廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

Ascension への誤解と偏見を解く

2015年05月10日 | Jazz LP (Impuise!)

John Coltrane / Ascension  ( Impulse A-95 )


私はコルトレーンのこのアセンションが大好きです。 コルトレーンの数あるアルバムの中でも屈指の傑作だと思いますが、世間一般では逆に
完全に色物扱いになっています。後期コルトレーンについて語る時、ほとんどの人が何となく居心地悪そうに気まずそうになるのは、
その演奏のたくましさや揺るぎのなさには圧倒的なものを感じながらも、あまりに個人的過ぎるその音楽にどう接すればいいのかが
わからなくなるからではないかと思います。 

特にこのアルバムは、たいていの人がジャズを聴き始めた時に手にする「名盤100選」で「コルトレーンがフリージャズ宣言をしたアルバム」として
紹介されていて、その刷り込みで一番敬遠されることになってしまっているわけです。ある程度時間が経ってから恐る恐る手にしても、先の刷り込み
が邪魔をして純粋に音楽に接することができず、こりゃダメだ、と投げ出してしまう。

確かにそれまでの曖昧な感じから脱してこのアルバムから明確にフリーを取り入れるようになっていて、史実としては何も間違ってはいないけど、
このアルバムの素晴らしさは何も説明できていない。人に勧める以上は何か理由があるはずで、何よりもまずそれを先に言わなければいけません。
別にこのアルバムがジャズ史上初めてのフリージャズというわけじゃないんだから、特にそれが重要なこととも思えません。

このアルバムを聴いて「これは凄い!」と感動するのは、コルトレーンが初めてフリーをやったからではなく、ここでの演奏がもう圧倒的に
レベルが高く、凄まじいドライヴ感で疾走するからです。もう、純粋に演奏力の凄まじさに感動させられるのです。

7本の管楽器が織りなす分厚い重奏サウンドの快楽。 ビッグバンドが好きな人なら、この重層的なサウンドの魅力にすぐ気が付くはず。
集まったミュージシャンたちはみな一流の管楽器奏者なので、楽器の音が大きくて綺麗です。これこそがジャズの醍醐味です。

そして2人のベース奏者が轟音を鳴らしながら進むウィーキングベースと、もうこれ以上は望めないほど暴れるエルヴィンのドラムとシンバル。
この3人の創り出すリズムのドライヴ感は本当に凄まじく、音楽全体が大きく大きくグイグイと前に進んでいくのです。楽曲の後半からは、
レコーディングスタジオ内のあちらこちらから興奮したメンバーたちの掛け声や叫び声が出始めます。この臨場感。

フリーといっても無軌道なハチャメチャ感はなく、きちんと抑制すらされています。だから、これを殊更に「フリー」で片付けてしまう言い草に
違和感を覚えるのです。 端的に言ってしまうと、これは最高にドライヴして疾走するビッグバンドジャズ。そういう聴き方でいいんだと思います。

みんな若くて、生真面目で、大事に楽器を演奏しています。変な話ですが、誰もが楽しそうで、そしてすごく心がこもった演奏になっているのです。
こんなのついて行けないよ、と文句や悪態をつかれながらもコルトレーンの音楽がいつまでも残り続けているのは、それが理由なんだと思います。 



コメント
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