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廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

別の不思議さでアプローチされたエリントン

2018年07月14日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Chico Hailton Quintet / Ellington Suite  ( 米 World Pacific WP-1258 )


西海岸の優れたドラマーと言えば、シェリー・マンとチコ・ハミルトン。 シェリー・マンは人が喋ったり歌ったりしているようなトーキング・ドラム、
チコ・ハミルトンは音楽をグイッと前へドライヴさせるスイング・ドラム。 タイプは違えど、どちらも重要な足跡を残している。

ジェリー・マリガンのピアノレス・カルテットであれだけ卓越したリズムを作っていたチコ・ハミルトンが自己のバンドを作った際に室内楽を志向したというのは
不思議だ。 チェロやフルート、ギターという音の弱い楽器をバンド構成の中核にわざわざ置いたのは、自身のドラムがよく聴こえるようにしたかったという
思惑があったのか、と勘繰りたくなるくらいバンドとしてのサウンドは弱々しい。 管楽器が2本いるのに、重奏させてサウンドに厚みをもたせようとはせず、
それぞれが縦糸としてラインが交差する。 音程が悪くお世辞にも上手いとは言えないチェロの不安定な絡み方といい、とにかく不思議なサウンドカラーを
発している。

そんなバンドがジャズの殿堂であるエリントン集を作っている。 個性的な音色の楽器が幾重にも重ねられてできる独特なハーモニーが特徴のあの音楽を、
このバンドがどう演奏するのかが興味の焦点になる。 

聴いてみてよくわかるのが、チコのドラムの繊細な力強さ。 "A列車" も "スイングしなけりゃ" も、カーソン・スミスの重いウォーキングベースとチコの
ドラムが曲を強烈にドライヴする。 楽曲の背景としての色付けはジム・ホールが一手に担っている。 その中を2本の管とチェロが自由に泳いでいる。
"Azure" では幽玄なフレーズを丁寧に再現していて、エリントンの音楽への敬意をきちんと感じることができる。 

重厚なハーモニーは最初から放棄し、それ以外のところでエリントンの音楽をこのバンドの特徴を生かして演奏している。 元々が不思議な感触のエリントンの
音楽を別の不思議なサウンドに置き換えることで、エリントンの音楽の個性がより浮き彫りになっているんだなと思う。 若い頃にこのアルバムを聴いた時は
何が何だかさっぱりわからなかったが、今聴くとチコ・ハミルトンがやろうとしたことがよくわかる。 歳を取るといいこともあるのだ。


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ウェストコースト・ジャズを産み落としたのは誰だったのか

2018年05月27日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Gerry Mulligan / Gerry Mulligan Quartet  ( 米 Pacific Jazz PJLP-1 )


ジェリー・マリガンと言えばパシフィック・ジャズのアルバムイメージが強烈で、ウェストコースト・ジャズの中心人物だったかのような印象があるけれど、実際は違う。
彼はニューヨーク生まれで25歳まで東海岸で活動していた。 ギル・エヴァンスに編曲を学び、クロード・ソーンヒル楽団にスコアを提供するなどビッグ・バンドの
仕事が多く、その縁で映画音楽の仕事の声がかかり、1952年にロスへ行くが、1956年には東海岸に戻っている。 つまり、西海岸にはたった4年しかいなかった。

ロスで映画音楽の仕事をしながら夜はクラブでスモール・コンボの演奏をしていて、そこでまだ学生だったリチャード・ボックと出逢い、このレコード他に収められた
楽曲を録音して78rpmのSPと33rpmの10インチLPの2形態で発売したら "Bernie's Tune" がヒット、あっという間に人気グループになるが、麻薬の不法所持で
マリガンは逮捕され、バンドは1年もたたないうちに解散するという、まるでジェットコースターに乗ったかのような西海岸滞在だった。

音楽上の人格形成の若い時期にギル・エヴァンスの下にいたことがその後の彼の音楽観を決定付けていて、このピアノレス・カルテットも隙間の多いアレンジを
少ない楽器でスピード感を持たせて処理したことで成功している。 ウェストコースト・ジャズはこのレコードが生まれたことで本格的に立ち上がっていくけれど、
マリガンがここで演奏した音楽の礎になっているのはギル・エヴァンスの音楽観であり、その最初のダウンサイジング版だったマイルスの"クールの誕生"だった。
つまり、当時の西海岸に "ウエストコースト・ジャズ" を産み落としたのは、ギル・エヴァンスとその使徒であった2人の東海岸の若者だったということだ。

この10インチはこのレーベル・イメージである乾いた軽いサウンドとは違い、残響が効き冷気漂う奥行きを持った立体感のある音場感で再生される。
そのせいもあって、この後に展開される西海岸のジャズのイメージとは少し印象が異なる音楽になっている。 このピアノレス・カルテットはアレンジを
取り入れてはいても、演奏の主軸は各楽器のアドリブラインだ。 その手際よく整理されたアレンジとアドリブのコラージュを正しく継承した演奏家は
その後のこのレーベルの中では、チェット・ベイカーのグループを覗けば、結局のところ現れなかったように思う。


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主客転倒 その1

2018年05月12日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Roy Haynes with Frank Strozier / People  ( 米 Pacific Jazz PJ-82 )


パーカーのバックを務めるなどビ・バップ時代から第一線にいたロイ・ヘインズはリーダー作が多いけれど、これは全然話題にならない。 パシフィック・ジャズ
というレーベル・イメージに合わないせいかもしれないし、ビッグ・ネームがいないせいかもしれない。 

でも、フランク・ストロージャーはとてもいいアルト奏者だ。 コルトレーンが抜けた際にマイルスのバンドに誰を入れるかをメンバー間で話し合った際に
彼の名前が挙がったこともあるくらい、当時のミュージシャンの間では評価されていた。 なぜか作品には恵まれなかったが、残された数少ないアルバムは
どれもいい演奏ばかりだし、ここでもワン・ホーンで朗々と歌っていて、このアルバムは彼のワン・ホーン・カルテットと言っていい内容になっている。
フィル・ウッズに似たスカッと抜けのいい綺麗な音色をまっすぐ吹いていく様は素晴らしい。

ロイ・ヘインズも普段のバッキングでは決して見せないような目立つ叩き方をしていて、リーダー作という自由な空気を満喫している。 ブレイキーのような
目立ち方ではないけれど、それでも普通のリズム・セクションの型にははまらない叩き方をしていて、きちんとその存在を誇示している。

ただ、メロディーを持てない楽器の宿命で、音楽的主役の座はストロージャーに譲っている。 ストロージャーはその期待にきちんと応え、非常に品のいい
アルトサックスのなめらかなワン・ホーン・アルバムに仕上げることができた。

このレコードは音質も極めて良く、このレーベル独特の乾いた軽いサウンドではなく、楽器の音が濃密でクリア。 スタジオ内の空気感も伝わってくる。
パシフィック・ジャズもこれくらい後半になると、サウンドの色も変わってくるのかもしれない。

大名盤に飽きた頃に手にすると嬉しい、地味ながらもじっくりと聴かせるとてもいいアルバムだ。


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称賛の理由

2017年04月30日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Buddy Rich / Big Swing Face  ( 米 Pacific Jazz PJ-10117 )


何と言う切れ味の良さ、ドライヴ感。 シャープで一糸乱れない管楽器群はケニー・クラークとフランシー・ボランのビッグバンドそっくりで、少し翳りが
あるところなんかもよく似ている。 ただ勢いよくて迫力があるというだけではなく、憂いのある表情も併せ持っていて、深みのある音楽であることが
すぐにわかる。 だからこそ、多くの称賛を集めたのだろう。 イェーイ、ノリノリだぜー、というようなアタマの弱いアホな話ではない。

バディー・リッチのこのバンドでの鬼教官ぶりは有名だけど、これだけ大勢の人を自分の思うように統率するにはそうせざるを得なかったんだろう。
TVで中学・高校の軽音楽部の奮闘物語なんかをよくやっているけど、そのノリはどう見ても体育会系のそれだし、汗と涙の根性物語になっている。
経験者によるとそれは一種異様な世界らしいけど、それでもそういうものに支えられていたのであろうことは容易に想像できる。

スイング・ジャズを大胆に発展させたモダン・ビッグ・バンドの音楽にはポピュラー音楽の要素がかなりたくさん取り込まれているので、実際はかなり汎用的な
内容で聴きやすい。 スイング・ジャズは見かけは単純で陽気な音楽に見えるけど、実はかなり純度の高いジャズ・ミュージックで専門性も高く、聴く人を
選ぶようなところがあるけど、モダン・ビッグ・バンドはそういうスイング・ジャズが持っていたある種の排他性みたいなものを取っ払ったわかりやすい音楽だ。
だから、もっと広く聴かれてしかるべきだと思う。 更にポピュラリティーだけではなく、楽器の数が多い分、複雑な味を愉しめる高級さもあるのだ。

このアルバムはライヴ演奏ならではの生き生きとした表情が素晴らしいけど、それ以上に収録された曲にいい曲が含まれているのが最大の魅力。
何と言っても、ボブ・フローレンスの "Willowcrest" に止めを刺すけど、リッチの娘が歌う "The Beat Goes On" もキャンディー・ポップを本格的な
ジャズに仕立てあげていて、1度聴くと忘れられない。 愉しいエンターテイメント性と極めて高度な音楽性が同居する画期的な仕上がりになっている。


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いつかはジョー・パス・モデルを

2017年03月26日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Joe Pass / For Django  ( 米 Pacific Jazz PJ-85 )


私の中では、ジャズ・ギターのレコードのTop5に入る作品。 ピアノレスで代わりにジョン・ピサノが最低限のコードで色を添える。 録音がいいおかげで
楽器の音が非常にクリアで、これ以上ないくらいジョー・パスのギターが愉しめる。 パシフィック・ジャズというレーベル臭がしない王道のギタージャズに
なっているところが嬉しい。 一応ジャンゴ・ラインハルトゆかりの曲が集められているけれど、サウンドはモダンでリズムの緩急も上手く効いている。

ギターという楽器は他の楽器と比べて、誰かに似ている、ということがあまりない。 サックスやピアノは自然と「~派」というスクールに分類されがち
だけど、それに比べるとギターは演奏者の個性がストレートに反映される。 ジョー・パスの場合も誰かに似ているというところがなく、一聴して簡単に
ジョー・パスだというのがわかる。 だからギター音楽はどんなジャンルであれ、聴いていて面白いのだと思う。

ジョー・パスのいいところは、技術的にどうこういう以前に彼の創る音楽が他の同世代のギタリスト達よりも感覚的にフレッシュで現代的なところだと思う。
だからアルバム1枚を通して聴いても、飽きることがない。 それに比べて、例えばタル・ファーロなんかやたらと上手いギターなのに音楽自体は古臭くて、
アルバムを通して聴こうとしても途中で退屈になって飽きてしまう。 当たり前のことだけど、楽器が上手いというだけではどうしようもないのだ。

レコードを買うのに飽きたら、いつかは彼が愛用したギブソンのヴィンテージ ES-175 を買いたいと常々思っているんだけど、その日はいつやって来る
のかなあ。 でもまあ、こういうのは憧れているうちが一番楽しいのかもしれない。 ジョー・パスのレコードを聴くたびに、そんなことを考える。


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洗いざらしの感覚

2016年02月20日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Laurindo Almeida Quartet featuring Bud Shank  ( Pacific Jazz Records PL-1204 )


まるで洗いざらしのTシャツとジーンズのような肌触りで、本当に飾り気のない音楽が詰まっている。 アルメイダの演奏はあまりブラジル臭くなくて、
飽きのこない音楽になっているのが好ましい。 野心的な所もなく、一般にはあまり知られていない楽曲を集めているので、いつだって新鮮に聴こえる。
だから、苦手なこのレーベルの中では例外的によく聴くレコードになっている。 

バド・シャンクがアルト1本で参加しているところも良い。 私はこの人のフルートが苦手なので他のリーダー作は聴く気になれないけれど、ここでは
ハスキー気味なトーンでメロディーをゆっくり確かめるように吹いていて、素朴な風情がいいと思う。 西海岸には何といってもアート・ペッパーがいて、
どうやっても彼には勝てないと思っていたに違いない、だからフルートを多用するようになったんじゃないだろうか。 でも、こうやってアルバム1枚を
通してアルトを吹いているのを聴いていると、この楽器1本だけで十分やっていけたと思うよ、と言ってあげたくなる。

このレコードは1953年と54年の2つのセッションが収められているけれど、こんな早い時期に、クリード・テイラーがゲッツにやらせた10年も前に、南米の
音楽とジャズを違和感なくブレンドした上質な音楽を何気なくやっていたというのは、よく考えると凄いことだ。 カリフォルニアには他の地域よりも
メキシコや南米の文化がずっと自然に根付いていたとは言え、日常風景からそれらを上手く切り取って新しく提示し直している様に感心してしまう。

アルメイダのギターは基礎的な訓練が十分に積み上げられたことがわかる演奏で、好感がもてる。 実直に音楽に取り組んできたんだな、と思う。
普通ならジャケットには本人の顔が大きく写ったデザインがされるのがアメリカのレコード制作の常道だけど、初版の2枚の10インチも含めて、そういう
デザインを避けているのも、この人が派手なことを嫌ったからなのかもしれない。 

また、この録音は人工的な音響装飾を排して目の前の演奏をその場の空気ごとそのまま録ったような生々しさで、これがいい。 後のこのレーベルの
音に感じるような違和感がなく、素朴な演奏の雰囲気が等身大で目の前に現れる。 エンジニアは Philip Turetsky。 ロサンゼルスの北西にある
ローレル・キャニオンの自宅に小さなスタジオを構えて、このレーベルのいくつかの録音に携わっていた。 LP期に入って間もない時期なのに、これは
いい仕事を残してくれたと思う。 スタジオで演奏された音楽をバイアスを気にせず、ありのまま愉しむことができるのは心地よい。



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若き天才の台頭

2016年01月23日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Pepper Adams / Critics' Choice  ( World Pacific PJM-407 )


ダウンビート誌の1957年のバリトン部門の新人賞を取ったペッパー・アダムスが自己名義で吹き込んだ第2作目で、スタン・ケントン楽団での盟友である
リー・カッツマンのトランぺットを相方に、ジミー・ロウルズ、ダグ・ワトキンス、メル・ルイスという素晴らしいトリオを従えたアルバム。 ワールド・
パシフィックから出ているせいで完全に盲点になっていますが、このレーベルとしては全く異質な東海岸寄りのハードバップの隠れた傑作です。

ダグ・ワトキンスが全編に渡って素晴らしいウォーキングベースを弾いており、実質的な影の主役となっていますが、メル・ルイスのドラムの上手さも
圧巻です。 若き日のジミー・ロウルズも既に趣味の良さが全開で、このリズム・セクションは本当に素晴らしい演奏をしています。 リー・カッツマンも
ビッグ・バンドの人らしくハイ・ノート・ヒッターですが、無名ながらも腕は確かで、重くなりがちなバリトン・サウンドを上手く中和しています。

録音当時アダムスは27歳でしたが既にサウンドと演奏は完成しており、圧倒的な迫力があります。 このレーベルの録音は元々音響的に奥行きが浅く、
残響を消したような乾いたサウンドが特徴でここでもその傾向は変わりませんが、それでもしっかりとハードバップとしての雰囲気が出ていて、音の分離も
良く、悪くない録音です。 各人が吹き過ぎない・弾き過ぎない演奏をしているのでワトキンスのベースラインがよく聴こえて、快楽度も高い。

トミー・フラナガン、サド・ジョーンズ、バリー・ハリスら同郷のデトロイト出身の人たちが作った曲をメインに取り上げているところも面白く、そういう
デトロイトをテーマにした他レーベルのいくつかのアルバムと雰囲気も似ています。 デトロイト出身者はみんなそのことにこだわるみたいだけれど、
なぜだろう?

※本稿の初稿では「デビュー作」と書きましたが、MODE盤がデビュー作で、このアルバムは第2作であるとご教示頂きましたので、訂正致します。
 愛聴されている方も少なからずいらっしゃることがわかり、私もうれしくなりました。 いい作品を残してくれたアダムス他メンバー達に感謝。
 


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音質への工夫やこだわり

2015年06月28日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Chet Baker Sings  ( Brazil Hi-Fi Jazz 101 )


Pacific Jazz から出された "Chet Baker Sings" はこのレーベルとしてはよく売れたようで、World Pacificへ改名した後も同じジャケットデザインで
プレスされています。

ただ、Pacific Jazzレーベルのオリジナル盤であってもこのレコードはお世辞にもあまり音がいいとは言えず、そのことはレーベル側もどうやら自覚して
いたようで、ほどなくして疑似ステレオ盤が発売されます。 これが愛好家には評判が悪いようで、ジョー・パスのギターがオーヴァーダビングされて
いたり、1曲差し替えられていたり、左右のチャンネルに無理矢理楽器が片寄せされていたり、風呂場のような悪趣味なエコー処理が施されていたり、
ジャケットが酷いデザインへ変更になっていたり、と散々な言われようです。 やる気のないマニアの私はこの改悪ステレオ盤を聴いたことがないので
実際のところはどうなのかわからないのですが、意匠の素晴らしさでは他を大きく引き離していたこのレーベルもサウンド作りの面では弱点を抱えていた
のは間違いなさそうです。

初版のジャケットの裏面を見ると、ハイファイレコーディングであることやウェスタン・エレクトリック社の640AAというコンデンサーを使ってカスタマイズ
されたマイクをつかって録音されたことがわざわざ書かれているところから、レーベルとしては自信があった様子が伺えます。 私はオーディオ方面は
疎いので、ウェスタン・エレクトリックの名前くらいは知ってはいるものの、この機材がどのくらい優れたものなのかはよくわかりません。 
はあ、そうなんですか・・・、という感じです。

別に庇うわけではありませんが、音がよくないとは言っても、聴いていて不快に感じるようなことはありません。 Pacific Jazzレーベルのマスタリングは
チェットの声を一番前面に出して、伴奏の楽器群をわざと後退させるようにしているので、楽器音の分離が悪く聴こえるし音圧も当然低いので音がよくない
という印象になってしまうのでしょう。 ヴォーカル作品なのでこういう建付けにするのは当然と言えば当然で、意志のある音作りです。

ただ、このブラジル盤を聴いてみると、疑似ステレオなんかにするくらいだったらこういうやり方もあったんじゃないのかな、と思います。
こちらの音は原盤のような奥行き感の演出こそありませんが、チェットの声や各楽器の音が薄皮を1枚剥がしたような明瞭になっていて、各楽器の
音の分離もよく、さらに音が消えていく際の自然な残響もきちんと生きています。 

こちらもジャケット裏面にテクニカルデータに関するうんちくが書いてあり、Jorge Coutinho なるサウンドエンジニアがテレフンケンとアルテックの
コンデンサーを使っていることやらなんやらをポルトガル語で長々と書いてあって、オーディオへの無知に語学力の無さも加わって更に何のことやら
さっぱりわかりませんが、とにかく音質にはこだわってますよということが言いたいらしい。

でも、機材はもちろん大事なんでしょうが、マスタリングというのは本質的には人間がやる作業なんだから、エンジニアの音への見識や感性のほうが
遥かに大事なんじゃないんでしょうか。 World Pacific社もエンジニアを変えるなり、外部の著名なスタジオに委託するなり、もっと他にやり方が
あっただろうに、と思います。 評判のよくないステレオ盤も機会があれば聴いてみたいですが、縁がないのか、そちらはそちらでもしかしたら
稀少なのかよくわかりませんが、今のところ出会いがありません。



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ありふれた中の難しさ

2015年01月25日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Chet Baker / Sings and Plays  ( Pacific Jazz PJ-1202 )


チェットの歌ものでは、"Sings" よりもこちらのほうが好きです。 

あちらが "陽" だとすれば、このアルバムは "陰" であり、1対を成す関係にあるのは明らか。 こちらはストリングスが入っている曲が多いのですが、
このストリングスの演奏のアレンジが不協和音を多く入れた現代音楽風なのでこれが暗い印象を与えるようです。 

でも、それが苦味のある不思議な後味を残してくれて、そこがいいと思うのです。 このレーベルの、ジャケットアートなどに見られる美的なものへの
強いこだわりが音楽の中にも深く入り込んでいる証です。 私はウエストコースト・ジャズが総じて嫌いだけど、このレーベルのモノづくりへのこだわりや
その意匠は割と好きで、何枚かある好きな演奏に関してはやはりレコードで、ということになります。

そういう訳で、これもこだわって最初期のプレスで状態のいいものを探して、ようやく買ってもいいと思えるものにぶつかりました。
珍しくもないありふれたレコードですが、額縁でフラットできれいなもの、となると途端に難易度が上がってしまい、入手までに時間がかかりました。



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雨の日にはチェット・ベイカーを聴いて

2014年06月07日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Chet Baker Sings ( Pacific Jazz PJ-1222 )


雨の日の薄暗い朝、ぼんやりと何か聴きたい時にターンテーブルに載せるレコードです。 梅雨のこの時期、割とよく聴くような気がします。

不思議なもので、西海岸のレーベルのレコードというのはどれも大体演奏と一緒い乾いた空気も溝に刻まれているものです。
レコードをかける度に乾燥した空気も流れ出してくるような気がします。

このレコードもチェットの湿った声やトランペットの後ろでこのレーベル特有の乾いてシンプルな演奏が対比的で面白い。
"That Old Feelig" でのラス・フリーマンの演奏が本当に見事です。

中古市場では常時出回っているレコードなのに、きれいな状態のものを見つけるのは最近は皆無。 昔は1万円出せばきれいなものが
簡単に買えましたが、だんだん難しくなっているようです。 ただ、これはオリジナルでも音が別にいいわけではないので、あまりそういう
ところにこだわる必要もないように思います。 気軽に楽しめればそれでいい音盤です。




Wiliam Claxton / Jazz

ウィリアム・クラクストンの写真集。 レコード・コレクターにはお馴染みの写真もたくさん載っています。

よくレコードの魅力はジャケット芸術にあるといいますが、やはり写真を見るとその力強さが違います。 たくさんのことを語りかけてくる。
そこには我々がよく知っているミュージシャンが写っていますが、彼らがいる場所、風景が実に質素であることに気が付きます。
みんな、こういうところで生活をしていたんだなあ、という素朴な感慨に打たれます。

簡素な部屋や殺風景な街角にいる彼らの生々しい肉体だけが、そこにくっきりと写っています。 この身体の中から、あの数々のウェストコースト
ジャズが生み出されたんだと思うと、聴き慣れた乾いた音楽たちもまた違った印象で私に迫ってくるような気がします。




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Yesterday's Gardenias

2013年12月29日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Russ Freeman Trio ( Pacific Jazz PJLP-8 )


Yesterday's Gardenias という古い唄が大好きで、この曲が入っているレコードやCDを見つけると、つい買ってしまいます。
昔、この曲が入ったグレン・ミラーのレコードを持っていて、よく聴きました。 できれば、また探して手に入れたいところです。

上記の Russ Freeman の小さなレコードにも、ちゃんと入っています。 原曲はノスタルジックなムードの曲ですが、ここでは快活なアップテンポに
アレンジされていて、これ以降のピアノトリオがこの曲を演奏する場合のスタンダードになっています。 この10inch盤は Joe Mondragon のベースの
音が綺麗に録れているので、ピアノトリオとしての快楽度が高いレコードです。

DUで6,300円で転がっていました。 
ジャケットのスレが酷いものが多くて買うタイミングが難しいレコードですが、これくらいならまあまあいいかな、と思いました。 





Steve Kuhn もこの曲を好んで録音しています。 Russ Freeman 同様、アップテンポでやりますが、とても上品な仕上がりでこれも大好きです。
ベースの Harbie Swartz とのデュオで録音した作品で、個人的に Steve Kuhn の一番の愛聴盤です。

私が大学1年の時に新譜として発売されて、その時から長い間聴いてきましたが、全然飽きません。 その時のジャケットデザインのほうが
好きなのですが、何年か前に未発表曲を含めて紙ジャケで再発されたので買い換えましたが、やっぱり最初のジャケットが好きなので、
中古で見つけたらまた買ってしまいそうです。




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