハートの参加が珍しいけど、新鮮な感覚でジャズ・ピアノを弾いており、これがこのアルバムの隠し味になっているようだ。
"Sometime Ago" のソロなんて、まるで若い頃のエヴァンスのようだ。
ライムライトというレーベルは総じて地味なラインナップを持つマーキュリーの傍系廉価レーベルだけど、大物がズラリと顔を揃えた侮れない内容を誇る。
レーベル上部の小っちゃいドラマーの絵が可愛らしい。
手元には千二百円が残ったので、まだ他にないかなと粘って探してみたけど、この日は他にめぼしいものはなかったので、これで切り上げた。
金曜日の夜、新宿の街は解放感に溢れた人でごった返していて、そういう雰囲気を楽しみながら私もゆるやかに家路に着いた。